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【特集】2022-2023 出版業界 総括と展望|ジャンル別 出版概況、トピックス①書籍(日販 仕入部)

■書籍(文芸書・ノンフィクション、文庫、新書、実用書、写真集、ゲーム攻略本、ビジネス書・コンピュータ書、資格試験書、専門書、児童書、学参・辞典)
※文中の累計部数等は2022年12月5日現在のデータです。

2022年に一番売れた本は『80歳の壁』!年間ベストセラーを発表

書籍 全体概況

「アクティブシニア」や身近な悩みに答える書籍が話題に

2022年は厳しい市況の一年となった。書店店頭の買上客数減が大きな要因となり、1~11月の店頭売上前年比は89.1%と低迷している。

2020年、2021年は、コロナ禍の巣ごもり需要がプラスに働き、特に文芸書、児童書、学参については大きく売上を伸ばしたが、2022年はほとんどのジャンルで店頭売上が前年を下回ることとなった。

一方で、日販が発表した2022年年間ベストセラーを読み解いていくと、このような厳しい市況の中でも、生活者に望まれているジャンルや傾向がいくつか見えてくる。

ひとつは「アクティブシニア」である。健康意識が高く、生涯現役志向の強いシニア層に向けた書籍の売上が伸長した。具体的な書名は後述するジャンル別の概況をご覧いただきたいが、実用書、新書を中心に多くの関連書が上位にランクインした。

また、人々の生活の身近な悩みに答える書籍がより関心を集めている。たとえば、物価上昇に伴う家計の先行き不安による「お金や資産形成」に関するものや、コロナ禍で対人関係に不安を抱える人が増えていることから「コミュニケーション」に関する書籍が長く売れている。

そのほかにも、YouTuberなどSNS、動画共有サービス出身の著名人が手掛ける書籍が話題になった。また、児童書、特に絵本は唯一前年並みの店頭売上を維持しているジャンルとなっている。

コロナ禍に入り約3年が経過した。自粛生活やテレワークが定着し、オンラインやデジタル化した生活が長引いたことから、人々の消費行動にも変化が出てきている。

ニューノーマルの時代に、生活者に書店が選ばれ、足を運んでもらえるよう、日販は来店施策を引き続き立案、ご案内していく。あわせて、生活者に求められている商品群を訴求できる売場づくりを行い、店頭を盛り上げていきたい。

文芸書・ノンフィクション

新しい作家が活躍、今後の台頭にも期待

ノンフィクションジャンルでは、作家・F氏のエッセイ『20代で得た知見』(KADOKAWA)が20代女性を中心に10~20代の読者の反響を呼び、売上を伸ばした。2020年9月の発売ながら、2022年ノンフィクションジャンルで一番売れた本となっている。

文芸ジャンルでは『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬著/早川書房)がデビュー作ながら直木賞の候補作となり注目を集め、2022年4月の第19回本屋大賞受賞、2022年5月の高校生直木賞受賞などを経て多くの読者の支持を獲得した。累計発行部数は50万部に迫る勢いとなっている(12月1日時点)。

また、YouTube発の不動産ミステリーに書き下ろしを加えた『変な家』(飛鳥新社)、新作の『変な絵』(双葉社)がヒットしているホラー作家の雨穴氏など、今後も新しい作家の台頭に期待したい。

文庫

ドラマ化続く原田ひ香作品に引き続き注目

文庫ジャンルについては、『希望の糸』(講談社)が2022年7月発売ながらも急速に売上を伸ばし、映画化作品『沈黙のパレード』(文藝春秋)もヒットするなど東野圭吾氏の人気が改めて証明された。また『流浪の月』(凪良ゆう著/東京創元社)、『余命10年』(小坂流加著/文芸社)、『小説 すずめの戸締まり』(新海誠著/KADOKAWA)などメディア化作品が上位を占めた。

そのような中で、リストラや年金生活、格差社会などを題材にした『三千円の使いかた』(原田ひ香著/中央公論新社)が、2022年上半期に続き、年間ベストセラー(文庫部門)でも第1位となった。食品やガソリン、電気などの相次ぐ値上げや急速な円安、高齢化などを背景に、生活に必要なお金や老後の生活費工面への関心が高まっている背景が見て取れる。

原田ひ香作品に関しては、2022年10月にNHKで『一橋桐子(76)の犯罪日記』(徳間書店)がドラマ化され、2023年1月からは『三千円の使いかた』のドラマ(フジテレビ系)が放送される。出版社各社が眠っていた既刊を掘り起こすなど、今後も原田ひ香氏から目が離せない。

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新書

シニア向けのアイテムが売上を牽引

精神科医・和田秀樹氏の『80歳の壁』(幻冬舎)が年間ベストセラー新書ノンフィクション部門の第1位となった。累計発行部数は53.5万部(12月1日時点)。第2位も、同著者の『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)。同作は、2021年6月の発売以降売上を伸ばし続け、累計発行部数36万部(12月1日時点)を突破するロングヒットとなっている。

また、2021年11月に逝去した瀬戸内寂聴氏が生前に語ったメッセージをまとめた『寂聴 九十七歳の遺言』(朝日新聞出版)、『今を生きるあなたへ』(SBクリエイティブ)など、シニア向けのアイテムが新書の売上を牽引している。

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実用書

料理本や異色の旅行ガイドが上位にランクイン、シニア向けの生活提案や健康書も好調

年間ベストセラーの単行本実用部門の第1位は『リュウジ式至高のレシピ』(リュウジ著/ライツ社)、第2位は『今日のごはん、これに決まり! Mizukiのレシピノート決定版! 500品』(Mizuki著/Gakken)と、料理レシピ本が上位に並んだ。著者はともにYouTubeやSNS、ブログなどで人気の料理研究家であり、昨年9月に発表された「第9回料理レシピ本大賞 in Japan」でもそれぞれ料理部門の大賞、準大賞を受賞している。「自身の集大成となる基本の料理100品」や、「人気ブログの総まとめ、厳選500品」というように、充実した内容とコスパの良さで、発売直後から高い売上をキープした。

新型コロナウイルスの影響で旅行ガイド需要が落ち込む中、「地球の歩き方」シリーズ(Gakken)が企画力で注目を集めた。各地国内ガイドのほか、さまざまなテーマ本が刊行され、中でも異色コラボ本である『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』『地球の歩き方 ムー 異世界(パラレルワールド)の歩き方』は発売前から話題となり、年間ベストセラーでも第5位と第10位に入った。

前年勢いのあった占い関連本は例年に近い動きに戻り、代わりにシニア向けの生活提案書や健康書が好調であった。第9位にランクインした『87歳、古い団地で愉しむひとりの暮らし』(多良美智子著/すばる舎)に代表されるように、タイトルに「〇歳」と入れてターゲットを明確にするものが増えているが、これは新書と同様の傾向である。

実用書ジャンルはトレンドを反映する新刊とともに、既刊で構成される棚のメンテナンスも重要である。さまざまなメディアやSNSが生活に根付き、情報の更新も早まっている。棚構成や「見せ方」が時代のニーズと合っているか、定期的な見直しをお願いしたい。

写真集

「通常版」と「限定カバー」の複数発売が話題に

2021年12月に発売された男性5人組YouTuber・コムドット初の写真集『TRACE』(講談社)が、年間ベストセラー写真集部門の第1位となった。メンバー5人それぞれの特別版カバーバージョンの発売も話題となり、複数買いに繋がった。ちょうど1年後となる2022年12月2日には、第2弾となる『JOURNEY(通常版)』(講談社)が発売となった。

ランキング常連の坂道シリーズ所属メンバーは、第2位の『乃木坂46 賀喜遥香1st写真集 まっさら』(新潮社)を筆頭に合計7点がランクインした。1st写真集の発売が続いた一方で、卒業記念となるメンバーもおり、世代交代が進む。1月には『乃木坂46写真集 乃木撮 VOL.03』(講談社)が発売される予定だ。

写真集は「通常版」と「限定カバー」の複数発売やイベント実施が増えており、ネット書店のシェアも高まっている。書店店頭での需要や売上の予測は年々難しくなっている。

ゲーム攻略本

ポケモンシリーズの関連作が好調

2022年4月発売の『Pokemon LEGENDS アルセウス 公式ガイドブック【完全版】』(オーバーラップ)が年間ベストセラーゲーム攻略本部門の第1位となった。ポケットモンスターシリーズのゲームソフトでは完全新作の9作目となる「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」が2022年11月18日に発売となり、ソフトと同日に発売された攻略本『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット 宝探し冒険ガイド』(小学館)が早くも第6位にランクイン。オーバーラップからも12月、2月に発売が続く。

2022年9月発売の人気ゲーム「スプラトゥーン3」の攻略本も、KADOKAWA、徳間書店から12月にそれぞれ発売され、話題の多い年末年始商戦となっている。

ビジネス書・コンピュータ書

『人は話し方が9割』が史上初の3連覇 資産形成、運用への関心高まる

人は話し方が9割』(永松茂久著/すばる舎)が年間ベストセラー単行本ビジネス部門では史上初の3年連続第1位となり、累計発行部数は110万部を突破。幅広い層に共通するテーマが、長く支持される一因となっている。

また物価上昇や円安など経済への不安から資産形成や資産運用への関心が高まり、第2位『ジェイソン流お金の増やし方』(厚切りジェイソン著/ぴあ)、第3位『本当の自由を手に入れる お金の大学』(両@リベ大学長著/朝日新聞出版)は、総合ランキングでもTOP10に入った。

上半期は2022年2月からのウクライナ・ロシア情勢による影響で、「地政学」関連書の刊行が増え、売上も急上昇した。8月末には京セラ名誉会長・稲盛和夫氏の訃報があり、その功績とともに『生き方』(サンマーク出版)、『稲盛和夫一日一言』(致知出版社)をはじめとした多くの著作が再び注目された。

新たなキーワードとしては、NFTやメタバースに関連した書籍の刊行が増え、売上上位にも入ってきている。

年賀状素材集の刊行点数(ムックを除く)は24点から18点に減少した。日本郵便によると年賀状発行枚数は前年比約1割減の約16.4億枚で、12年連続の減少。「年賀状じまい」という言葉も浸透しつつある。

資格試験書

Web受験が拡大。資格書の勢いは落ち着くも、引き続き店頭展開の強化を

店頭売上前年比(2022年1月~11月)は89.6%。コロナ禍による巣ごもり需要により、2020年から資格試験書の売上は前年を上回ってきたが、2022年についてはその勢いも落ち着きをみせている。

しかし、リアル会場での受験だけではなくWeb受験も一般的となったことで、受験者からのニーズは引き続き高い。例えば、日商簿記3級試験はコロナ禍前の2018年の受験申込者数は31万7187人だが、2021年のWeb受験を含めた人数は37万4893人と増加している。新たな受験スタイルが拡大しており、資格試験書も根強い需要がある市場だと言えるので、この機会に店頭展開の強化をお願いしたい。

専門書

世界情勢の影響で、地理・歴史が前年を上回る

店頭売上前年比(2022年1月~11月)は87.3%。特に大学教科書採用の多いジャンルの売上が伸び悩んだ。コロナ禍も3年目となり、オンライン授業から対面授業への移行が進んだことで教科書需要が鈍化。教科書を使用せずに独自資料を使用する授業の増加も一つの要因として考えられる。

その中でも、地理・歴史ジャンルが同106.3%と前年を上回った。2022年2月に始まったウクライナ侵攻により、世界史やヨーロッパ史、戦争関連の商品への注目が集まったことが大きく、世の中の情勢と連動した商品の動きとなっている。

児童書

人気シリーズが上位を独占、「かいけつゾロリ」はギネス記録に認定

898ぴきせいぞろい! ポケモン大図鑑(上・下)』(小学館)が年間ベストセラー児童書部門第1位を獲得した。アニメやゲーム最新作などポケモンの人気は健在。「最強王図鑑」シリーズも好調で、最新刊『ドラゴン最強王図鑑』(健部伸明監修/Gakken)は第4位に入った。

上位10位はそのほか「パンどろぼう」シリーズ4点(柴田ケイコ著/KADOKAWA)、「だるまさん」シリーズ3点(かがくいひろし著/ブロンズ新社)と絵本の人気シリーズが独占する結果となった。

絵本ジャンルは前述の人気シリーズをはじめとして、店頭が厳しい中でも健闘している。『しましまぐるぐる』(柏原晃夫著/Gakken)ほか定番のファーストブックや、『パンダ銭湯』(絵本館)などで知られる絵本作家ユニットtupera tuperaがNHK「あさイチ」で紹介され既刊の売上を伸ばした。

トピックスとしては小学館が創立100周年企画として『小学館世界J文学館』(浅田次郎、角野栄子ほか編)を11月に刊行。1冊の本で125冊の電子書籍を読むことができる、高コスパで省スペースの新しい試みの商品となる。また12月には『小学館版 学習まんが 日本の歴史』全20巻が41年ぶりの全面リニューアルで発売となった。

かいけつゾロリ」シリーズ(原ゆたか著/ポプラ社)は35周年を迎え、「同一作者によって物語とイラストが執筆された単一児童書シリーズの最多巻数」として先日ギネス世界記録に認定された。

既刊やロングセラー比率の高いジャンルのため、定番商品の欠本を防ぎ、同時に人気シリーズや旬な商品で店頭の演出をお願いしたい。

学参・辞典

高校学参は新課程に対応した品揃えを

店頭売上前年比(2022年1月~11月)は87.1%。なかでも、2021年、学習指導要領の改訂があった影響で中学学参が同83.2%と大きく前年を下回った。
2023年度は新高校2年生についても新課程での学習が適用され、引き続き新・旧課程版の併売が必要となる。誤って返品をされないようにご注意いただきたい。

また、2025年度から新課程での大学入試が実施され、旧課程での大学入試は2024年度が最後となる。現役志向が例年よりも強くなることや、学校推薦型や総合型選抜へのニーズが高まることが予想されるので、日常学習用(定期テスト対策)の定番商品、小論文や面接対策商品の売上が期待できる。

※詳細については、「日販速報」(2022年12月26日号)掲載の学参・辞典特集をご参照ください。

(「日販通信」2023年1月号より転載)

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