雲は湧き、光あふれて
引っ越し後に落ち着かなくて「熱闘甲子園」をずっと観ているうちに、選手や高校に感情移入して「甲子園に行きたい!」という思いが、どんどん募っていった。
でも、今年は大人気で、連日超満員になっていると聞く。
交通費もかかるし、入れなかったら意味ないしと躊躇していたのだけれど、今朝、よし!と気合いを入れて、JRに乗った。
名古屋から大垣と米原で電車を乗り継いで、約4時間。
梅田から阪神電車に乗って
「尼崎の次は、甲子園に停まります」
とアナウンスがあったときには、高揚して胸がどきんとなった。
甲子園駅を降りて、歩いてすぐのところに甲子園はあった。
はじめての甲子園。
ツタの茂った緑色の背景に「阪神甲子園球場」と書かれている。
ああ、甲子園だ。ほんものだ。
そう思ったら、なんだか泣きそうになった。
「混んでいたら列に並ぶだけ並んで帰ろう」と思っていたけれど、幸い、外野自由席のチケットはすぐ買えた。マジかー!神様!と思った。めっちゃうれしかった。
そのチケットを片手に「どこから入るのだろう?」と広い甲子園をぐるっと回る。
その途中で、大阪桐蔭の応援団とすれ違った。
そう、このあと第四試合は、地元、大阪桐蔭と富山の高岡商業の試合なのだ。
大阪桐蔭側のレフトの外野席は、すでにいっぱい。
ぼくは、ライトの外野入場口から入場した。
でかい。広い。すごい。
そして、耳にブラスバンドの大きな音が入ってきた。
動画で観ていたけれど、こんなに大きな音だったんだ。
広い甲子園いっぱいに響く音だった。
ちょうど入ったときには、第三試合の済美対高知商の9回裏。
3対1で負けている高知商のピッチャー北代が見事に打ち返して、ランナー1塁、3塁。
高知商のブラスバンドの音がひときわ大きく、もう叫んでいるみたいになった。
地鳴りしそうな興奮がこっちにも伝わってきて「ひょっとしたらひょっとするかも」と思ったけれど、ふわっと浮いた9番浜田の打球は、済美のレフトのグラブにすぽっと収まって、試合が終わった。
校歌斉唱。なんだか妙にポップな済美の校歌に失笑が漏れつつ、ああ、そうそう、これが甲子園だよね、と思った。
さあ、そして優勝候補、大阪桐蔭の登場。
ぼくの座っていた席は高岡商側ではあったけれど、みんな地元の桐蔭の話をしていて、うしろでは小学校くらいの少年が父親に「あれが青地、あれが根尾、あれが藤原、あれは知らん人」と解説していた(彼のおかげで実況なしでずいぶん楽しめた)。
正直、大阪桐蔭が圧勝するかと思ったけれど、そうはならなかった。
二回、大阪桐蔭、今大会初先発のピッチャー横川の制球が乱れる。
なかなかストライクが入らない。
やきもきしながら観ていると、ピッチャーマウンドって、ずいぶん周りから離れたところにあるんだなあと感じた。孤独だ。
せめて打たせれば周りがカバーできるけれど、フォアボールが続くとひとり相撲感がハンパない。周りもどうしてやることもできない。
四球、四球で満塁になって、デッドボールで押し出し一点。
「オレなら泣く」と思った。
ぼくの周りもざわつきはじめた。
素人のぼくはもう不安でいっぱいで「ピッチャー代えちゃう?」とか思ったけれど、大阪桐蔭の西谷監督はいつものポーズ(なにかの台に手をかけて、足を波止場のように出したポーズ)で微動だにしない。
ああ、高校野球って選手だけでやってるわけじゃないんだな、と思った。
船長みたいにしている監督の存在もナインを支えているのだ。そして、どっしりしてないといかんのですよ、船長は。
そこに大阪桐蔭のブラスバンドの「がんばれ、がんばれ、横川!」という華やかではげしい演奏が加わる。
「頑張っている人にがんばれとか言っちゃいけない」とかいうややこしい話は、ここでは野暮。なんというか、そういうことではなく気を送るのだ。気合いだ、気合いだ、気合いだ。
そして、マウンドには内野の選手も集まって、ごにょごにょと(かどうかはわからないけれど)なにかしゃべって、散っていった。横川投手の孤独感が薄れたように感じた。
すると、どうだろう。そのあとから横川投手、ストライクが入るようになったじゃありませんか。
こんなに短時間に「立ち直る」なんて、すごい。どんなメンタルしてるんだろう。小さい頃から野球やってるとそうなれるのかな、などと余計なことも思った。
その後も外野にボールが飛ぶと「あんなの飛んできたらビビっちゃうな」とか、ランナーを背負うたびに「おっかないなあ」とか、やたらハラハラしながら観ていた。
特にどちらを応援する気もなかったはずが、気づくと大阪桐蔭のチャンスに手をたたき、ミスに落胆したりしていた(高岡商側なのにすいません)。大阪桐蔭の根尾選手と藤原選手の名前を知っていたから、それで入り込みやすかったのだと思う。
で、その根尾選手と藤原選手。今日は、相手の山田投手に抑えられる場面が多かった。「やっぱすげえ」って言って帰りたかったけれど、すごかったのは山田投手のほうだった。
6回になって、大阪桐蔭はエースの柿木選手がリリーフに。
高岡商業は山田投手一人で投げていたから、中小企業と大企業みたいで、このへんにも余裕があるよなあ、心憎いぜ、と思った。
余裕といえば、ブラスバンドも大阪桐蔭はすごく立派で、音の数がぜんぜん違った。チアリーダーの青いポンポンが遠くからもよく見えて、こりゃすごいって感じだった。
甲子園では選手だけでなく、ブラスバンドも戦っている。
で、物量が多くて技術も高い大阪桐蔭だったけれど、個人的には音の少ない高岡商の応援のほうが好きだった。なんか気合いみたいなものが違って聞こえた。
優勝候補と挑戦者の違いなのか、「あの藤原から三振を奪った」となると応援団が沸きに沸くのがわかったし、周りのお客さんも「あのピッチャーすごいわ」と感心していた。高岡商の方が一つ一つのチャンスを喜びやすかったのかもしれない。
そのぶん、今日の大阪桐蔭は、あんまりすごそうに見えなかった。
それだけ高岡商の山田投手がよかったということなのだろう。
でもね、それでもきっちり3対1で勝つのよねー。
調子が悪くても、根尾も藤原もそんなに打たなくても、勝つ。
そのへんが「優勝候補」と言われるゆえんなんだろうなあ。
うしろの親子が「9回終わったら、出るのにぐちゃぐちゃになるで」と話すのを聞いて、7回で一足先に席を立った。
見納めに「阪神甲子園球場」という看板を見たら、なんかじーんとして「本当にありがとう」と思った。
長々と書いてきたけれど、甲子園、最高っす。
本当に行ってよかった。
今度は、ぜひ一試合まるごと観たいです。
(ってゆーか、明日も行きたい。)
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