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「犬を飼っている人は飼っていない人と比べ、認知症発症リスクが40%も低い」(上)

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*****令和5年10月29日(日)第164号*****

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「犬を飼っている人は飼っていない人と比べ、認知症発症リスクが40%も低い」(上)
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◇─[はじめに]───────────

 先日、認知症に関するデータをネットで調べていたら「「ペット飼育と認知症発症リスク~犬の飼育を通じた運動習慣や、社会との繋がりにより認知症の発症リスクが低下することが初めて明らかに」とのタイトルを見つけました=画像・東京都健康長寿医療センターHPより

 これはおそらく、ドッグフードや犬の飼育に関係する事業者が、自ら調査して結果を公表したものだろう……と思いましたが、その情報の発信元が「東京都健康長寿医療センター」(以下「都長寿医療センター」)であることを知り、驚きました。

 弊紙もコロナ流行以前は、記者会見で何度かこの研究機関の関係者の発表や意見を聞いたことがあります。センターの歴史をあらためて調べてみたら、その前身は明治5年に創立され、その後の歴史の変遷を経て、昭和21年4月1日に現在の組織となりました。

 今ではその名の通り、東京都の正式な関連団体であり研究機関で、今回の発表内容も研究論文として海外の科学誌に10月11日に発表され、この前の火曜(10月24日)に記者発表しています。

 その結論として「犬の飼育者は非飼育者に比べて、認知症が発症するリスクが40%低いことが示された」と指摘し、また「ペット飼育と認知症発症との関連性を明らかにした発表は、本邦(=わが国・日本)が初めてとなる」と述べています。

 今回本紙では、この「都長寿医療センター」の発表内容を「上」「下」の2回に分けて、読者の皆さんへお伝えしたいと思います。この研究発表に関する本紙の感想は、この記事の最後の「おわりに」(次号に掲載)で述べたいと思います。

 「下」は明日(10月30日)配信予定です。記事中には専門用語等がいくつか出てきますが、まずは今回の記事を、気楽にご一読頂ければ幸いです。

 日本介護新聞発行人

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 今回は「はじめに」で記したように「都長寿医療センター」が、この前の火曜(10月24日)に記者発表した内容と、その際に公表した、10月11日に海外の科学誌に掲載された論文の和訳に基づいて構成しています。

 記者発表の内容はマスコミ向けであり、また論文の和訳も専門的であるため、内容の一部は本紙読者の皆さんにも理解しやすいように、弊紙で表現等を一部変え、さらに専門用語の一部に注釈を加えました。この点をご了解の上、読み進めて頂ければ幸いです。

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研究目的=「犬や猫のペットの飼育が、認知症の発症と関連するのかどうか」を調査
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 「都長寿医療センター」研究所の社会参加とヘルシーエイジング研究チームは、これまでの研究から「犬を飼育する高齢者は、フレイルや自立喪失(=要介護の認定を受ける等)が発生するリスクが大幅に低いこと」を報告している。

 またこれまでの研究から「犬の飼育者のうち、運動習慣を持つ高齢者において、負の健康事象が発生するリスクが低いこと」も確認されている。今回発表した研究では、フレイル(※)や自立喪失、運動習慣と強く関連する認知症に着目した。

 【※本紙注釈=フレイル=病気ではないが、年齢とともに筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態のこと

 その上で「ペットの飼育が、認知症の発症と関連するのかどうか」を調べた。

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研究の結論=「犬の飼育者は、非飼育者に比べて認知症が発症するリスクが40%低い」
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 今回の研究から、犬の飼育者では、非飼育者に比べて認知症が発症するリスクが40%低いことが示された。また犬の飼育者のうち「運動習慣を有する人」「社会的孤立状態にない人」では、認知症発症リスクが低下することも明らかとなった。

 一方で、猫の飼育者と非飼育者との間には、意味のある認知症発症リスクの差はみられなかった。「日常的に犬を世話することにより、飼育者への身体活動や社会参加の維持が、飼育者自身の認知症発症リスクを低下させている」ことが考えられる。

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研究の概要=都内A区の約1万人に対し約4年間、犬と猫の飼育の追跡調査等を実施
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 本研究では、2016年に東京都A区での疫学調査に応答した1万1,194名の調査データを使用した。研究対象者の平均年齢は74.2歳で、女性の割合は全体の51.5%だった。本研究の対象集団における犬の飼育率は8.6%、猫の飼育率は6.3%だった。

 なお参考までに、2020年までの「介護保険情報」に基づく、要介護の認知症の新規発症率は「5.0%」だった。これをもとに、犬の飼育者と猫の飼育者のそれぞれの社会医学的特徴から、認知症の発症リスク等を算出した。

 この調査結果により、ペット飼育者の認知症発症リスクを調べた結果、犬の非飼育者に対する飼育群の認知症発症のOR(=オッズ比=ある事象の起こりやすさを、2つの群で比較して示す統計学的な尺度測定値)は「0.60」だった。

 一方、猫非飼育者に対する飼育群の認知症発症のORは「0.98」だった。これらの結果をもとに、犬の飼育と運動習慣、または社会的孤立との組み合わせ別に認知症発症リスクを調べた。

 その結果「犬を飼育」していて、さらに「運動習慣がある」人たちと比べ、「犬を飼育」し「社会的孤立が無い」人たちの方が、さらに認知症リスクが低かった。

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研究内容の詳細1=「対象を、認知症の障がいでは『レベル2』以上の分類とし……」
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 まず、今回の研究対象となった「犬や猫の飼い主」は、まず「ペットと暮らしているかどうか?」を「現在・過去・一度もない」に分けて聞いた。「現在」か「過去」にペットを飼った経験のある人には、ペットの種類「犬・猫・その他」を聞いた。

 日本の介護保険制度では、65歳以上の「第1号被保険者」全員が介護の対象となり、40歳から64歳までの15の特定疾病のいずれかの「第2号被保険者」も、介護サービスを受けることができる。

 介護認定委員会では申請者の心身の状態を調査し、医師の意見を踏まえて審査を行う。日本の厚生労働省は、認知症の高齢者のほとんどを対象とする制度の一環として、認知症の高齢者に対して医師が観察者ベースの評価を提供することを義務付けている。

 医師の評価は、患者の慢性疾患や日常生活機能を評価するための標準的な形式であり、全国で利用されている。その区分は、次の通りとなっている。

 ▽認知症なし

 ▼レベル1=多少の認知症はあるが、日常生活ではほぼ独立している。

 ▼レベル2=コミュニケーションが多少困難であるが、最小限の観察で日常生活は自立している。

 ▼レベル3=コミュニケーションが困難で、部分的なケアが必要な認知症。

 ▼レベル4=コミュニケーションが困難で、完全なケアが必要な重度の認知症。

 今回の研究では、認知症の障がいを「レベル2」以上の分類を対象とし、施設・在宅・デイケア等の「保険給付を受ける権利を有するレベル」とした。また研究の参加者が、認知症の障がい分類を受けた日付も抽出した。

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研究内容の詳細2=「1万1,194人を4年間追跡調査した結果5.0%が認知症を発症」
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 研究の対象となった1万1,194人の参加者の平均年齢は74.2歳で、全体の51.5%が女性だった。平均世帯規模は2.3人で既婚者は67.1%、高卒以下の学歴は63.2%、年収が400万円未満が66.0%だった。

 このうち現在、959人(全体の8.6%)が犬を、704人(全体の6.3%)が猫を飼っており、また過去に1万0,235人(全体の91.4%)が犬を、1万0,490人(全体の93.7%)が猫の飼い主だった。現在の飼い主のうち124人が犬と猫の両方を飼っていた。

 今回は約4年間の追跡調査を実施したが、この期間中に5.0%の人が認知症の障がいを発症した。「現在犬を飼っている人」は3.6%、「過去に犬を飼った人」「一度も飼ったことがない人」は5.1%が認知症を患った。

 また「現在猫を飼っている人」は4.5%、「過去に飼った人」「一度も飼ったことがない人」は5.0%だった。さらに「犬の飼い主」の運動習慣と、認知症の障がいとの関連を調べた。

 その結果、定期的な運動習慣を持つ「現在の犬の飼い主」のOR(=オッズ比=ある事象の起こりやすさを、2つの群で比較して示す統計学的な尺度測定値)は「0.37」で、運動習慣のない「現在の犬の飼い主」のORは「0.89」だった。

 さらに、運動習慣のある「過去および一度もない犬の飼い主」のOR「0.69」を、運動習慣のない「過去の犬の飼い主」と比較した。加えて「犬の飼い主」と、社会的孤立と認知症の障がいとの関連を分析した。

 すると、社会的孤立のない「現在の犬の飼い主」のORは「0.41」、社会的孤立のある「現在の犬の飼い主」のORは「0.43」、社会的孤立のない「過去の犬の飼い主」と「一度も飼ったことのない犬の飼い主」のORは「0.56」だった。

 ※【以下、本紙次号「犬を飼っている人は飼っていない人と比べ、認知症発症リスクが40%も低い」(下)に続く】

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