義弟は超ダメ人間だけどアレはでかい【前編】
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「うまいっ! うまいっすよ! お義姉さん特製のハンバーグ!」
と、今年27のわたしより3歳年上の男が、食卓で大飯を食らってる。
なんで? なんでこんなおっさんにお義姉さん、なんて呼ばれてるのわたし。
ダンナは渋い顔でうつむきながら、自分の弟に言う。
「で隆文、お前なあ……仕事見つかったのかよ。てか、真面目に仕事探してんのかよ?」
するとその男……ダンナの弟・宗一はチェッ、とあからさまに舌打ちをして、あからさまに不貞腐れた。
イイ歳して……マジでキモすぎなんだけど。
「探してるよ……でも、なかなかいい仕事なくてさあ……この歳だし」
「この歳って隆文お前、まだ30じゃないか。あるだろ。仕事くらい。選ばなきゃ」
そうだよ、とわたしは思った。
あんたの兄貴だって、選んで今の仕事やってんじゃねえよ。
わたしだって選んで今の週4のパートやってんじゃねえ!
「一生のことだしさあ……もっとしっかり、じっくり選びたいんだよね……」
「いや、とっとと選べよ! てかお前、ウチに居候すんの、仕事が見つかるまで、って話だったよな? お袋が“お願いだから”って手までついて頼むから、仕方なく俺ら、お前を家に置いてやってんだよ! いつまで居るんだ? ウチに? いつになったら仕事見つけるんだ? 一日も早く見つけろ! 一日も早く!」
いやダンナ、よく言った。
って一瞬、心のなかでダンナ褒めそうになった。
てか、今になってキツく言えるんだったら、実家のお母さんにこの穀つぶし押し付けられたときに、ビシっと断ってほしかったんだけど。
なんであたし、こいつのぶんのご飯まで作らされてんの?
「……ちえっ……ハイハイ、わかりましたあ……」
と、舌打ちをしてふくれっ面をつくる30男。
え、ほんともうマジでなに? この反応。
ちょっとキモすぎるんだけど。
てか、もう耐えられないんだけど。
「でも義姉さん! このハンバーグ、マジうまいっす!」
「は、はあ……」
え、ほんと、褒められてもぜんぜん嬉しくないんだけど。
てか、いい歳こいてハンバーグ好きとか、ほんとコドモ?
「ごまかすんじゃないっ!」
ダンナはガチで怒っていた。
というか、ダンナははっきり言って義弟のことを嫌っていた。
というか、憎んでいた。
確かに……夫の弟でわたしの(年上の)義弟、隆文は、夫に比べて見てくれはいい。
ハンサムではないが、細い目を細めてヘラヘラと笑うその薄味のその顔は、可愛げがある……のかもしれない。少なくとも、義理のお母さんには。
あまり見てくれがよくないうちのダンナよりも、義母は隆文をお気に入りらしい。
そんなわけで……目の前で義母の愛を一身に受けて育てられた義弟に、ダンナにはムカついて仕方がないのだろう。
「ほんと、兄貴……いちいち口うるさいっすよね? 義姉さんも大変じゃないっすか? ……細かいことグチグチグチグチグチグチと……」
「あの……えっと……」
いや、ダンナよりわたしのほうがあんたにムカついてるよ!
だってわたし、他人だし!
あんたのことなんて、結婚前に1~2回会った(うち一回は結婚式)だけでよく知らないし!
「いいか、今月中、今月中に仕事決めろ。で、出ていけ。迷惑なんだよ! ほんと、ガチで迷惑なんだよお前! わかってんのか?」
ダンナがガチギレする。
だからさ……お義母さんにこいつ、押し付けられたときにちゃんとキレてよ。
「いーじゃん、兄さんとこ、まだ子どももいないんだし……賑やかなほうがいいっすよねえ? ねえ? 義姉さん!」
「あは、あははは……」
わたしは力なく笑った。
なんかもう、笑うしかない。
なんなのこの男……いい歳して……ほんと、ほんっっっとに迷惑。
ダンナは義弟に小言を続けた。
義弟はちっとも聞いていない。
わたしも、ダンナの言ってることが耳に入らなかった。
なんかもう……わたし、悲惨。
■
その日はパートのない日だった。
ダンナは仕事で、義弟は仕事を探しに行って……んだか行ってないんだかわからないけど、とりあえず家にいなかった。
いくらなんでも赤の他人の男と家で二人きり、なんてのはわたしも絶対にイヤだ。
そのへんはあの絵にかいたようなアホの義弟も、多少は気を使っているようだ。
ダンナがいないときは、なんだかんだ理由をつけて、家を空けるようにしているらしい。
「はあ……もう、かったりい……」
ダンナは家事にまったく協力的ではない。
だからパートのない日、わたしは掃除に洗濯に大忙しだ……
てか、なんでわたし、居候の義弟のパンツとか洗ってんの?
なんなのこれ。奴隷?
全部家事を終えたのがだいたい3時くらいだった。
わたしは、リビングのソファにべったりと崩れ落ちた。
「ああ……疲れた……もう、マジで最悪……」
疲れがどっと出た。肉体的な疲れはもちろんだけど、他人とは言えダンナの親族が同じ家に暮らしていることで、わたしは当然、気を遣ってる。
なんといっても年上の男だ。
性別はオス。
ダンナと二人で家にいるときみたいに、着替えをするのもお風呂に入るのも、いちいち気にしなきゃならない。
お風呂上りのパンいちで首にバスタオルかけておっぱい放り出して、リビングでビールラッパ飲みしながら、
『かあーっ! さいっこうっ!』
とかできない。
で、そんなわたしをテレビを観ながらビール飲んでるふりしていたダンナがチラチラ横目で見て、やおら立ち上がったと思うと、
『へっへっへっ……奥さん、いい身体してますぜええ……』
とかスケベ面丸出しで寄ってきて、わたしも「きゃあっ!」とか言いながら、結局リビングのソファでヤっちゃう、なんてこともできない。
そう、デキない!
あのクソ義弟が居候して2か月、一回もダンナとシてない!
デキるか! わたしにとっては他人の男が家にいるのに!
わたしのイライラはマックスに達していた。
パート帰りにジムで汗を流して発散したりするけど……スポーツで邪念を発散するのにも、限界あるよね?
わたしがしたいの、セックスなの。スポーツじゃないの!
とかいろいろ考えていたら、いつの間にかわたしは眠り込んでいた。
で……情けないけど、見たのはエッチな夢だった。
わたしが寝ていると、遅く帰ってきたダンナがベッドに忍び込んでくる夢。
『ううん……』
『寝てる? 起きてる? ……ただいまあ……』
わたしは実は起きてるけど、寝てるフリをする。
実際、半分くらい眠り込んでいたので、眠いんだけど。
実際に眠って夢を見ているのに、夢のなかで眠いなんて妙な感じだ。
するとダンナがいきなり、勝手になんか催してきたらしい。
わたしのお尻に、硬くなったズボン前をぐりぐりしてくる。
『奥さん……最近、溜まってんじゃない? セックス不足でしょ? ……ほら、ほら……』
『んんっ……眠いよお……んっ』
『ほら……寝てる場合じゃないよ……ほれ』
ダンナの手が、わたしのパジャマ下に滑り込んできた。
パジャマどころか、パンツの中までもぐりこんでくる。
ダンナの熱い指が、わたしの入り口をなぞる。
『んんっ……だ、だめ、だってばあ……わたし、眠いんだってっ……ん、んあっ!』
合わせ目の、感覚が集中する部分を捉えられた。
指先がわたしの快感を掘り起こそうと、じわ、じわ、といやらしく動く。
当然だけど、その段階でわたしはかなり濡れている。
『ほれ、ほれ、ほれえ……濡れてますぜ奥さん……腰が動いてますぜえ……』
『い、いやっ……だ、だめだってばっ……ね、眠いんだってばっ……』
とか拒否の言葉を吐きながら、わたしは夫の指技(笑)に負けて、腰をいやらしく動かし始める……もう、たまんない。
わたしはくるっと身体を反転させて、夫の首に両腕を回す。
そして、夫の頭を引き寄せて……その唇にむしゃぶりついた……
「あ、ああっ……ね、義姉さんっ……」
「んっ……んんっ……むっ……え? あの、え? え?」
そこで、目が覚めた。
めちゃくちゃ目の前にあったのは、ダンナと違う細い目。
薄味の顔。
ダンナの義弟……隆文の顔だった。
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