中村浩士はベルハンマーゴールドの夢を見る

競輪祭、初日。
第六レースにでる中村浩士は、三番車で根田の後ろにつくらしい。
中村は43歳、いい歳だ。
千葉支部の支部長を務める、公私ともに忙しいトップレーサー。
ベルハンマーゴールドという、
チェーンルブ(としての使い方で)の広告塔でもある。
競輪祭は輪界では年内最期のG1、
これが終わると、
残すところビックレースは競輪グランプリの一発レースのみだ。
競輪グランプリは、年内のG1優勝者と、
賞金ランキング上位九名で争われる年末恒例のビックレース。
一着賞金一億円というやばいもん。
そうやばい、みんなグランプリに出たい。
一億欲しい。
だから賞金の上積みや、
グランプリ出場決定できる、競輪王を戴冠したい。
なのでみんな懸命に走る。
ま、どんな競争でも力一杯走るのが選手の務めなわけではあるが。
とはいえ、気合が入るのが競輪祭。
中村はというと、グランプリは競輪王にならない限り圏外。
同じレースには、グランプリまでもう少しな、
埼玉の英雄、平原康太がいる。
当然、平原からが厚い本命で、がっちり売れている。
中村は要は穴だ。
中村頭からの三連単はオール万車券。
夢があるではないか。
なくはない、ないなんてありえない。全てあり得る。
それが競輪。
九名のうちから、一着から三着までの選手を指名して、
それぞれの夢を紡ぎ、編みこんだものが三連単の車券。
夢を買うんだ、銭出して。
当たれば天国、ハズレりゃゴミ屑。
博打ってそんなもんだろ?
そう、そんな感じでレースは始まる。
それぞれがラインを組み、序盤の駆け引きが始まる。
最終周回、根田と鳥取がもがき合う。
主導権争い。
根田が争いに踏み負けそうなところ、
中村は根田を捨てた、シビアに鳥取の後ろにつく。
吉田敏弘の出番はない。
中村!ある?万車券!?

そんな夢を見た。
一瞬の出来事だ。
平原康太が、捲り一閃飲み込んだ。
平原ラインのガッチガチの本命で終わった。

中村は支部長だ。
練習だけでなく、地元選手のために渉外活動もしている。
それはそれは忙しい。
満足に練習だってできないこともある。
それでも、コンマ1秒を縮めるために、
出来ることはなんでもしている。
チェーンルブにベルハンマーゴールドを使っているのもだ。
全ては千葉のために、選手のために、自分のために。
俺より三つ上のこの選手は、挑戦に次ぐ挑戦で、
常に上を目指しているのだ。
俺は何をしているか?
競輪で小銭をかけて、勝った負けたというだけの人生か。
所詮はギャンカスかもしれないが、俺だって抗いたい。
年齢に、社会に、他人に、己に。
勝ちたいんだよ。
平原はあっぱれだった、さすが強かった。
でも、中村は二次予選進出のために、次の予選レースも懸命に走るだろう。
俺だって、走れるさ。
そう想い、
陽が落ちた中、俺はレベル社のクロモリロードで走り出すんだ。
50キロメートルの、ロードワークを。

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