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疑惑 『秘密』のアナザーストリー

『なぁ、あれ何だと思う?』

淳二は聡子に聞いた。

『あれ?何かの煙突じゃないの?』

満月の夜。
月明かりはブルーに液状化しながら、
夜も更けた静かな港街に隅から隅まで染み込んでいく。
淳二が指差したその塔は岩場の海岸線に面した30メートルほどの崖の下に、仄かな月明かりを浴び不気味に黒光りしながら聳え立っていた。

『あれな、子供の頃に親父に聞いたことがあるんだ。あれは何だ!って。
どう考えても場違いだろ?武骨だし違和感しか感じなくてさ。
そしたら親父は俺の耳元でコッソリ言うんだよ。

おい淳二、誰にも言うなよ。あの塔はな、慰霊塔だ。墓だよ!墓!
この地下に通ってるトンネル工事で死んじまった人達を祀ってるんだ。
近づいて祟られ死んだ奴を俺は何人も見てきたんだ。
いいか?絶対に近づくんじゃないぞ?』

ってさ。

『え?何それ?』

聡子は困惑した表情で塔を見上げた。

分厚い雲が流れ、月に覆いかぶりはじめた。

辺りが暗転するかのように黒く沈み込む。
唯一、二人が立つ駐車場の隅にあるトイレだけが、この世の終わりのように冷たい蛍光灯の光でボンヤリと闇の中に浮かび上がっていた。

『でもな、最近知ったんだ。この塔、墓でも慰霊塔でもなくて、
地下のトンネルの排気口だってこと。つまりさ、親父の妄想だったって』

淳二は塔を見上げヘラヘラと笑った。

『はあ?アンタの親父ヤバくない?』

『うん、ヤバいだろ?昔から妄想癖が酷くてな。
多分、子供達を近づけたくなかったんだろうな』

月に覆い被さった雲が抜け再び月明かりを浴びた塔を見上げる。

『でもさ、わかってても気味悪いんだよな。これ』

淳二はあの瞬間の父親の、真剣な眼差しを思い出し、
笑いながらタバコに火をつけた。

『アンタの父親面白いわ、発想が。でもそれって愛だよね』

聡子は塔を見上げ

『過剰だけどな』

と付け加え笑った。

波止場に優しく打ちつける波はチャプチャプと音を立てループし続ける。
その波には月明かりを浴びた二人の影が揺れ映り、ゆらゆらと伸びていた。

文:エンスケドリックス
写真:原田ミカメラ


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