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初めての引っ越し

かねてから話をしていた家主さんに新しい家の契約書を持って行った時、恐らく来週には引っ越しが出来ると思う、と言われた。私の入居に伴い、間借りする予定のスペースを少し工事してくれたのだ。

いつか、いつかと思っていた引っ越しがいよいよ次の週末になる、と分かり、私は慌てて引っ越しの準備を開始した。バタバタと引っ越しの日程が決まった為、予定の合間を縫って家具やら、荷物をまとめる作業を行った。

そんな中、家主さんが運営している会社にお手伝いに行く日があった。その日は朝から家主さんのご厚意で羊の世話をした。羊というとフワフワしていて可愛いイメージがある。しかし、彼らも他の生き物と同様にアグレッシブで後ろ姿はふてぶてしい。特に餌に向かっていく時のスピードは凄まじく、間違って羊の進路を塞ぐような事があれば、その人は突撃されてケガをするだろう。それぐらい羊はエネルギーが大きい生き物だったのだ。
次の日は引っ越しだというのに、羊の世話をしたり、たんぽぽを摘んだりしている。なんだか不思議な感覚であった。

いよいよ引っ越しの日、日程は2日間を通じて行われた。一日目は大きな家具や荷物などの運搬。二日目はメダカやウーパールーパーなどの生き物たちの運搬だ。ギリギリに引っ越し日程が決まった為、業者に頼むこともせず、セルフ引っ越しとなった。自らの運転で自宅と新居を二往復ほどする。
バタバタと続いた引っ越し作業も二日目の午前中には完了し、ホッとする。しかし、新居は家主さんが運営する会社が管理している家を間借りするような形である為、初めは使い勝手がよく分からない。

初めての一人暮らしである事や、使い勝手がよく分かっていない事からくる心細さに最初の夜は泣いてしまった。そして、泣きながら、いつも事を起こしてから心配なこととか、不安なことに気付き始めるんだよなぁ…と思った。昨年の滞在制作前日に不安で押し潰されそうになって思わず夕食時のラーメン屋さんで泣きながらラーメンを食べた事を思い出したのだ。
しかし、人間というものは面白くて、一度泣いてしまうとそこからが案外ケロっとする。その日の夜も、出来ないことは出来ない!不安だったり心細い事はあるかもしれないけど、それは時間が解決してくれる事だ、と感じた。

とは言え、今はまだ実家が恋しくなってしまう事もある。しかし、何だかんだ新居の方に私は帰っていくのだ。引っ越しホヤホヤの時に、学部時代にお世話になった先生と飲んだ。新しい新居の話をしたら、その先生は引っ越す事や古民家に住むこと、畑をやること、それぞれがプロジェクト化しているよね、と言った。話を聞いていて、なんとなく合点がいった。
ふと、私はもう人生そのものをプロジェクト化しないとやっていけない人間なのかもしれない、と思えた。先生からは「そうでもしないと、古民家なんて住もうと思わないでしょ?」と言われ、即答で「うん」と答えてた。
たぶん、そうでもなかったら私はずっと何もせずにじっとしているだけの人だったようにも思える。これはあれだ、太宰治の『人間失格』の冒頭部分と似ている、なんて思ったりもした。

本当にこれからどうなるのだろう?自分でもよく分からないながらに、進むことだけが進行していく。そんな春、明日は入社式である。

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