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案外、本だった。

昨日は快晴。僕たち夫婦は仕事がお休みだった。
雨降りが続いた後の好天で、どこかに出かけたい気分だったけれど、世は外出自粛。平日の真っ昼間にどこにも行くなという話ではなかったと思うが、なんとなく気が引けるし、行きたい場所も思いつかなかった。

スマホは見続けると疲れてしまうし、漫画は読み尽くした。YouTube は退屈だし、うちにはテレビもないし、ということで昼寝をしたらなにもすることがなくなって、仕方がないので傍らにあった本を読んだ。

これが思いのほかよかった。

本はとても静かだ。そして一ページを読むのに漫画より時間がかかる。ちょっと負荷の強めのトレーニングマシンみたいな手応えがある。

だから少しとっつきづらいけれど、その代わり、弾みがつくとグッと没入できる。いまいる場所を離れ、本の中の世界に誘ってもらえる。漫画にも没入感はあるが、サクサク読めるぶん、この魔法はすぐに解けてしまう。

それに本の言葉は、きちんと時間をかけて選ばれているのが分かる。著者と編集者とがどうしたら読みやすいか、真意が伝わるかを考え、何度も推敲して選ばれた言葉群は、ふだん目にする SNS やブログなどの文章とは質が違って感じられる。(その意味では、僕がここに書いている文も本ほどの質量はない。ちょっとすまなく思う。)

そんなわけで、夫婦二人、隣にいるのに特に言葉は交わさず、黙々と本を読んだ。読み終えたら、どこか遠くに行って帰ってきたような気分になって、出かけられなかった残念さが消えた。

物凄いスピードで刻々と更新されるコロナ情報に比べて、本の情報は遅く、揺るぎない。ぺらぺらな自分を吹き飛ばすような分厚い思考の跡を、作者といっしょに辿ることで残る読み応えが、自分の呼吸を取り戻したように感じられて心地よかった。

そういえば、コロナのニュースがはじまって以来、僕は電話だとか本だとかすこし古いものにばかり惹かれている。そうしたものには、たっぷりの沈黙と静けさがあるような気がして、なんだかいいんだよなぁ。

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