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長期休暇による読書強化月間


余りある休暇にうつつを抜かし、惰眠を貪る生活。
流石に罪悪感を覚え始めました。

如何にして有益な暇とするのか。
それはそう、読書です。能動的な読書です。
間違いありません。

しかしながら新しい作家に手を出す度胸も、勇気も、猛々しい矜持も、休みで堕落しきった私は有していません。

そんな日頃に見つけたのが、朝井リョウさんの短編集「世にも奇妙な君物語」。
読みに読み慣れている朝井リョウ作品ならばと思い、飛びつきました。

以前図書館で借りたはいいものの、1ページも捲ることなく返却に至った思い出深い本ですね。
再び読む機会が作れたこと、嬉しい限り。


5本の短編からなる「世に奇妙」リスペクトの本作ですが、著者自身が本家「世にも奇妙な物語」のドラマプロデューサーに会い、そこでの会話を踏まえて書き進めたらしいです。
短編5本というのも、2時間の枠に5つの物語を並べている本家を意識してのことだとか。

どの物語も余すことなく奇妙でしたが、なかでも印象に残った2話について、感想を垂れさせていただきます。

※ここからはネタバレが含まれます。


世にも奇妙な君物語

異様な世界観。複数の伏線。先の読めない展開。想像を超えた結末と、それに続く恐怖。もしこれらが好物でしたら、これはあなたのための物語です。待ち受ける「意外な真相」に、心の準備をお願いします。各話読み味は異なりますが、決して最後まで気を抜かずに──では始めましょう。朝井版「世にも奇妙な物語」。

朝井リョウ/世にも奇妙な君物語/講談社文庫


第1話 シェアハウさない


誰かと何かを共有する場所であるシェアハウス。
共通点の見当たらない住民は一体何をシェアしているのか、というところから話は始まります。

主人公である浩子はフリーのライターをしており、次のシェアハウス特集で一発当てようと画策していました。
そんな時に見つけたあるシェアハウスは、自立した男女4人が共同生活を送り、節約や恋愛を目的とした一般的なそれには見えません。
しかし、これこそが浩子の書きたかったシェアハウス像。擦り倒されたシェアハウスネタとは一線を画した記事が書けるだろうと意気込みながら、浩子は住民たちと関わっていきます。


初読時、シェアハウスという親しみやすい題材に驚いたのを覚えています。
"世にも奇妙な"と謳われている割に日常生活と地続きで、ライターが潜入取材と称して住民たちと関わる姿も至って現実的。
一方で、主人公のトラウマや主人公の問いに対してのらりくらりと躱す住民たちを見ていくうちに、序盤から燻っていた異物感がじわじわと実態を帯びていきます。

そしてラストの「首、細くてかわいいね。」という言葉で、それまで散らばっていた全ての事象が収束します。

なんというか、私の知っている「世に奇妙」とは異なるテイストで、ミステリー要素の強い物語だと思いました。
この話の核である"シェアハウスの存在意義"が、"異常性愛を抑えるため"というのもかなり朝井リョウしてましたし、短編ながら十分なカロリーがありましたね。

個人的に、「俺が選んだわけじゃないんだ、こんな人生」「だけど、俺の人生なんだよ」と言いながら住民の1人が浩子に迫る場面は、恐怖だけでなく、社会の生きづらさを感じました。
監視し合い、抑制し合い、"普通"を演じていた彼らが、ただの異常者と一蹴されてしまう世の中。
多様性が掲げられる現代では、より残酷に映りますね。



第5話 脇役バトルロワイヤル


世界的演出家野田秀子の舞台で主役を張るために、俳優である淳平は最終選考のオーディション会場を訪ねます。
しかしいざ会場に着いてみると、そこにいたのは性別、年齢、体型など、何もかもがばらばらの俳優5人。

唯一、共通点として挙げられるのは、"脇役として"名を馳せていること。

野田は一体何を考えて彼らを選んだのか、意図は未だ読み取れません。

オーディション開始時刻が近づいても野田が現れないことを不審に思いつつ、"脇役あるある"で盛り上がる俳優たち。
そして時計の針が定刻を示した時、彼らの目の前に置かれたカメラがひとりでに起動します。


こういうの好き、が詰まりに詰まっている物語でしたね。

本書1話から4話がドラマとなっている世界で、淳平を除いた5人が各話の脇役を演じていることが判明します。
「あの時のこのセリフが─」と言われる度に、何回もページを遡って確認してしまいました。

この物語の素晴らしさは、1話から4話を読んできた読者ならば、より実感できると思います。

それは、「あの時のこのセリフ」が状況説明になっていたり、シリアスな場面を和ませたりしていることを物語を読み進めていくなかで、読者は身をもって体験しているからです。

主人公の淳平は、脇役バトロワを通じて脇役の重要性に改めて気づき始めますが、これは本書を通じた私たちも同じだったのです。

だからこそ、ラストで主人公自身が脇役になることを選ぶ描写は胸に刺さるものがありました。

最後の物語に相応しい、後味の良い話でした。



有名どころの朝井リョウ作品ばかり読んでいるミーハーの感想ですが、相も変わらず人物描写が秀逸でしたね。

自分のために他人を利用する。人間の当たり前に持つ傲慢さを綿密に描くことで、奇妙さと気持ち悪さが倍増していました。
短編ということもあり、既読の作品にも増して疾走感が凄まじく、割と早いペースで読んでしまいました。

最近映画化された「正欲」も改めて読み直したいですし、過去作も読み漁りたいですし、なんなら積読本ありますし、読書時間の確保が急がれますね。


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