災害が増えるたびに

 今年も災害の7月がやってきたと思ったら、桁外れの大雨による被害が九州など西日本各地で発生している。ここしばらくずっと雨が降り続き、電車から見える川の水位は明らかに日常のそれより高く見える。東日本でもいつ大きな災害が起きても不思議ではない状況になりつつあるのではないだろうか。

 よく、「産業革命前に比べると、地球の平均気温はすでに約1℃ほど上昇している」という言われ方をする。実績値をもとに計算したものだというが、わずか1℃でこれだけの差があるのか、と思わず首を横に振りたくなる。

 パリ協定でようやくまとまった目標が、平均気温の上昇を2℃以下に抑える、というものだが、1℃ですでにこれだけの被害が出ているというのに、人類が最大限の努力をしても1.5℃より低くなるシナリオがないという落差には、やるせなさを感じるばかりだ。できうる限りのCO2削減を行っても、気候変動の度合いが今より緩和されることはない、つまり未来は今より確実に悪くなる。

 人間は、明日が今日より良くなると信じて生きている動物だ。たとえ多少の回り道があったとしても、必ず明るい未来があるはずだ、社会全体のどこかにそんな思いが組み込まれている。そしてそれは、洋の東西を問わない。なのに科学が示す明日の姿は、必ず今より悪くなるなんて。

 21世紀後半にかけて売れるマンションをデザインするなら、地震対策はもちろん、水害に備えた造りで一階には居室がない。設備関係も高いところに設置され、暴風対策で窓にはシャッター、屋上と壁面は太陽光発電で、停電対策も万全。在宅避難ができるよう、備蓄スペースや、テレワーク用の在宅勤務スペースも。

建築資材には再生材がふんだんに使われ、商業ビルなみの環境対策に関する認証制度が一般化する。サスティナビリティ金融の発達で、そうでもしないとデベロッパーに資金を供給してくれる金融機関がいなくなるから。間に合わせじゃなく、再生材の品質管理も真剣に行われるようになるんだろうなあ。地震大国だから、なんていう理屈で再生材を忌避するようなビジネスはもうできなくなる、ことにどれだけのゼネコンが気づいているか。

災害の増加は、これまで人気のあった物件の価値にまで影響を及ぼす。ウォーターフロントのタワマンは、考えてみればリスクのカタマリ。中古市場では人気がなくなるかもしれない。
悪くなるなら悪くなるで、その変化を読み切ってビジネスのネタにする、それくらいのしたたかさがないと、たぶん21世紀後半は生き残れない。考えてみれば人類の歴史も、そんな場面の繰り返しだった。

そんなことを妄想しながら原稿を書いている今も、絶え間なく雨が降っている。本当に今年の7月は雨の月。暑さが和らぐのは確かにありがたいけれど。豪雨の影響でまたぞろ野菜も値上がりするのだろうか。

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