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継 父 と 暮 ら せ ば 【1/5】

 あたしは働くのがイヤで仕方がない。

 だから、大学を出てから、ずっと家でぶらぶらしている。
 人がなぜ人生にやりがいだの目標だのを求めたがるのかが、全然理解出来ない。
 みんな何かに追い立てられて生きている……誰も追い立ててやしないのにだ。

 まったく馬鹿馬鹿しい。

 物心つく前から、先へ進め先へ進めとやかましく言われて、小学校、中学校、高校、大学と慌ただしく過ごして、社会に出てはさらなる自己実現を求められ て、気が付けば年老いて全ては後の祭りになっている。

 そして、自分の人生を振り返って思う訳だ……あの時、あいつのせいで、人生が狂ったとか、夢を諦めた とか、なんとかかんとか。

 あたしの場合、12の時に母が死んだことは大変都合が良かったと言える。

 母はあたしの人生を、まるで自分の人生であるかのように、完全にコントロールしようとした。

 多分あのまま母が生きていれば……あたしもほかの誰かと同じように、無駄な人生を過ごしていただろう。

 そして、それを母のせいにしていただろうと思う。
 

 母の実家はとても貧しく、少女時代の母は凄く苦労したという……

 母はその苦労話を、まるで自分の財産でもあるかのようにあたしに相続させようとした。

 母 の人生はすなわち、今更どうしようもないことに対する愚痴や繰り言を言うことに費やされたと言ってもいい。

 あたしも相当うんざりしたけれど、子どもは母親 を選べない。

 あたしは大人しく聞いていた……母の気が済むまで。
 
 子どもは母親を選ぶことが出来ないし、母と娘の縁を切ることは結構大変だったけど……夫婦の縁を切ることはそれよりずっと易しい。

 そんな訳で、あたしの 本当のお父さんは、あたしが10歳のときに、母から逃げ出した。 

 まあそのつまり、離婚した訳だ。
 

 あたしは実のお父さんのことが好きだったか?
 ……さあ、正直言ってよくわからない。多分、母よりはマシな人だったと思うけど、なんかものすごく印象が薄 いのだ。

 だいたいあまり家に居なかったし、二人で遊んだりした記憶もない。
 多分、ほんとうのお父さんは、母のことはもちろん、母が居る家庭がイヤでイヤで 仕方なかったんだろうね。つまり、あたしのことも含めて。
 

 そんなこんなで母はお父さんと離婚したけど、最短の1年ですぐ再婚した。

 当時、11歳だったけど、信じられなかった。
 あんな母みたいな女と、しかもあたしみたいなコブがついてるっていうのに、それでも結婚したがる人が居るな んて。
 
 とにかく母と再婚した男性……つまり今のあたしのお義父さんは、信じられないくらい優しくていい人だった。

 よくあるでしょ?

 新しい母の再婚相手に娘が反発を抱いて“あんたなんかほんとうのお父さんじゃない!!”とか言うメロドラマみたいな話。

 ああいうのは全然なかったね。
 
 とにかくお義父さんは優しかった。
 お母さんはさすがに猫被ってたね。

 3人で一緒に暮らしたほぼ1年間は……気持ち悪いくらい幸せだった。

 まるでずっと昔のテレビドラマみたいに。
 
 で、お母さんは猫被ったまま、癌で死んだ。
 ほんとうに短い結婚生活だった。
 
 お母さんは22であたしを産んだから、死んだときは34歳。
 まだまだ若くて綺麗だったと、娘ながら思う。

 その中身は、とんでもなかったけどね。
 
 お義父さんはその時41歳。ものすごく、落ち込んでるのが判った。
 見ていて気の毒になるくらいに。
 
 母のお葬式の日、あたしは泣いた。
 
 いちおう人並みに娘らしく涙を流してみせたけど、それがあまりにも打ちひしがれたお義父さんが、可愛そうで仕方がなかったからだ。

 しかし……得だよね、お 母さんも。
 ネコ被ったまま死んじゃうなんてさ。

 絶対、あと、1年も生きてりゃあ母の本性が露わになって、お義父さんもそれにうんざりすることは目に見えていた。

 母はずる賢く、利己的で、ほんとうに厭な女だった……
 それは娘のあたしが一番よく知っている。

 それを綺麗な思い出だけ遺して、死んでしまうなんて……まあ、母らしいといえば母らしいけど。
 

 出棺のとき、棺桶に泣き縋るお義父さんに寄り添って、あたしははっきりこう言ったのを覚えている。
 当時12歳だったけど、あたしは自分で自分を誉めてあげたくなるくらいしっかりしていた。
 
「……お義父さん、大丈夫だからね。お義父さんには、さゆりがついてるから」
 
 お義父さんは泣きながらわたしを抱きしめた。
 
「ありがとう……ありがとう……」と何回も繰り返しながら。
 
 母はそのまま火葬場へ運ばれて、灰になった。

 火葬場の煙突が煙を吹いている間、あたしはそれをぼんやりと見上げていた。

 お義父さんは少し離れたところで、親戚の人に励まされながら泣いていた。
 どう のこうのとお義父さんに声を掛ける親戚の連中を見てると、ほんとうに虫酸が走った……

 連中は、単に悲しみのおこぼれに預かりに来ただけだ。
 バカバカしい。ほんとうに辛いのはお義父さんなのに。
 
 母はどんどん煙になって空に登っていく。
 
 こんなことを言うとなんだけど、あたしの気分は晴れ晴れしていた。

 さようなら、お母さん。

 お母さんの小さいときの苦労の記憶も、お母さんの躰の中を満たしていた憎しみも、嫉妬も、コンプレックスも、同じように空に登っているのだろう。

 とにかく、あたしの人生から母は消えた。
 
 お義父さんは入れ替わり立ち替わりやってくる親戚の激励に、泣きながら応えている。
 
 とりあえず、お義父さんのことは任せてね、とあたしは登っていく煙に心の中で呼びかけた。

「うーん……」

 あたしはベッドの中で思い切り朝寝坊をしていた。

 まあ毎日ブラブラしてるんだから、日曜日も何もあったもんじゃないんだけどさ。
 すると、部屋にお義父さんが入ってくる気配がした。
 
 ああ、またか、とあたしは思った。

「さゆりちゃああああああああ……ん」猫なで声で、お義父さんがあたしのベッドに入ってくる。「おっはよお………」

 いちおう歯は磨いてきたみたいだ。
 
 先週、起き掛けの臭い息で布団に入ってこないでって、釘刺しといたから。
 お義父さんはあたしの言いつけは何でも守る。

「んん……まだ眠いよおお」

 あたしはわざとお義父さんに背を向けた。

 実際眠かったし……なんかここんところ、毎日曜日の朝にこうやってベッドに潜り込んでくるんだもの……ちょっとあたしはウザくなっていた。
 
 お義父さんは歳が歳なものだから、その……あれが夜、あんり使い物になんないこともあるのね。

 で、まあその……朝、その部分に元気があって、使い物になりそうなのを見計らうと、あたしのベッドに潜り込んでくるわけ。

 なんというか……浅ましいって言うと可愛そうだけど、悲しいよね。

 男って、基本的に悲しい。
 
「ほら、さゆりちゃん、パパ、もうこんなになっちゃってるよ」そう言って、お義父さんはあたしのパジャマの尻に固くなったあれを擦り付けてきた。「……ほら、さゆりちゃんも、一週間ぶりで溜まってるでしょ?」

「あたしがあ?」あたしははじめて寝返りを打って、お義父さんの顔を見た「なんでそんなことわかる訳?あたしだって、もうそれなりの歳なんだからさ、お義父さんが会社行ってる間に、あたしが何もしてないってお義父さんに何でわかんの?」

「……って……ちょっと、ちょっと待てよ」お義父さんは真顔になった。こういうところが、たまらなくかわいい。「……なんだよ……まさか……男が、男ができたのか?」

「できるとおかしい? ……だって、あたし、もう22だよ」

「だ……誰だ? 相手は………あ、あいてはどんなやつなんだよ?」
 
 完全にお義父さんはマジになって、さっきまでびんびんだったあれもみるみる萎んでいった。

 こうやっていつも、あたしはお義父さんをからかうのが好きだった。
 あたしは毎日曜日こんなハッタリをかましては……お義父さんを慌てさせる。

 まあ、それはあたしにしてみれば、前戯の一部みたいなもんだった……あんまりお義父さんが本気になるもんだから、ついつい意地悪でやってしまう。あたしはそれがおもしろくて仕方ない。
 
「……どんな奴なんだよ?ええ?どんな奴なんだよ?」そう言いながらお義父さんはまた亢奮して鼻息が荒くなってくる「……いったい、どんなことしたんだよ?」

「……聞きたいいい?」あたしはそう言ってお義父さんの首に手を回す「すっごいことされちゃった………あんなやり方もあるんだねええ……あたしもやっぱ、世間知らずだわ」

「………なんだよ……何されたんだよ……? 言えよ……教えろよ!」
 
 あたしはさらにウソ八百を並べる……路地に連れ込まれて、スカートをめくりあげて、パンツを降ろされてヤられちゃったとか。

 トイレの個室で、口を押さえられながら前から挿れられちゃったとか、車の中で、たっぷり指でぐちょぐちょにされちゃったとか、その他いろいろ。
 
 まあ、あたしも想像力豊かなほうだから、次から次へとそんなデマカセが出てくるわけ。
 
 お義父さん、顔真っ赤にしてさ、それでも下の方は、しっかり回復してんの。

「ちくしょう! ………このインラン娘! ……いったい誰がおまえをそんな風に育てたんだ!!」

 とかなんとか言って、あたしのタオルケット引き剥がして、パジャマのズボンを一気に脱がせる。
 誰がこんなインランに育てたんだって……そりゃ、あんただろ、って言いたいとこだけど。

 そのへんは「あんっ!」とか言ってしおらしく四つん這いになってあげたりする。

「ほら、握れっ!」

 と、お義父さんがあたしの手を後ろに引っ張る。
 これ、お義父さんは大好きみたい。挿れる前に、あたしの手にアレを握らせるのが。

 すでにお義父さんは下半身裸になってて……いつものことだけど……握らされたあれは呆れるほど固くて熱かった。いくらその……朝勃ちっての?……それに頼ってるとはいえ、お義父さん、もう50だからねえ。

 はっきり言ってすごいよ。その硬さと熱さは。
 
 ほんとのこと言うと、あたしはお義父さん以外の男とセックスしたことない。

 だから、それが人より固いんだか、熱いんだか、太いんだか、長いんだかよく判らないけれど……いつもながら、その硬さと熱には圧倒される。
 
「んっ……」

 お義父さんがあたしのパンツをつるん、と脱がせた。
 せっかちに、あたしのお尻の間に、お義父さんの指が入ってくる。

「うっ………んっ……」

 あたしは枕を噛んだ。お義父さんの指責めはいつもしつこい
 お昼まで続くんじゃないかと思うことさえある。
 お義父さんはゆっくりと……指を出し入れしはじめた。

 あたしのほうはしっかり濡れてて……
 お義父さんの指はあたしの中をスムーズに出たり入ったりする。

「………やらしいなあ……さゆりは………いつもこんなに濡れちゃうんだから………で、どうだったの、その相手の男。こんなふうに、指でしてくれたの?」

 いかにも50のおっさんがこういう時にいいそうなセリフなんだろう……詳しくは知らないけど。

「……ん………あ…………ってか………もっと……激しかった………よ」またあたしはハッタリをかました。こうなってくると、そんなウソもサービスのひとつだ。「………なんか、めっちゃっくちゃに………かきまわされちゃった……すっごい………音が出て、溢れちゃうくらいに」

「……くそう!!!」お義父さんが唸るように言う「こうか? ……それともこうか???」
 
 お義父さんはめちゃくちゃに指を使った。
 あたしの穴から、あふれてくる愛液を掻き出すみたいにやらしい音を立てて。

 あたしのお尻は上下に跳ねた。
 あたしはご近所さんに日曜の朝から淫靡な声を聞かせるわけにもいかないから、必死に枕を噛んで声を堪えた。
 
 実際、すっごく良かった。
 
 あたしが毎日曜日、お義父さんにデマカセを話して聞かせるのは、あたし自信がお義父さんにそういうことをして欲しいからだ。

 ……だって、もうこんなにグダグダになっちゃってるけど、いちおう義理の父と娘の関係なわけだからさ。

 いきなり、娘のあたしが、“指突っ込んでめちゃくちゃにかきまわしてよ”って有り体に頼んだりすると、さすがのお義父さんもヒくと思うんだよね。

 だから、あたしなりに気を遣って、こういうことをしてるわけ。これも親孝行なのよ。
 まあ、お義父さんをからかうのが楽しいってことの方が大きいのは事実だけどね。
 
「……どうだ、さゆり、………こんなにケツ振りやがってこのインラン娘」なんか、お義父さんに“インラン娘”って呼ばれると……すごく亢奮した……自分でもヘンだってのはわかってるけど。「………挿れてほしいだろ?」
 
「んっ………」お義父さんは、いつもあたしにそれを言わせようとする。まあ、別にいいけどね。あたしも自分で言うのはそんなに嫌いじゃないし「………挿れて………よ」

「よおし……」
 
 そう言ってお義父さんはベッドから立ち上がると、あたしの化粧台からコンドームをそそくさと取り出した。

 さすがに、いくら他人とはいえ、戸籍上、父と娘の間に子どもができただマズいから。
 あたしはお尻を高く挙げたままで待った……お義父さんがごそごそしているのがわかる。

 さすがにいつも、この時ばかりは胸がドキドキするね。
 
 でも……なかなかお義父さんはベッドに戻って来なかった。
 
 あんまり父が待たせるので、あたしはお義父さんを振り返った。

「え、どしたの…………?」
 
 お義父さんは下を向いて、しょんぼりしていた。

 見ると……なんとまあ、あんなにも固くてつっぱっていた……アレが、気の毒なくらい萎んでいる。
 
「……さゆり……悪いけど………………ちょっとお義父さん、今日、調子悪いみたいだ」

 お義父さんはあたしの目を見ずにそう言うと、装着できなかったコンドームをゴミ箱に捨てると、のろのろとパンツとズボンを履いて……あたしの部屋を出ていった。
 

 って、どういう訳よ?
 

 あたしはそれで収まる筈もなかったので、布団の中で指を使ってその続きをした。
 なぜかすこし、悲しい気分になった。

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