稲荷ですが_なにか_

寺は、低音。

春は、あけぼの。
やうやう白くなりゆく
山ぎは 少し明りて
紫だちたる雲の細くたなびきたる。
(清少納言『枕草子』より)

みたいなノリで言うならば、寺は、低音。
つくづくそう思う一日だった。

今日は祝日ということで、奥さんと二人、厄除けに出かけた。

厄はあなどれない。
昨年、僕は本厄でなかなかにハードな一年を過ごすことになったからだ。
いま思えば、痛い思いをする中で必要な変容が起きたから、厄が敵ってわけではないのは分かるけれど、それにしたって今年はマイルドにお願いしたい。

ということで「除けなくてよくね?」派の奥さんを説得して、厄除けに出かけたのであった。

行き先は、豊川稲荷。
もともとは岡崎の龍城神社に行くつもりだったが、名鉄のホームで「豊川稲荷行」という表示を見た奥さんが「豊川稲荷行きたい!」と叫んだため、急遽変更になった。「ドラゴンキャッスル!」とオッス、オラ悟空的にワクワクしていた僕としては一瞬ひるんだが、こういうときの奥さんの直感には従うことにしている。

そして、その直感は正しかった。

豊川稲荷は狐をまつった神社と思われがちだけれど、妙厳寺というお寺さんで、まつっているのは、霊神・豐川吒枳尼眞天(とよかわだきにしんてん)。

この神様が「稲束を担いで、手に宝珠を捧げ、白狐にまたがって」という格好だったことから「豊川稲荷」と呼ばれるようになったそうな(ここは『まんが日本昔ばなし』の市原悦子さんの声で読んでいただきたい)。

そんな歴史にへーと言ったり「オン シラバッタ ニリウン ソワカ」というご真言を唱えたりしながら、ご祈祷のために本殿へ。

格好いいんですよね、お寺自体が。で、ご祈祷はさらにいい。

写真を撮るような場所ではないので、文章力の限界に挑戦したいのだけれど、お坊さんたちが一斉にど低音でお経を唱えると、なんとも言えず気持ちがいい。「寺は、低音」と思ったのは、このときだ。

話は脱線するけれど、いまのポップソングはキーがどんどん高くなる傾向があるけれど、この低音のよさを味わうとお経でボイトレしたくなる。そうして地声が太くなれば、上の方の音もよくなる気がした。

などということは後から思った事で、そのときにはただただお経の音色にひたって、じーんとしていた。

それから突如として、お坊さんたちが立ち上がった。しゃーっ、しゃーっと手にしていたお経の本が、アコーディオンみたいに伸びる。下に伸びては戻り、伸びてはまた戻る。このしゃーっで一回お経を唱えたことになるらしい。ちょっとすごいルールだ。

そんな感じで摩訶不思議な時間が過ぎていった。お寺でのご祈祷ってはじめて受けたけれど、ちゃんと「厄除け」とか「家内安全」とか言ってくれた。ついでにセットで書いていない「開運満足」を添えてくれたのもうれしかった。

そして、なんと言っても!
ここのお寺は、終わった後に接待といって食事がいただけるのです!

きゃーっ。

奥さんと二人、大変にテンションが上がった。

これがまた、おいしくてね。
軽食くらいのレベルかと思ったら、しっかり一食分あって、お味噌汁もおかわりできて「貪るなかれ」と箸袋の裏に書いてあったけれど、しっかり満腹になって帰ったのでした。

いやー、よかったなあ。お寺のご祈祷。
神社の場合は「なんとかでおじゃる」みたいな高音が特徴だと思うけれど、お寺のじっとりとした低音でのご祈祷は、土着って感じがして日本人に合っている気がする。公家と武家の違いというか。

あとは商売繁盛のお寺だからか「豊川」という名前どおりの豊かさだった。
トイレの便座だってあったかくてウォシュレットだし、お手洗いの蛇口からお湯が出てきたときには「本当にお寺?」って思ったくらい。

そんなわけで、大満足の豊川稲荷。
改めておそるべき奥さんの直感に敬服した一日でした。
すごいね、女性の直感って。

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