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エスカレーターの話

皆さんはエスカレーターの歴史知っていますか?

エスカレーターはかつて、JIS規格品にて長さや幅、速度、色までがすべて定められており、少しでも規格と異なったエスカレーターを設置すると、設置業者は法に基づき罰せられていたのです。

今回はそんなエスカレーターのお話、簡単に紹介したいと思います。


①エスカレーターの歴史の話

本邦のエスカレーターの歴史は大変古く、1914年に銀座・三越呉服店に設置されたエスカレーターが国内初のものとして知られています。

当時の三越呉服店は東洋一と謳われたほど豪華絢爛、地上5階、地下1階建て、入口すぐ正面にエスカレーターを配置する構造は大衆の目を引き、当時はこのエスカレーターを取り上げた俳句も読まれたほどです。

しかしながら、1923年の関東大震災にて三越呉服店は失われてしまい、次なるエスカレーターの設置された建築物は戦後まで待つこととなります。

②大阪は左、東京は右。

1954年に大丸東京店の開店、1957年に阪急百貨店うめだ本店の本館改修工事を経てエスカレーターが設置されます。
当時は皆自由に乗っていましたが、次第に効率よく人を運ぶことが重要視され、「大丸東京店」で右側、「阪急百貨店うめだ本店」で左側を空けるように周知した結果、それぞれの地域でのスタンダードとなっていきます。 

③エスカレーターで天井の高さが決まっていた

当時のエスカレーターは、長さ、幅、速度、色までもが統一の規格で作られておりました。
エスカレーターの長さや幅を変えて生産することは、モーターの出力安定化やベルト部分に対する技術的な制約から困難であったことから、安全のためにJIS規格化され、統一の仕様で生産されます。
また、規格のために、エスカレーターを設置することが見込まれる施設は、床面から天井までの高さ(エスカレーターで移動する距離)を統一する必要があったのです。

この時代の比較的歴史ある建築物の天井が低いのは、こうした事情があったために、天井高が2.2mで建設されています。
エスカレーターが建物の高さや構造を規定していたのです。

④発想の転換、エスカレーター交換休業から上下・裏表交換方式へ

1950-1960年代に敷設されたエスカレーターは、1970年代頃から経年劣化等から交換の時期を迎えることになります。
エスカレーターは片側をあけて使用することが常態化していたので、必然的に片側から設備が劣化していきます。
当時のエスカレーターは大変高価であったため、関東と関西でエスカレーターの部品をそっくりそのまま入替え、左右の消耗を均等にすることで延命化を図りました。大丸や高島屋など全国区に店舗を構える百貨店では、エスカレーターの消耗具合を把握し、一斉にエスカレーター交換休業を行い、系列店舗のエスカレーターをまるごと入れ替えていました。
エスカレーターが4トントラックに積み込まれて運ばれていく当時の様子は、圧巻であったと多くの人が語ります。

1970年代も中盤になると、東芝による上下・裏表交換方式が普及していきます。わざわざ莫大な輸送コストをかけて全国でエスカレーターを交換せずとも、上りと下りのエスカレーターの部品を交換すれば済むことに気が付きます。また、コンベア部分の裏表をひっくり返せば、劣化部分を反対にして継続利用できます。
この上下・裏表交換方式は爆発的に広まり、当時の東芝はこの発明・普及により全国発明表彰を受賞します。

⑤OTISによるオーダーメイド生産

1980年代に入ると、OTISによるエスカレーターのオーダーメイド生産が始まります。
これは大変画期的な発明で、これまでエスカレーターに規定されていた建造物にとって、ひとつの技術的なブレイクスルーでもありました。

オーダーメイド生産方式とはその名の通り、これまで長さ、高さ、幅等すべてが統一された規格しかなかったものから、必要な場所、高さ等に応じてエスカレーターの長さ等が変えられるようになったのです。

床面から天井までの高さも2.2mで規定される必要ななくなり、天井高の高いゆとりある建物が増えていきます。

江の島エスカーや羽田空港の複数階層をまたぐエスカレーター、東京駅の地下にある短いエスカレーターなどもOTISによるオーダーメイド生産方式です。


⑥現代に残る規格の名残

一方で、現代まで残る規格の名残もあります。現在では特段法的な規格があるわけではないですが、当時の名残をなんとなく踏襲しています。

◯横幅は2人分まで
◯商業施設の手すりの色は黒または赤
◯エスカレーター上昇速度は2.88km/hまで

他にも色々あるので、皆さんもぜひ調べてみてください。枚挙にいとまがありませんが、かつての規格を思い馳せながらエスカレーターに乗るのも悪くないですね。

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