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【連載小説】 父をたずねて三千里③ 〜父の日記〜


ドアを開けた瞬間、
知るはずのない父の匂いがした。

父の部屋は、本当に何も手が入っていない状態のようだった。

適度にものが散らかっている。


母によると、父は18で高校を卒業した後に、
家を出て行ったそうだから、
この部屋は父が高校生のときのままということだ。


白い壁には、当時の不良っぽい見た目の歌手らしき人のポスターや、
友達との写真が無造作に貼ってある。

低くて小さいシングルベッドと、勉強机、そしてクローゼットが部屋のほとんどを占めていた。

意外にも父の部屋には、本棚があり(小さいが)、中は漫画が多いものの、小説もいくつかあった。

本棚の一番下の段は、そこだけ綺麗に整頓され、
アルバムらしき大きな本や、卒アルなどが入っていた。

あきらかに、そこだけ整頓されすぎていた。

すぐに、このアルバムたちは、美智子さんが父亡き後、しまったのだろうな、と思った。


ふと、本棚の上段、美智子さんが手を入れてないだろう場所に、目がいった。

漫画が並べてある棚の奥の方に、なにやら、ノートが挟まっているのが見えた。


引っ張り出してみると、それは古い大学ノートだった。



開けてはだめよ、私。
このノートは、きっと父の……


そんな私の思いもむなしく、
結局、好奇心には勝てなかった。


パラパラとめくると、それは想像してた通り、
日記だった。

1984とか書いてある。
おそらく、これは父が高3のときに書いたものだろう。



10月5日
今日も先公が怒鳴ってる。
高橋のやろーが、あんなヘマしたからだ。
俺にまで、とばっちりがくるなんて、アイツ、許さねーぞ!

10月8日
高橋とケンカした。
最初に殴ってきたのは、向こうなんだ。
ケンカ売るクセに、アイツ弱いのよ。
殴り返したら、泣いたんだぜ。
これだから、おかまだとか、モーホーだとか言われるんだ。
泣きながら殴ってくるもんだから、まいちまったよ。
結局、大庭が止めに入ってきて、終わったけど、ま、正直、これ以上やりあわなくてよかったよ。


11月1日
女ってのは、永遠に理解できない動物かもしれない。
今日、文子とデートだったんだけど、
文子のヤツ、ずぅーとペラペラペラペラ話してばっかでさ。
話してる割に、声も小さいし早いし、何言ってんのかよく分かんなくて、
テキトーに、相槌打ってたら、いきなり
「人の話聞いてるの!?もうっ!」って、怒り出したんだよ。
その後、何を言っても、機嫌直んなくてさ。
ったく、これだから女ってのは困っちまうぜ

11月17日
今日は、金持ちの島崎が、単車買ったって騒ぐもんだから、みんな、授業中も気が気じゃなくて、先公がいつにもまして吠えてたぜ。
でも、島崎の単車、イカしてたんだよ、これが。
島崎のやろー、ケチでさ。
一人一回ずつしか触っちゃダメ、って。
一回ぐらい乗せてくれたっていいじゃないか。
あー俺も自分の単車ほしいなぁ。




父は日記を書くような人だとは思ってもなかった。

まぁ、日記といっても、毎日ではないし、話してるかのような書き方だが、
正直に書いてあることは、見てわかる。

バイオレンスな内容だったり、全体的に愚痴ばっかなのだが、なんか人間味があった。


私の手は止まりそうにない。


と、次のページをめくると白紙が広がった。

あれ??
もう、これで終わりか?


もう1ページめくる。

そこにはまた日記の続きが書いてあった。

が、
初めの一文を読んで、私は固まった。




12月4日

文子が妊娠したかもしれない。





続きます。














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