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【食|酒】バーの楽しみ方7 チェーサーをオーダーする?

ウイスキーのお話しの最後に、チェーサー(チェイサー?)について少し。

日本のバーで言うチェーサーは、ウイスキーなど主に蒸留酒をストレートで飲む際の口直しみたいなもののことで、大概黙っていても水が出てくる。

そもそも「chaser = 追うもの」であり、メインの酒の後に追って飲むもののことを指すだけで、特に種類にも用途にも決まりがあるわけではない。


メキシコ料理店長のホルヘ君は、店の営業が終わるとライムと塩を舐めながらテキーラをやるのが毎日の愉しみだが、その時のチェーサーは常にトマトジュースである。ストローハットというボクの好きなカクテルはテキーラのトマトジュース割りだが、彼曰く別々に飲む方が身体に良いのだそうな。


イギリスやドイツなどビールの一大生産国では、ビールを追って飲む蒸留酒をチェーサーと言うのだそうで、生粋のミュンヘン娘ザビーネちゃん(45才)は、ヘレス(ドイツの淡色のビール)で冷えた胃を、シュリヒテ(ドイツのジン)で暖め、またヘレスで冷やすを繰り返すと無限に飲めると豪語していた。医学的根拠は知らないが真似は止めてみようか。誰も無限には飲めません。


また最近誰が言い出したか知らないが日本酒界隈では「和らぎ水」などと言って酒の合間に水を飲んで口直しや悪酔い防止を図るようなものを推奨する動きがあるようだが、なんとなく販売作為的なものが感じられ個人的に好きではない。


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かように各国の文化や習慣、個人の嗜好でチェーサーの意味も異なってくるのだが、日本では一般的にチェーサー = 水で認識されており、ほとんど注目されることはない。

これはおそらく日本人の酒へのストイックさへの憧れがもたらしたものではないかと推測される。

ひとつは、日本では古来より、塩をツマミに酒を呑むという風な、酒に対してどれだけストイックに向き合うかが尊ばれる向きがあり、そこに「和らぎ水」などはまさに水を差す話である。

またひとつは、日本では戦後のウイスキー販売解禁となる1950年頃、多くのハリウッド映画が日本で上映され、中でもフィルム・ノワール(犯罪映画)では作中、ボギーのような苦み走ったイイ男が飲むのは常にハードドリンクであり、そこにチェーサーなど軟弱なものは描かれない。

きっと戦後高度経済成長を支えたビジネス戦士達の、ハードボイルドと酒へのストイックさへの憧れが、チェーサーなどを気にかけない、日本のオーセンティックバーの空気を作ったのではないか。

などというボクの勝手な推察はこの場には相応しくないか。


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そのため依然として日本のオーセンティックバーでは酒に対しストイックに振る舞うことが格好良いと写るシーンもあり、ウイスキーのチェーサーにジュースを頼んでしまうと、なんとなく卓上の見立てが格好良くないし、ウイスキーonビールの場合は「酒に意地汚い」と見られることもある。

こんなものは一部の酒飲みの偏見とはわかりつつも、ダンディズム的には間違っていないような気がする。

どうしてもビールが飲みたくなったら、ウイスキーとウイスキーの合間のオーダーでサッと喉を潤すか、ビールをガブ飲みしたければ居酒屋に河岸替えをしよう。

日本ではチェーサーはチェーサーである。ウイスキー先輩の邪魔をしないように飲みたいものである。


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しかしこのチェーサーにもこだわりを持ってみると楽しみが拡がるのも確かだ。

ボクの行きつけでは酒の頃合いを見計らってコンソメスープを出してくれ、それで締めるも良し、もう一杯飲むも良しの最高のチェーサーとなっている。

またアイラモルト、特に〈アードベッグ〉のチェーサーに関しては〈ウィルキンソン〉のジンジャーエールを氷なしでお薦めしたい。これはこれでまた強いジンジャー味と強い炭酸で、割とエグい味ではあるが、酒との親和性は高い。

あとこれはバーで頼むことはないが、ウイスキーにはコーヒーが合う。ただこれだとウイスキーがメインなのかコーヒーがメインなのかよく分からなくなってしまい、飲み方としては大層格好良くないので外ではあまりお薦めしない。


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格好良くも悪くもダンディズムは結局己が規範である。まわりに迷惑を掛けず、こだわりを持ちそれを貫くのは気分の良いものである。

一度はチェーサーにも目を向けて、酒との組み合わせを探求するも良し、それでもストイックが優れば引き続きチェーサーに無関心を装うも良し、ぜひ自分スタイルを追及していただきたい。

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