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エアコンを設置していても使用せず、「熱中症になった高齢者」を警察医が分析すると……

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*****令和6年7月21日(日)第175号*****

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エアコンを設置していても使用せず、「熱中症になった高齢者」を警察医が分析すると……
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◇─[はじめに]───────────

 本日(7月21日)、四国・近畿地方で梅雨明けの発表があり、いよいよ日本各地で本格的な「猛暑」が始まりそうです。こうなると、心配されるのが「熱中症」です。特に高齢者は「命の危険」に直結します。

 熱中症の専門医は、「そもそも高齢者は気温の急上昇を体感しにくく、エアコンを使用しないために熱中症になりやすい」と指摘します=画像・東京都医師会発表資料より。黄色と緑色のラインマーカーは、弊紙による加工。そのため「家族は、高齢者が周りにいる場合は、積極的にエアコンを使用するように促して欲しい」とも助言しています。

 それは肌感覚としては理解できるのですが、弊紙発行人としてはもう少し、具体的に理解を深められるような「事例」がないかと探していたところ一つ、気になった発表を見つけました。

 東京都医師会が先週火曜(7月16日)に開いた記者会見で、理事で警察医(警察の捜査に協力する医師)でもある荘司輝昭医師が「熱中症の死亡例の検討・東京都23区と多摩地区検案データ」を発表しました。

 ここで、庄司理事は「あくまで、警察医としての私見」として主に次の3点を指摘しました。

 1、家族と同居している高齢者は、基本的にはエアコンを使用する機会が多いので、比較的に死亡者数も少ない。

 2、ただし東京23区内で、熱中症により屋内で死亡した方の約6割は「エアコンを設置していながら使用していなかった」。

 3、その死亡事例を含め屋内で熱中症になった高齢者の中には、「エアコンの使用方法がわからなかった」という方もいる。

 ここで弊紙が注目したのは「3」です。家族に高齢者がいる際は、エアコンのスイッチを入れるのは通常は家族であるケースが多いと思います。ところがこの「スイッチを入れる家族」が、何らかの事情で不在だと、高齢者はエアコンを作動できないケースが生じます。

 そんな「盲点」を、これから本格的な猛暑を迎える前に、読者の皆さんにお伝えしようと思い今回の記事を配信いたします。これが、大切な家族である「おじいちゃん・おばあちゃん」の命を守るため、わずかでもその一助になれば幸いです。

 日本介護新聞発行人

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 今回の記事は「はじめに」で記したように、先週火曜(7月16日)に東京都医師会が開催した記者会見で、庄司理事の発表内容を要約して作成いたしました。記事中の表現等は、弊紙により一部改変いたしましたので了承の上、ご一読頂けますと幸いです。

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令和3年は、東京23区内の熱中症死亡者が、例年と比べると少なかったが……
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 東京23区では、熱中症死亡者数が令和3年だけ極端に少ない。この年は「平年に比べ、やや気温が低かった」ことが要因として挙げられる。またこの年は、まだ新型コロナの感染が続いていたので「外出する人が少なかった」ことも考えられる。

 ■■東京23区内の、過去5年間の夏季(6月~9月)の熱中症死亡者数

 ▽平成30年=164人
 ▽令和元年=135人
 ▽令和2年=239人
 ▼令和3年=58人
 ▽令和4年=251人

 ■■東京23区内の、令和4年の夏季(6月~9月)の平均気温と、男女別の熱中症死亡者数

 ▽6月=最高気温の平均27.6度=熱中症死亡者数66人(男38人・女28人)
 ▽7月=最高気温の平均31.7度=熱中症死亡者数81人(男50人・女31人)
 ▼8月=最高気温の平均32.0度=熱中症死亡者数101人(男65人・女36人)
 ▽9月=最高気温の平均28.8度=熱中症死亡者数3人(男3人・女ゼロ)

 ◆熱中症死亡者数・合計=251人(男156人・女95人)

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23区内で、熱中症で屋内で死亡した約6割は「エアコンを設置していながら使用せず」
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 次に、令和4年の熱中症死亡者数(=251人)とエアコンの使用状況の関係をみると、基本的に家族と同居していればエアコンを使用する機会が多いので、東京23区内では比較的に死亡者数も少ない。

 しかし単身者は、特に高齢者はエアコンを使わない方が多く、またエアコンを設置していない方の死亡者数が多くなっている。

 ■■東京23区内の、令和4年夏季の熱中症死亡者数・年代別と男女別

 ▽20代=0人
 ▽30代=1人(男1・女0)
 ▽40代=6人(男6・女0)
 ▽50代=16人(男13・女3)
 ▼60代=46人(男40・女6)
 ▼70代=85人(男51・女34)
 ▼80代=81人(男40・女41)
 ▼90代以上=16人(男5・女11)

 ◆合計=251人(男156人・女95人)

 ■■東京23区内の、令和4年夏季に「屋内」で死亡した人232人のエアコン使用状況

 ◇家族と同居64人=エアコン設置有りで使用有り4人=【エアコン設置有りで使用無し37人】=【エアコン設置無し13人】=エアコン設置が不明10人
 ◆単身住まい168人=エアコン設置有りで使用有り15人=【エアコン設置有りで使用無し100人】=【エアコン設置無し37人】=エアコン設置が不明16人

 ■全体の232人に対する各項目の割合=エアコン設置有りで使用有り8.2%=【エアコン設置有りで使用無し59.0%】【エアコン設置無し21.6%】=エアコン設置が不明11.2%

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「エアコンがあっても、使い方がわからない」と熱中症で倒れてしまうという事例が……
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 最近、私が訪問診療を行った際によく出会うケースとして、いわゆる「8050(ハチゼロ・ゴーゼロ)問題」、80代の親を50代のお子さんがお世話しているような場合で、この50代のお子さんが何らかの事情で亡くなってしまった場合──

 80代の親は「エアコンの使い方がわからなかった」結果として、亡くなった事例もある。実際に、私が警察医として経験した事例で、老夫婦の世帯で、先におばあちゃんが亡くなり、その結果をおじいちゃんが警察まで聞きにくる際に──

 連絡しても、このおじいちゃんがなかなか来なかった。警察でも「これはまずい」となり、すぐにお宅にお伺いしたら、おじいちゃんが熱中症で倒れていて「エアコンの使い方がわからなかった」と言った。

 この方はすぐに救急搬送されて助かったので、本当に良かったと思う。つまり「エアコンがあっても使い方がわからないと、熱中症で倒れてしまう」という事例が、実際に起きている。

 さらに、高齢者の特徴として「夜中、オシッコに起きたくないので、水分摂取を控える」という傾向もみられる。そうすると、自分の知らない間、つまり就寝中に発汗作用がはたらいているにも関わらず熱中症になり、死亡してしまうケースも現実にある。

 実は、熱中症による死亡時間は──この死亡時間の特定は本当に難しいのだが──熱中症により救急搬送されるのは「朝方が多い」と言われている。つまり、エアコンを昼間につけていても、夜間に切ってしまうことも多々あることを示唆している。

 高齢者の多くは、さずがに昼間は暑いのでキチンとエアコンをつけているが、夜間は「もう気温も下がってきたし大丈夫だろう」と、電源を切ってしまうケースもある。家族に高齢者がおられる際は、十分にご留意頂きたい。

◇─[おわりに]───────────

 今回、記事にした内容は、実は以前からかなり気になっていた事柄でした。最近のエアコンは高性能になった反面、リモコンの画面を見ただけでは高齢者は「どこのスイッチを押せばよいのか、わからない」のではないか……そんな懸念を抱いていました。

 特に高齢者は「わからないけど、どうやら気温も夜になって下がってきたし、エアコンをつけなくても大丈夫だろう」と判断してしまうのでは……そんなケースも多いのではないかと思い浮かべました。

 家族に高齢者がいる世帯は、そのような「気遣い」もしなければならず大変だと思いますが、今回の記事がそのための「気づき」の一端にでもなれば幸いです。どうやら今年の夏は、相当な「猛暑」になりそうです。

 大切な家族を守るためにも、今まで以上の「わずかな気遣い」がその助けとなりますよう、祈念いたします。

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