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【食|思い出飯】貧乏飯とモヤシ
ここ数年在宅ワークが通常運転となり、家での食事機会が増えるとともに、料理をする機会も格段に増えた。
そんな中、ふと若かりし頃の、所謂、貧乏飯の数々を思い出し、久々に作ってみようと早速モヤシを買いに走った。
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若い頃はどれだけアルバイトをしても、夜は必ず飲みにいくものだったから常に懐が寂しい状態であって、家では米と乾麺さえあれば生きていけるという食生活を送っていた。
これは大概の一人暮らし経験者に当てはまると思うのだが、そんな経験を経て皆、チャーハンや丼もの、スパゲッティ、あとモヤシ料理に一家言持つようになるのである。
そしてやり続けると極めたくなるのも人の性で、食材は乏しいくせにいつの間にか調味料が充実するという、一品仙人のような台所になりがちである。
また後に家庭を築いてから、たまに昔取った杵柄で、こだわりのスパゲッティなんぞを家族に振る舞おうと買い物に出たはいいが、普段は使わないハーブ類やら調味料やらを大量購入して嫁に叱られるというのも、ままある光景ではないだろうか。
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ボクも若い頃から様々な料理に挑み、大学時代には既に、大概の貧乏飯部門では金をとれるレベルの味に達していたのだが、定番食材であるモヤシについては卒論以上に研究時間をかけたにも関わらず、ついぞ満足行く仕上がりにならず先に卒業を迎えることになってしまった。
もちろんここで言うモヤシは、大鰐温泉モヤシや、深谷モヤシといったブランドものではなく、1袋30円未満のスーパーにあるモヤシ達のことである。
彼らは安価なため侮られがちだが、適切な火入れで仕上げるとシャキシャキとした歯ごたえに加え、味も香りも強く、充分主役になれる食材である。
そしてボクの長年の研究からすると彼らを一番美味くするのは中華の手法であり、その中でも一番は?と更に強く答えを求められたら「モヤシ餡掛けご飯です!」と即答する。
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モヤシ餡掛けご飯。
わかりやすく言うと、中華丼の具材がモヤシだけ、という聞くだに貧乏臭い料理なのだが、中華餡の味付けとモヤシの火入れを誤らなければ間違いなく美味く、餡掛け界において具材一つでこれほど満足感を得られる食材は肉とモヤシを除いて他にはない。(検証済み)
ただこのモヤシ餡掛けご飯に本格的に可能性を見出したのは、葱姜水(ツォンジャンスイ)を知ってからであり、残念ながらそれは社会人になってある程度金にも不自由しなくなってからであった。
葱姜水は字の通り、白ネギの青い部分と生姜を水に入れ、ワシワシ揉んで30分ほど漬けておいた、成分の滲み出た水のことである。
これを料理に入れると、とたんに料理に中華屋ぽさが演出されて、中華餡は一気にプロぽい味に仕上がる。
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まずフライパンにニンニクみじん切りとゴマ油を敷いて火にかけ、香りが立ったらモヤシを投入。
あとは醤油、オイスターソース、鶏ガラスープ、砂糖、味の素、葱姜水で味を決め、水溶き片栗粉で餡にする。
あとはこれをご飯にかけ、カラシやお酢を卓上調味料として用意するだけである。
ニンニクや葱姜水を考慮すると使用食材が全然貧乏飯ではない感じもするが、今は貧乏じゃないのでまあ良しとする。
ただ久々に作っての所感は、美味いことは美味いが、昔ほど飢えてもおらず、舌の肥えた今では、モヤシだけでは何か物足りず、どうせなら豚挽肉やニラくらい入れればよかったな、などともはや思い出補正すら寄せ付けない身も蓋もない感想が浮かぶ一食であった。
貧乏飯が美味いのは貧乏だったからなのか。今の飽食に疲れ、欲の無くなる年頃になればまた懐かしく美味く感じるものなのか。
まあこれに懲りず、また機会があれば思い出ご飯を作ってみようと思う。
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