旅立ち
先日実家で飼っていた犬が14年11ヶ月の犬生を全うしワンダーランドへ旅立った。
この一年で目がほとんど見えなくなり、耳も遠くなり、歩けなくなりと徐々に弱っていく姿を見ていたし、母からのご飯も水も食べなくなったという連絡がきたときは覚悟を決めていたが、やはり愛犬の亡骸を目の前にすると感情が込み上がり、本当に旅立ってしまったのだと実感した。
そんなマロン(犬の名前)との出会いは今でも鮮明に覚えていて、普段スピリチュアルなものは信用しない人間だが、これは運命と呼べる、そんな出会いだった。
心の整理をする意味でもここに書き留めておきたい。
先代の犬を13年で亡くして1年が過ぎた頃、当時大学生だった私は母と近所のペットショップへ足を運ぶようになった。
犬を見ては「かわいい」と言って、時には抱かせてもらい、帰るを繰り返していた。
今思えば冷やかしこの上ない客だったろう。
そんなことを何度も繰り返して1年が経とうとしていたある日、いつも行く店に新しい犬が入ってきていた。
それがマロンである。
今までも仔犬を見ては何度も「かわいい」を連呼してきたが、マロンはそれまでの犬たちとは違って格段にものすごくかわいかった。
張り付くように見る私たちに店員が気を遣って抱っこをさせてくれた。
まだ生後3か月の白くてふわふわの毛並みをした身体は軽くてあたたかくて仔犬らしい優しい匂いがした。
まん丸の黒い目とそれと同じ大きさのかわいらしい鼻をしたぬいぐるみのような顔立ちと愛らしい表情に私も母も一目惚れしたのだった。
だがものすごく悩んだ。
できることなら今すぐにでも連れて帰りたい気持ちはある。けれども特に母が先代の犬の死をまだ引きずっていて新しい家族を迎える決心がなかなかつけずにいた。
今はただただかわいいけど、いつかは看取らないといけない。
そしてまた辛く悲しい思いをしなければならい。
やがて訪れる最期を迎えるのがこわい。
そんな思いが駆け回っていたのだろう。
散々悩んだ挙句、その日は一旦帰ることにした。
家に帰ってからも数日間は「あの子ほんまにかわいかったよな~」と話をするほど気に入ってしまった。
それから数週間経ち、またあの仔犬がいるかなという期待と望みをもって再び店に訪れた。
しかし、その仔犬はもういなかった。
きっとかわいいからすぐに決まってしまったんだろう。
そう母と話しながら母も私も少し後悔をした。
そしてまた月に数回色んなペットショップへ足を運び、犬を見てはかわいいと言って帰る生活に戻った。
そんなある日。
もう顔を覚えられているしこちらも店員のことも今いる犬も把握しているいつものペットショップへ赴いた。
すると見覚えのあるあの白いモコモコしたかわいい犬の姿が。
一瞬であの時のわんこだと気付いた。
「なんで?えっなんで??」と私も母もてっきり飼われてしまったと思っていたので変なテンションになっていた。
店員曰く、あれから家族が決まらずに何店舗か回ってまたこの店に戻ってきたのだそう。
有無を言わず「連れて帰ります!」と即決。
最初に出会った日から4ヶ月後の再会だった。
季節は春に変ろうとしている暖かい日にマロンは新しい家族としてやって来たのだ。
それからマロンはたくさんの幸せをわたしたちにくれた。
彩りを与えてくれた。
笑顔でいっぱいにしてくれた。
マロンがいたからチーズ(今の2匹目)も迎えていっそう賑やかになった。
私たち家族にとってマロンはかけがえのない存在だった。
本当にありがとう。
がんばったね。おつかれさま。
私たち家族の元へ来てくれてありがとう。
私たちの家族になってくれてありがとう。
ずっとずっと大好きだよ。
きっと今は身体の不自由から解放され、一番元気なあの頃の姿で大地を走り回り、お気に入りのおもちゃで遊んで大好きなおやつを食べて、先代の犬と共に仲良くのんびり過ごしているのだろう。
そこから見守っていてね。
また必ず会おうね。
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