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NETFLIX『ジ・エディ』=ララランド・セッションの「アフターストーリー」が描かれた、2020年上半期最高傑作のドラマ

The Eddy
評価=★★★★★

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NETFLIXオリジナルのドラマ『ジ・エディ(原題 THE EDDY)』が素晴らしかったから、魅力を広めたい気持ちと記録の意味を込めてここに書き記す。
(ララランドとセッションのネタバレを含むので、見てない方は読まない方がいいです)


これ、ララランドとセッションが好きだった人は絶対見た方がいい作品なのに、思ったよりもあんまり知られてない。


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全8話ドラマ、NETFLIXで全話配信中。

フランスのパリでジャズクラブを経営する主人公と、
その周辺の物語を描く群像劇に近い作品。

監督はララランド・セッションで有名な、デイミアン・チャゼル。


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このドラマのまず何が感動したか、何がそんなに最高傑作か、
カメラワーク、音楽、構図、サブキャラの魅力はもちろん、
ララランドとセッションの「アフター」が描かれている点だった。

ララランドやセッションは「音楽や表現を生業にすることを目指す話」だけど、これは「生業になったあとの人達が描かれた話」で、もうまんま「その後」が描かれた作品なんですね。

そういうところに着眼して見ると、ぐっと面白くなります。

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主人公エリオットは、アメリカで元々大活躍していたジャズピアニスト。
でも、今はとある事情で人前で弾けなくなってる。
アメリカにいれば売れっ子だったのに、わざわざパリに出て、売れないジャズクラブを経営して、家族問題・経営問題に悩まされながら、エンジンのかかりにくい原付で移動してる、おそらく40代。わかりやすく貧乏で、頑固で、不器用で、いい人なのに勘違いされやすく、苦労人。


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これが誰かというと、映画セッションの主人公のアンドリューの数十年後であり、映画ララランドのセブの数年後の姿なんだよね。

大勢に認められるジャズプレイヤーになっていく序章としてのセッションのラスト(アンドリュー)
夢だったジャズクラブを開業するララランドのラスト(セブ)

ちなみにララランドのセブが開業した場所はロス
ジ・エディのエリオットはアメリカからパリに来てます
ここら辺からもつながりを感じますね

でも、華々しい、達成されたエンドロールの先はどうなる?


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ジ・エディは、それが描かれてる作品だった。
明確に続編、とは発表されてないけど、これは完璧に続編と呼べる。
そう思った端々を、下記に記す。


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重要人物その1。
エリオットの元カノ・恋人っぽい女性シンガーマヤ。元々売れていたミュージシャンだったけど、夢を目指してパリに移住して、小さなアパートで中々芽が出ない状況に不安と焦燥を抱えてる。エリオットに感化されて側にいるのに、色々なことがすれ違い、エリオットはまるで自分のことを相手にしない。


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重要人物その2。
ジャズクラブのバンドメンバーであるベーシスト・ジュード。元薬中。数年前に別れたのに忘れられない元恋人に結婚式に招待され、ステージで演奏して、二人きりになった瞬間、あれから他に誰も好きになれてないと泣く。相手の女性にも、まだ忘れられないと返される。それでも2人が一つになることはなく、音楽が続く。


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重要人物その3。
ジャズクラブの共同経営者だったファリド、冒頭でドラマ内からいなくなり、ファリドの妻だったアミラは第一話で未亡人となる。


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主人公エリオットはバツイチだ。そして急にパリに引っ越してきた娘は薬物中毒で、元嫁は、手のつけられなくなった娘を押し付けたとも言える。


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ここで、ララランドの終幕のミアを思い出してほしい。夢だった女優になって、理想の旦那と結ばれた。だけど、その先は?

マヤ、ジュード、アミラ、エリオットの元嫁、エリオット。
ある意味、全員ララランドのミア「その後・ifの姿」とも捉えられる。

この作品の登場人物は全て喪失を抱えてる。でも、暗くはならない。喪失のあとには必ず幸福や発散が訪れるからだ。もう無理だと思う状況でも、一筋の光が刺す。


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それが彼らにとっては音楽で、その音楽の入り方と、音楽そのもの、音楽との関わり方の描写が、本当にいい。
音楽の力で、失ったものが再び手に入ったり、願い事が叶うようなカタルシスもない、わかりやすい描写じゃない。でもかっこいい、シブい、失ったままでも、音楽の価値は変わらない、大々的な称賛やフィナーレがなくとも、私や私たち自身の価値は変わらないと、そんなメッセージを解釈する。価値を他人に委ねない。だから余計に価値が宿る。

これが、憧れに突き進み達成して終わる、セッションとララランドの「アフターストーリー」と言い切れる理由だ。

それは、夢や憧れが、叶ったあとで色褪せたり、積み上げられたものが崩れ去って、それでも芯を通しながら、もがき生き続ける姿だ。
映画や、魔法じゃない、現実に近いドラマだ。


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コロナ自粛期間、モノ作りに携わる人間として、未来に不安を抱いていた時期、この作品が、一番の精神安定作用を持っていた。

あと、喪失を抱える大人たちばかりの中に、まだ明確な喪失をする前の二人の若者がいて、二人が良くも悪くも世界をかき乱すところが、ただただ暗くならない作用を持ってて、全体のバランスが本当にちょうど良くなってるなと思う。この二人が本当にかわいいんだ。


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ぜひ見てほしいな。





The Eddy
評価=★★★★★


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