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スティールヘッドの回帰と迷入

科学論文を釣り情報へ還元する第14回目の投稿です。
今週はスティールヘッドの特集、今日はその3日目です。


今回のテーマ:スティールヘッドの回帰と迷入


今回ご紹介するのはこちらです。
Schroeder, R. K., Lindsay, R. B., & Kenaston, K. R. (2001). Origin and straying of hatchery winter steelhead in Oregon coastal rivers. Transactions of the American Fisheries Society, 130(3), 431-441.

今回の論文では、孵化場で生まれたスティールヘッドと野生のスティールヘッドに標識をつけて放流し、成魚がちゃんと自分の生まれた河川へ帰ってきたかどうか調べた論文です。

スティールヘッドが戻ってくる割合

昨日の記事でもご紹介しましたが、スティールヘッド幼魚が成魚として河川へ回帰する可能性は約3%でした。

それでは他のサケ科魚類と比較してどうなのでしょうか?

下の表にサケ科魚類の回帰率(自分の河川へ戻ってくる数/放流数)と自分の生まれた河川以外へ帰ってしまう割合(迷入率:迷入数/放流数)をまとめてみました。

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この表の出典は下記の通りです(回帰率や迷入率は匡や機関によって調べ方が違う場合がありますので、数値は”おおよそ”と理解してくだされば幸いです)。


カラフトマス:

http://cse.fra.affrc.go.jp/moritak/pink.html、 https://www.hro.or.jp/list/fisheries/marine/att/dayori82-06.pdf

シロザケ: 

http://salmon.fra.affrc.go.jp/zousyoku/ok_relret.html、 http://salmon.fra.affrc.go.jp/kankobutu/srr/srr010_p16-19.pdf

サクラマス :https://www.hro.or.jp/list/fisheries/marine/att/o7u1kr0000001i7i.pdf、 https://www.hro.or.jp/list/fisheries/marine/att/81-miyakoshi1.pdf

スティールヘッド(ニジマス):本論文

基本的には回帰率は、最大で3%前後で、これはどのサケ科魚類も大差はありませんが、迷入率はかなり異なります。


迷入という進化

回帰率はほとんど変わらないサケ科魚類でもなぜこんなにも迷入する割合が変わるのでしょうか?


これには進化が関わっているといわれています。

サケマスの仲間は一般に、イワナの仲間→ニジマスの仲間→サケの仲間の順で進化したと言われ、本来は川で完結するはずの生活が、餌を求め海へ出たというのがよく言われる進化の過程です。

スティールヘッドを除いて、進化の順をみるとサクラマス、シロザケ、カラフトマスの順に迷入率が大きくなります。

サクラマスは自分の生まれた河川、それも支流まで特定してほとんど間違うことなく帰るわけですが、カラフトマスに至っては、もはや自分の河川戻る気はないのかなとさえ思います。

網走川周辺の調査では近隣河川への迷入がなんと90%を超えています

迷入によって生息地を拡大する戦略はカラフトマスの十八番という感じですが、実はスティールヘッドもこの気があり、河川残留(陸封型)、両側回遊、スティールヘッド(降海型)、迷入と様々な戦略で子孫繁栄を目指しているのではと考えられますね。


もちろん、周辺の環境は時代とともに刻々と変わりますし、その年その年の状況に応じて回帰率や迷入率は変わってくると思います。


スティールヘッド(ニジマス)は、河川での生活もできるし、海へ降りることもできる、しかも迷入率もそこそこという感じですから、言わば途中から独自進化した部類かもしれませんね。


孵化場出身のサカナは迷走しやすい?

さて、今回の論文に話を戻します。
今回の論文では、孵化場出身のスティールヘッド(ニジマス)幼魚と自然発生(野生)のスティールヘッド幼魚で回帰や迷入に差があるかを調べたわけですが、どうやら孵化場出身の幼魚の迷入多かったようです。

特に、本来生まれた河川とは違う河川で放流された場合で迷入がひどいという結果でした。

隣の河川に放流した場合、そこには戻らず自分の生まれた河川を含めた違う河川へ40%以上が迷入(侵入)し、完全に違う地域まで移送した後放流した場合も30%近くが違う河川へ迷入してしまったそうです。

この調査ではウインターランのスティールヘッドを利用していますので、冬~春へ遡上し、そのまま一気に繁殖へしてしまう個体です。

そのため、夏に遡上し、翌年の春に繁殖に臨むサマーランのスティールヘッドでは、また違う結果になる可能性もあるそうです。

今回は、地元河川で放流した場合に比べ、違う河川で放流した場合には、おおよそ8倍ちかく迷走してしまうそうです。

この原因は、移植した放流魚の中で川の匂いを覚える(刷り込み:インプリンティング)のタイミングに混乱が生じたり、放流場所に対して遺伝的に覚えがないため、迷走し、他の河川へ侵入してしまう可能性も指摘しています。

日本でのニジマスの扱いは、人気のある釣り対象種ではあっても、やはり外来種ですし、サケやカラフトマスのように人工孵化放流するような人間活動もありません。

しかしながら、ニジマスの生息量が多い河川の周辺はやはりスティールヘッドを狙うポイントになる可能性がありますね。



いかがでしたでしょうか。
今回はあまり釣り情報に還元とまではいきませんでしたが、
スティールヘッドがほかのサケ科魚類と比べても異質な存在であることはわかりました。

元は河川の生活で完結していたニジマスが、進化の過程で海水適応が可能となり、意図してかわかりませんが、迷入によって繁殖域を拡大させていったのかもしれませんね。

次回はスティールヘッドの釣りに関することについてキャッチ&リリース制度などを踏まえて考えていこうと思います。
それでは、次回お会いしましょう。


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