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アーティストがデザイン部署に配属されて感じた、アートとデザインの違い。

4月に入社した会社ではデザイン課に配属された。
端から見れば、アートもデザインも似たようなものだと会社の人は考えているのだろう。しかし、私は学部、大学院とアートの勉強をしていた為、デザインの素養はほとんどない。

「いやいや、芸術大学出てるから大丈夫でしょ?」

皆、そんな反応だったが、実際全く大丈夫ではなかった。上司も私がデザインの知識がほとんどない事を理解している為、とても丁寧にアドバイスをしてくれる。丁寧なアドバイスの為、基本的には話の内容は理解できる。しかし、いざPCで作業を再開するとよく分からなくなってしまうのだ。

「言ってることは理解できるんです。理解できるんですけど、意味が分からないんです。」

気付けばコントで出てきそうな言葉を放っていた。
話している内容は理解できるのに、本当に何も分からないのだ。唯一分かっていた事は私に対して(上司や会社の)膨大なリソースが割かれている事ぐらいだった。そんな分からなさ具合がコントのレベルに達していた私は自分自身でもこの状況に笑う事しか出来なかった。

デザインはある程度のレベルまでは知識だと言われている。確かにそれは間違いではない。しかし、知識だけではデザインは出来ない。そのデザインを知識化する感覚が必要なのだ。
上司や同期は媒体が違えど何かしらデザインの勉強をした人達ばかりだった。つまり、既にデザインの感覚を持っている人の集まりだったのだ。レイアウト、色味、言っている事が分かっても、それがどれぐらいになれば素敵で、どれぐらい外れればダメなのか、それが決定的に分からなかった。そんな状態の為、同期とは同じようなデザインの仕事をしていても、いつも私だけ手こずってしまう。時間も掛かるし、上手くいかない事に正直自分でも嫌になっていた。

一時の在宅勤務を終えて、また出社する日々が始まった。同じ大きいテーブルで作業する同期。相変わらずコントレベルの分からなさ具合は続いている。しかし、実際に同期と会話をして作業を相談をしていると、やっぱり彼女は4年間デザインを勉強してきた人である事がよく分かる。

人と比べない、という言葉はよく言われる事である。しかし、リモートワークというものは身体的経験が伴わない為、どうしても上がってくる結果だけで色々と考えてしまう。
実際、在宅勤務中に自分だけ中々作業が進まない事に、すごく悩んでいた。どうして出来ないのか?かなり思い詰めていたが、普通に考えて初めてデザインに触れた人が4年間大学でデザインを勉強してきた人に敵うはずがないのだ。

たった数日の出社で約2週間の在宅勤務中に悶々と悩んでいた事が吹き飛んだ。分からない事に関しても、ある種の諦めがついた。これは経験によって解決するしかない。

こうして日々デザインの仕事に触れていると、巷で議論されているアートとデザインの違いについて、気付く点もあった。

私はいつも作業に行き詰ってしまうと、目的の部分に立ち返る。だいたいそうすると、前提から考え直してしまうため、修正の度に全く違う制作物が出来てしまう。そんな様子に上司は勿論「毎回作り直すと、時間が掛かってしまうので、修正する所と残す所、臨機応変に対応してください」と言う。そりゃそうだ。
そんなやり取りをしていると、ふとこれがアートとデザインの違いなのかもしれない、と感じた。アートは前提を覆す、デザインは課題を解決する。だからデザインにおいて見付けた課題の前提を覆してしまってはいけないのだ。そうなると、最早課題解決どころの話ではなくなるからだ。

そんな事に気付くと、デザインとアートの違いは同じ作業でも、重要視するフェーズの違いが考え方の違いを如実に表しているようにも思えた。
例えば、傷口に絆創膏を貼る、という行為でもアートであれば、どこにどんな傷口があるという事を発見する事を重要視する一方で、デザインは傷口があるから何をするのか(この場合なら絆創膏を貼る)、という行為を重要視する。つまり、アートは課題発見、デザインは課題解決であると言っても良いだろう。勿論、各々アートとは何か?デザインとは何か?意見が異なる為、これはあくまでも一般論に過ぎない。
重要なのは、アートとデザイン、同じ行為でもどのフェーズを重要視するかで、アートとも言えるし、デザインとも言えるようになる、という事なのだ。

また別に日に上司から「大胆ですね~」と言われる。そりゃそうだ、掘ったトンネルの穴を整える人はいても、始めに穴をあける人はいなかったのだから。穴をあける事にリスクヘッジは必要でも、繊細さはさほど重要ではない。それよりも大事なのは、大胆さと勢いなのだ。上司からの言葉でそんな事を考えた。

目的!逆算!そんな事を日々意識する中で、今一番楽しい作業はコーディングの仕事である。まだ入社して間もない為、比較的突破しやすいものを用意される。大体ゴールが決まっているので、何をやるべきなのか、すぐに分かる。あー何をやれば良いのか、分かっているって事は良いことだな~と思いながら今日も会社に持ち込んだ紅茶を飲んでいる。

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