「すごく真っ当な生き方」 著:西 【星新一賞 落選!】

2020年度 星新一賞に応募し、箸にも棒にもかからなかった大作です。
noteを使って供養させていただきます。
恐れ入りますがよろしくお願いします。
私が人生で初めて書き上げたショートショートです。ダジャレが好きです。
この春こそは花見してる人を横目に、より良い作品を作ります。


タイトル:
すごく真っ当な生き方

本文:
「うわぁぁぁぁ!! ——— ……………… あれ、若い頃の父ちゃんと母ちゃんだ。それにここって、毎年夏休みに行ってた海じゃん。あの頃は無邪気で、毎日やりたいことやってて楽しかったな。これは子供の時の記憶だよな。ってことはこれ走馬灯で俺は死んじゃうのか……? お、今度は中学野球部で優勝がかかった試合の最終回、俺がホームランを打った時のシーンじゃないか! 部活は本当に毎日きつかったけど、あの時はすごい嬉しかったし、感動したなぁ。みんなは今頃何してるんだろう。次は高校の時の学園祭だ。学校の行事に真剣に取り組むのってダサいって思ってたけど、案外やってみると楽しくて、馬鹿みたいにのめり込んだっけ。何より出し物が成功した後のやりがいや達成感が気持ちよかった! そこで初めて彼女もできたし。結局すぐ別れちゃったけど。そうそう、その後大学生になったは良いものの、勉強嫌いだったから学校はほとんど行ってなかったけか。元々運動だけは好きで、飛んだり跳ねたりしてたら、パルクールの選手になっちまったんだよな。人生って何があるかわからねーな。それで気付いたら日本代表になっちゃって、家族や友達がすごい喜んでくれたし、人気者になれて気持ちよかったぁ。欲を言えばこの世界大会で優勝したかったけど、俺の失敗だししょうがない。こんな形で俺の人生が終わってしまうけど、まあなんだかんだ楽しかったし、良い人生だったかな」
ドサッ。

  ♢♢♢
「うわぁぁぁぁ!! ——— ………………」
ドサッ。田村が8メートルの高さから地面に落ちた。
張りつめた緊張感と歓声が巻き起こっていた会場は一気に空気が変わった。周りでは悲鳴をあげる人や、救急車を呼べと叫ぶ人、中にはスマホで動画を撮る人さえいた。関係者がすぐに駆け寄り脈の確認をしていた。どこを打ったかもわからないため、むやみに身体を動かすことができず、周りの人間は何かをしなければいけないという気持ちはありつつも救急車が来るのをただただ待つことしかできなかった。その場にいた人間は、改めて死というものを間近で確認し、いつか死んでしまうということを再度強く意識しただろう。程なくして救急車が到着し、田村が病院まで搬送された。
群衆から数メートル離れた位置でその一部始終を俯瞰して見ている男がいた。

  ♢♢♢
「みなさま、本日はお忙しい中お集まりいただき、まことにありがとうございます。ただいまから、株式会社ライトコレクトが今春、市場に送り出します死後快適サービス『極楽上等』の発表会を開きます」
女性司会者の一言で発表会が始まった。5000人を収容できる発表会には、面白がって参加したメディア関係者とキャッチーな商品コンセプトに興味惹かれて参加した一般客で満席となっていた。
「それでは登場していただきましょう。株式会社ライトコレクトの代表取締役である川上社長でございます。ぜひ拍手でお迎えください!」
その途端、舞台上でスモークが焚かれ、青白い光が差し、その中から川上が登場した。ハリウッドスターさながらの登場である。


「みなさん、本日はお忙しい中わざわざ弊社の新商品発表会にお集まり頂きありがとうございます。さていきなりですが、世界は非常に裕福となりました。衣食住に困る人はいなくなり、生活を送るという点で人類は満足しています。そして生活の豊かさから、宗教を信仰し心の豊かさも養いたいと考える人が増え、宗教ブームが巻き起こっています。死後も豊かでありたいという考えが広まり、雑誌やテレビ番組でも特集が組まれるほど話題になりました。ここで質問です。みなさんは何歳まで生きることができて、いつ亡くなるか予想できますか?」
川上は虚をつくような質問で人を困らせたり騙したりして楽しむ性格である。会場はシーンとしている様子を見て川上はにんまりしている。
「もちろん分からないですよね。神でもない限り死期なんて知り得ません。それではそこのあなたに次の質問です。いつ来るか分からない死に対して準備はできていますか?」
会場で最前列にいた記者が質問された。
「宗教を信仰しています」
記者の質問に対して川上が返す。
「素晴らしい! さすがです。しかし、そんな非現実的なことで満足できていますか? 心の底から信じられていますか? 死後のあなたは本当に豊かな生活を送ることができるのでしょうか?」
川上は想定していた回答が返ってきた事が嬉しく、自信満々に問い詰めている。一方記者は何も言い返せず、恥ずかしそうにしている。
「大丈夫です。みなさんが準備できていないのは当然です。今まで死後を保証するサービスは宗教くらいしかなかったのですから。ただ安心してください。本日をもってその悩みはこの世界から無くなってしまいます。弊社の『極楽上等』によって」
観客は始終ポカンとしていた。そこで川上は続ける。
「それでは本題のサービスについて説明します。『極楽上等』とは記憶に関する脳科学と、霊能力の協力によって実現した、ホラーブレインテックです。それではこの資料をご覧ください」
川上のバックに資料が映し出され、サービスの具体的な説明が始まった。簡単にまとめると次のようになる。

【はじめに】
脳科学と霊能力者の融合により生まれた、ホラーブレインテック。あなたは死後の世界に怯えることも、死後の世界で辛い生活を送ることもなくなる。キャッチフレーズは「『生きるか死ぬか』ではなく『幸か不幸か』である」である。

【概要】
・サービス名:極楽上等(極楽浄土をもじったという説明が入る)
・内容:提携している研究所や、医療機関で年に1回、施術を行う。人工的な脳波を用いて、海馬を刺激するというものである。海馬とは記憶の棚であって、この脳波によって幸福に感じた記憶を抜粋し、それらの記憶が走馬灯となって出るように調整する。そして、最大の恐怖を感じる=死を悟った瞬間、その記憶が脳内で再生されるという仕組みになっている。

【研究内容・結果】
●霊媒師による生霊へのインタビュー
・サンプル数:東京都内の生霊300位 ※インタビュー時に霊媒師によって成仏対応済
・質問内容:
①現世(人)に対して恨みや後悔があるか? YES /NO
②死ぬときに走馬灯を見ましたか?(①でNOと答えた霊のみ) YES /NO
③周りで成仏した霊について、何が条件だと思いますか? 自由記述
④亡くなられる時に、幸せな走馬灯を見る事ができるサービスがあれば使ってみたかったですか? また、そのようなサービスについてご意見があればお願いします。 自由記述

・回答結果:
①YES 35% / NO 65%   
②YES 20% / NO 80% 
③特に多かった意見「遺した家族に会うこと」「幸せを感じること」「やり残した事が解決したこと」
④特に多かった意見「ぜひ使ってみたかった」「特に理由なく生霊になっている人には有効だったかもしれない」「生前に恨みや後悔がある人には意味がないかも」「あまり興味ない」「生霊としての生活は苦しい、つらい」
・インタビューから得た見解
⑴①、②より恨みや後悔が無くても成仏しきれず、生霊となってしまっている霊が半分もいる。
⑵③、④より成仏できない大きな要因として幸福度合が関係していると考えられる。幸福度合が一定値を超えることで成仏が可能になると考えられる。
⑶④の意見であったように、やる事がないのにただ生霊でいることは非常に辛いようだ。

●脳へ人工的な脳波を送り記憶を操作する研究
技術:現在確立されている脳波情報技術(例:暑いと感じたら自動で冷房が作動する)を応用した。脳波がもっている情報を分析することで、『brain』という脳波言語を発明し、それにより海馬を操作することに成功した。詳細は企業秘密だが、現在は特許取得に向けて動いている。取得できた際には技術を公開し、『brain』で世界のブレインテックの発展に貢献していく予定だ。

実証実験:昨年日本で開催されたパルクールの世界大会でスポンサーをした。その際に一部の選手に極楽上等の施術を行い被験者になってもらった。その被験者の中で一人の男性が実際に足を滑らせて、8メートルの高さから落下した。それは日本代表の田村だった。

ここで資料が終了した。
川上が話し出す。
「それでは実際に体験した当人からお話を伺いましょう。みなさん拍手でお迎えください。日本代表の田村選手です!」
車椅子に乗った田村が舞台上に現れて、川上と熱い握手を交わした。
「今日は来てくれてありがとう、田村くん」
「こちらこそお呼びいただき光栄です」
田村は不幸中の幸いで、8メートルの高さから落ちたにも関わらず、全治1年の怪我で済んだのだった。その瞬間の映像や、周りにいた人が撮影していた動画が流された。そして田村は、足を滑らせ悲鳴を上げた直後から落下するまでに脳内で再生された走馬灯について語り出した。
「まず一言で表現すると幸せに包まれました。温もりさえ感じました。頭の中に流れた映像は、私の人生のハイライトでした。幸せな家族との思い出、学生時代の青春、日本代表になるまでの道のり。本当に生まれてきてよかった、周りの人に恵まれていたんだ、と強く感じました。ただいま流れた映像では、地面に落下するまで1秒程度しかなかったと思いますが、私はそれ以上の時間を感じました。人生で一番幸福に包まれていた時間といっても過言ではありません。今回の怪我に関して、優秀なお医者様のお陰ももちろんありますが、元々全治1年と言われたいた怪我については8ヶ月でこのように治ってしまいました!」
そう言うと田村は急に立ち上がり、舞台から観客席に跳躍した。観客はどよめいた。
「驚かしてしまい申し訳ありません。お医者様もありえない回復力だと驚かれていました。このように回復できたのは、幸せを再確認できたことの影響が大きいと感じています。川上社長には頭が上がりません」
田村が終話しお辞儀をすると、観客は湧き立って拍手を送っていた。
 その後、田村が施術を受けている映像が流れ、その様子を技術担当の社員が解説した。今後のさらなる展望や、実現していきたい未来について川上が語り、最後に質疑応答を行ってその発表会は終了した。
 
 翌日、新聞やネットニュース、ワイドショーは『極楽上等』の話題で持ちきりであった。そして契約希望の人が殺到し、コールセンターがパンク、ホームページはサーバーダウンした。予約も先1年分が埋まってしまった。会社は急いで対応可能数の増加に努めた。予想以上の反響があり川上は大いに満足気であった。
「お客さんが良い夢を見れているようで、俺も幸せだ」

  ♢♢♢
 ただ、一人この状況をよく思っていない人間がいた。それは日本のブレインテックのパイオニアである大学教授の島田であった。川上がこの分野に興味を持ち、最初に訪ねたのは島田であった。島田からすると自分の研究分野に興味を持つ人が増えるのは嬉しいことなので、持てる情報は全て与えた。共同研究を開始して1年ほど経過したが、なかなか成果が出ず二人は困り果てていた。そんな中、急に島田に川上から電話がった。
「お疲れ様。今ちょっといいか?」
「なんだかしこまって。なんの話だ?」
「急で悪いんだが方向性の違いだ、このプロジェクトを降りてくれ」
「いきなりなんだよ」
「いろいろ教えてくれてありがとう。じゃあな」
「おい待てよ。進めてた研究はどうすんだよ」
ツーッツーッ。それ以来、研究施設には入れなくなり、川上に電話がつながることも無かった。協力し情報提供や助言したにもかかわらず、恩を仇で返すような対応をされたことに島田は恨みを覚えていた。さらに極楽上等の商品発表会以降、メディアで川上はブレインテックの風雲児として注目されており、そこに対しても良く思えていなかった。

 島田が研究していたのは虫の知らせを応用した、テレパシー技術であった。虫の知らせとは、自分や親しい人の死を察知することができる能力である。これを1種のテレパシーだと仮定し、研究を開始した。そしてついに、死ぬ時に人間から体外へ発せられる微弱な脳波を発見した。その脳波が相手に思いを伝えようとした時に出るものだと判明したので、言葉を発する時の脳波を計測し、波の幅や大きさをAIに学習させた。この繰り返しにより脳波からメッセージを生成することに成功した。
 その3年後、次に研究していた、人工的な脳波で人にメッセージを伝える技術の発明に成功する。人工的な脳波を人間に向けて発信し、その脳波を受けて何を感じたかについてAIに学習させることで完成された。
この2種類の脳波を変換する機械があればテレパシーが実現すると考え、プロジェクトが動き出す。そしてプロジェクト開始から2年経った今年、あるエリアで十数名を被験者として、人がテレパシーでコミュニケーションできるかの実証実験を開始した。仕組みは、携帯電話と同じように基地局を設置し、そこで受信した脳波を変換し、伝えたい相手に脳波を発信するというものである。

 実証実験を開始して3年経ったが、思ったような成果が得られず島田は悩んでいた。分かったことは一つ、強い感情のこもったメッセージでないと基地局が脳波をキャッチできないということである。「スゴイ」「オドロイタ」というように人間が強く感じた場合は周りにも伝染するくらいの強い脳波が出るため基地局もキャッチできるのだが、「帰りに牛乳買ってきて」などの強い感情を必要としないメッセージはキャッチできずにいた。そんな鳴かず飛ばずの日々に急に転機は訪れる。研究員の一人が毎朝の日課として届いた脳波メッセージのチェックをしていた時である。
「島田さん! メッセージを受信していました!」
「お、ついに出たか。早速聞かせてくれ」
「ただ、少しおかしいんです。これなんですが」
機械には「カワカミヲユルサナイ」というメッセージが残されていた。
「おお、初めての文章だ!これで研究も進むぞ。それで何がおかしいんだ?」
「それが、この発信者情報が被験者の誰ともリンクしないんです」
「そんなわけあるか、もう一回調べてみろ」
「はい、分かりました」
再度発信者情報と照合したが特定できなかった。そして、研究員が各被験者にヒアリングを行ったが、このメッセージを飛ばした人も、川上という知り合いがいる人もいなかったのだ。この件は保留となり、引き続き実験が続けられた。日が経つにつれて、「カワカミヲノロッテヤル」「カワカミハドコニイル」というカワカミという人物に対するメッセージの受信が増えた。
島田は試しに「あなたは何者ですか」とメッセージを発信した。
翌朝確認すると「ワタシハイキリョウデス」と返ってきていた。
島田は激しく興奮した。
ここで一つの仮説が彼の頭をよぎった。元々は、虫の知らせをヒントに始めた研究であったため、この技術で霊や死後の世界の住人とコミュニケーションを取ることができるかもしれないと。そして”生霊”と”カワカミ”というキーワードにも引っかかっていた。島田は引き続きその生霊とメッセージのやり取りを続ける。
「ご返事ありがとうございます。質問があります。川上とは誰ですか? 川上にどのような恨みがあるんですか?」
「カワカミハシャチョウ カワカミニダマサレタ ミラレナカッタ」
島田の中で点が線になった。すぐに行動し、サンプルを集めるために都内に複数の基地局を設置した。その複数の基地局から得られたデータは島田の狙い通りのものであった。島田は研究員に見解を話す。
「見てくれ。私の思った通りだ。カワカミはあの憎き川上だったのだ」
「川上社長のことですか?」
「そうだ」
「なぜまた?」
「集まったサンプルは生霊からカワカミに対する強い怒りや憎しみばかりだった。生霊とカワカミといえばあの川上しか思い浮かばないだろ。それもこの数。あいつに違いない」
「おかしいですよ。川上社長は生霊となって辛い死後を過ごすことが無いように『極楽上等』を提供しているじゃないですか。生霊から恨みを買うことは無いと思うんですが……」
「その逆だ」
「その逆って…… まさか!」
「そう。『極楽上等』なんて全く効果のないサービスなんだよ。俺を急にメンバーから外したことも、方向性の違いではなく、詐欺をするときに俺が邪魔だったんだ」
「これはすごい情報ですよ! すぐに警察に持っていきましょう。」
「ちょっと待て。俺にいい作戦がある」
島田は右の口角を上げてニヤリとした。

  ♢♢♢
川上と田村がBARの個室で飲んでいた。
「社長、売上が好調のようで何よりです」
田村が接待風に川上を持ち上げた。
「いやいや、商品発表会での田村君の名演技のおかげだよ! 次は俳優を目指してみてはどうかな?」
「ご冗談を。社長の素晴らしい台本と演技指導のおかげです」
「ははは。本当に観客もメディアも思い通りになって気持ちいいことこの上ないね」
「本当にそうですよね。それにしてもお客さんを嘘のデータとサービスで騙し続けて心は痛まないんですか?」
「騙しているわけじゃないよ。俺はお客さんに夢を売ってるんだ。不安要素を排除してあげているんだ。感謝されても、されきれないくらいだよ」
「今日も川上節炸裂ですね。まあ、死んだ後のことなんて神でない限り知り得ないですもんね」
「おい、俺のセリフを馬鹿にするな!」
「すいません」
酒も入り、上機嫌で話がさらに盛り上がる。
「君の落下演出は、本当に死んでしまうのかと思ってヒヤヒヤしたよ。数メートル先で人が落ちるところなんて初めて見た。死なれちゃったらウチが困るからね」
「社長はひどいなー。僕の命のことも心配してくださいよ」
「ははは。でも日本代表なんだから、そんな素人みたいな失敗しないでしょ。君の腕を見込んでお願いしたんだから」
「それにしても8メートルは無茶過ぎましたよ。練習中に何度死にかけたことか…… もっとギャラを弾ませて欲しいくらいです」
「任せたまえ。ちょうど広告代理店とCMの話をしているんだ。期待しておいてくれ」
「さすがです! 社長一生ついていきます」
「当たり前だ。なんせ俺らは運命共同体なんだから。どっちかが潰れれば両方潰れる」
「共犯者みたいですね」
「人聞きの悪いこと言うな。まあこれからもよろしくな」
乾杯しようとシャンパングラスを持った瞬間に、二人の持っていたグラスがパリンと割れた。
「うわっ!」
「くそ、汚れちまったじゃねーか」
「お怪我大丈夫でか?」
「ああ、大丈夫だが、気分が悪い。なんて店だ、全然手入れがなってない。場所を変えるか」
「はい」
店を後にして、二人は夜の街に消えていった。
その部屋でグラスの掃除をやり終えたボーイがエアコンを消そうとしたが、エアコンはそもそも点いていなかった。
「エアコンが点いていないのにこんなに冷えてるなんておかしいな。まあいっか」
ボーイは特に気にすることもなくその部屋を後にした。

 それからと言うもの川上と田村の周りでおかしなことが頻繁に起こるようになった。最初は物が移動したり、勝手に照明やテレビがついたりと些細なことであった。それがだんだんとエスカレートし、歩いていると上から植木鉢が落ちてきたり、居眠り運転の車に轢かれそうになったりと命を失いかねないことが相次いだ。
田村が川上に電話をした。
「最近、不運が続いています。これってもしかして……」
「そっちも大変そうだな。今朝もいきなり電柱が倒れてきて下敷きになるとこだったよ」
「社長、もうやめましょうよ。これじゃ命がいくつあってももたないですよ」
「何を言ってるんだ。やめるわけないだろ。忘れたとは言わせないぞ、俺らは運命共同体なんだ」
「本当に死んじゃいますよ。幽霊とか死後とか、素人が面白半分で手を出していいものじゃなかったんですよ。それが原因で……」
「馬鹿馬鹿しい。そんなことあるわけないだろ」
「それじゃ、最近の災難は何ですか?説明してくださいよ」
「運が悪かっただけだろ」
「そんなわけないでしょ。本当にお願いですからもうやめましょうよ」
「こんなのにビビるなよ。俺はもう寝る。明日は事務所に顔出せよ」
「サイシュウケイコクダ」
女性の冷たい声を二人の電話が受信した。
「今、女性といますか?」
「俺一人だ。おい、怖いからって脅かすなよ」
「すみません、明日以降も事務所には行けません。そして今をもってこのお仕事も辞めます。失礼します」
「おい、待てよ」
ツーッツーッ。それから田村は顔を出さなくなった。

  ♢♢♢
 島田は学会に参加していた。これから発表する内容が世間に衝撃を与えると思うと、興奮して武者震いが止まらなかった。島田の順番が回ってきた。
「それでは発表を始めさせていただきます。よろしくお願いします。私はこれまでテレパシーの研究を長年続けておりました。以前の学会で発表いたしました、脳波変換器を基地局としたテレパシーの実証実験を行う研究について進捗と思いもよらぬ成果が出たので報告します。まずテレパシー について、基地局で強い感情をキャッチすることはできましたが、文章を伝聞することはできませんでした。以上です」
会場全体がキョトンとなった。全員が「え、それだけ?」と思っている。
島田は続ける。
「さて本題です。今回得た思いもよらぬ成果というのは、ホラーブレインテック領域の発見です。具体的には、生霊とのコミュニケーションです。もう霊媒師に頼る必要はありません。この技術により世界中の事件が解決されるでしょう」
「どういう意味ですか?」
聴衆の一人が質問した。
「生霊からその事件の真相を聞くのです。被害者が殺され、生霊となっていた場合はその犯人について質問すればいいですし、口止めとして殺された場合は、その事件の真相を聞けばいいです。死人に口無しの時代は終わりました」
「そこに信憑性はあるのですか? なんともスピリチュアル的で信じがたく、警察も動けないのではと思うのですが」
「そう言われると思っておりました。そこで今回、ある事件を解決してみせました。私が取り組んだのは『極楽上等』詐欺事件です」
会場がざわついた。
「結論から伝えます。あのサービスは効果なんて一切無い詐欺サービスです。なぜそれが分かったかというと、生霊からの川上社長に対する怒りや恨みが後を絶たなかったためです。生霊達は川上に対して度々嫌がらせを行いました。それでも川上社長は改心しませんでした。彼らから川上社長になんとか報復する方法は無いか相談されたので、『極楽上等』被害者の会を設立しました。そこで私が、『極楽上等』に効果が無いことや、データが捏造されたものであることの証拠を元共同研究者の権利を行使して入手し、それを警察に提出しました。今頃川上社長ではなく、川上容疑者に成り下がっているでしょう。成り下がったのではなく、元々下だったのかもしれませんが」

 ちょうどその頃、ライトコレクト株式会社のオフィスに逮捕状を持った警察が押し寄せていた。元社長の川上容疑者と幹部4名を連行しようとしていた。川上は一言漏らすのであった。
「走馬灯など怪しいものでなく、すごく真っ当なサービスを提供するべきだった」
川上はすごく真っ当に生きるべきだったのだ。


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