ちょっと待てそこの少年
先日実家に帰ったときに、少しいいことがあったので聞いて頂きたい。
実家から少し離れた駐車場から家に向かって歩いていた。
すると、ご近所さん宅から高校生くらいの少年が出てきて、そのまま横を通り過ぎて行った。
「おいおい、ちょっと待てよそこの少年、立ち止まって一礼くらいあってもいいのだよ?」と僕は思う。
実は僕、命の恩人なのだ。
彼が5歳くらいの頃、中学生だった僕の前に、彼が現れた。
彼は早朝から一心不乱で泣いていた。
寒空をあおいで、大粒の涙が彼の頬をつたっていた。
その様子があまりにも可哀想で、そのまま通り過ぎた足を引き返し、声をかけた。
「どおしたの?」「お母さんは?」
「おうちはどこ?」
嗚咽混じりで彼は答えた。
要するに、お母さんが彼を置いて仕事に行ってしまったのだ。
玄関の鍵は閉まっていたし、車も見当たらないことを考えると、たぶん、お母さん、ブチ切れちゃったんだと思う。
それで僕は、その子を連れて最寄りの保育園に連れて行ってあげたのだ。
ほら、命の恩人でしょう?
「それをなに素知らぬ顔して通り過ぎてんだよお少年」なんて言ってみる。
と、まあ、高校生の彼を横目に、時間の流れを感慨深く感じたのだ。
おいおい、それだけの話かよ、という声が聞こえてくる、が、ちょっと待って下さい。
ところがどっこい。
この話はただのハッピーエンドには着地しなかった。
僕が彼を救った後日、まんまと悪役に仕立て上げられた母親から不満の声が上がったのだ。
「誰がテメェ虐待だあ?コラ?」
「こちとら、ちょいとスパルタでやらせてもらってんですわ」
と言うことだそうだ。
たしかにそうかもしれない。
余計なお世話だったのだ。申し訳ないです。
そう言うことがあって以来、そのご家庭とは何となく気まづくて、道端ですれ違っても顔を合わせられないままなのだ。
読んで頂き本当にありがとうございます。
楽しんでいただけたら幸いです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?