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02.アロマテラピーと認知症ケアの事例

1.アロマテラピーを導入したきっかけ

1)ライフケアの5CARE

私たちは、ライフケアでの介護を「5CARE」(ファイブ・ケア)と名付けています。

①これまで歩んで来られた人生を尊重した【ストーリー介護】
②残存能力を大切にし、出来ることを大事にする【パーソナル介護】
③介助時はひとりの入居者様に介護職が一人つき、しっかり時間をかけて寄り添うことで心と心が通じ合うことを大事にする【マンツーマン介護】
④デジタル機器を活用し、睡眠の深さや心拍数等を可視化することで一人ひとりの状況を把握し、次につなげる【デジタル介護】
⑤自由な発想で快適に過ごせることを大切にする【アイデア介護】https://youtu.be/unTyRBADUgI?si=8BT5-Uy4UmfaN8J7

2)鳥取大学の研究成果に基づき、入居者様で再現を試みた

より良い介護方法はないものかと情報収集をしているさなか、鳥取大学の研究で、アルツハイマー型認知症の方にアロマテラピーを実施したところ、認知機能テストが改善したという結果があることを知りました。

▼論文はコチラ


「はっぴーらいふ」の入居者様は入居年数が長引けば加齢に伴って介護度が高くなってしまったり、また入居時には認知症のなかった方も認知症が進行してしまう傾向があります。また不足する介護人材では、見守りが行き届かないおそれもあります。

少しでも入居者様のQOLを向上し、職員の負担を軽減できないだろうか。

そこで当社でもアロマテラピーを実施してみることになりました。

2.アロマテラピーの実施方法

鳥取大学の研究に基づき、以下の方法で実施しました。

①昼用・夜用/2種類の精油を使用
・ローズマリーカンファ―とレモンをベースにし、すっきりした香りが気分をリフレッシュしてくれる【昼用】と、真正ラベンダーとスイートオレンジをベースにし、やさしく甘い香りが気分を落ち着かせてくれる【夜用】を用いました。
人によっては、昼用のみ、または夜用のみと、一種類だけ使用する場合もありました。どちらを使用するかは、入居者様の匂いの好みなど、施設現場の判断で行いました。

昼用
夜用

②香りを嗅ぐ2種類の方法/パッチとボトル
「はっぴーらいふ」の場合、入居者様のアロマテラピーは、誤飲防止のため、あらかじめ精油がしみ込んだパッチタイプを活用していました。1日、昼用と夜用を1回ずつ、人によっては1~2枚を張り替えます。
襟の裏側や寝具(枕の下)に張り付けるだけで手軽で簡単に芳香浴ができます。日付を書くことで張り替え忘れを防止しています。

入居者様が剥がしてしまう場合は、誤飲防止のため手の届かない場所にデュフューザーを置いて、芳香浴ができるようにしていました。

3.評価基準


2023年2月から8月にかけてのべ32名に実施し、その結果を二つの基準で評価しました。

1)評価基準

①BPSD(=認知症の周辺症状。主に不穏、徘徊など)について
それまで険しかった表情が穏やかになった、徘徊が減少した、など
施設での様子観察をベースにしています。

②睡眠データについて
一部の施設を除き、睡眠センサー「眠りスキャン」を導入しています。
ベッド上で睡眠しているか、覚醒しているかどうか。離床しているか心拍や体動などのデータが取得できます。
「睡眠時間」、「睡眠効率」の2つをメインに、「睡眠潜時(寝付くまでの時間)」、「中途覚醒」、「離床回数」を参考指標として評価しました。


これにより、原則としてアロマテラピー開始前後の3か月を比較しました。
(一部、データがうまくとれず、使用前2か月からの比較になった場合もあります)

4.アロマテラピーの結果

①のBPSD(不穏症状)について
不穏や徘徊などの減少が見られた方が11名(母数32名、34%)

②の睡眠について
睡眠時間または睡眠効率(就寝中に睡眠している時間の割合)に上昇または上昇傾向が見られた方が、14名(同、43%)

①または②のいずれかにおいてプラスの結果が出た方が19名(同、59%)
という結果になりました。

5.具体的な事例

 1)A様(要介護4・89歳、嗅覚あり、昼用・夜用パッチ使用)
〇使用前
・昼夜逆転、夜間徘徊あり、他の方の居室に入室したりされる。
・過食傾向があり、食後すぐにお腹が減ったと言われる。
・異性の入浴介助の拒否があった。

〇使用後
・夜間徘徊や過食の回数が減少。
・日中のレクレーション等にも意欲的に参加されるようになった。
・入浴拒否もなくなり、職員の負担も軽減。
・表情もにこやかになられた。

2)B様(要介護1、嗅覚不明、夜用パッチ使用)
〇使用前
一年前の入居から認知症がゆっくりと進行。
テレビに対して執着があり、テレビ欄のコピーが真っ赤になるほどペンでマーカーしていた。認知症の進行に伴い、昼夜逆転傾向もみられ、夜間は寝ずにテレビを見る状態に。
R5.5半ばより主治医の指示にて睡眠導入剤の服用を開始。
開始直後はいつもよりは休まれる傾向になったものの、いまいち夜間の不眠は改善せず、R5.6月からアロマパッチの使用を開始した。
〇使用後
使用開始日より著明に就寝時間が早くなり入眠時間も大きく増える。
最近よく寝ているとの声を聴き、日中の活動量も増えている様子。

(眠りスキャンがない施設のため、夜勤巡回者による観察記録)

3)C様(要介護5、嗅覚不明、昼用・夜用パッチを使用)
〇使用前
床を這って居室から出られるような行動をされる方。
〇使用後
8月時点での施設からの報告では「(BPSD的には)変化は見られない」とのことでしたが、睡眠センサーのデータを見てみると、徐々に睡眠効率が上昇していることがわかりました。
11月現在の報告では、元々はトイレの訴えが数秒ごとにある方でしたが、最近わずかに落ち着いてきているように感じられる、とも。

C様の睡眠効率の遷移

4)施設からの報告
〇徘徊や他の方の居室訪問が減少した事例

以前は他の利用者様の居室へ入室されることがありましたが、現在では一度も入室されておりません。使用前では起床時に落ち着きがなくソワソワしている様子が観られたり帰宅願望がありましたが、現在ではありません。
お一人で食堂へ来られることはありますが、穏やかにお過ごしいただいております。

〇介助負担が減少した事例

入浴の際に異性介助となると拒否されるので同性介助になるように調整していましたが、人員不足のなか職員の訪問スケジュールの調整に苦労していました。アロマを使用した数日後に、「〇〇さん(利用者さん)、今日は□□くん(異性)の介助になるけど、いいかな?」て聞いてみると、「いいよ」とうなずいてくれました!夜間帯の徘徊回数も減少傾向にあります。

ポータブルトイレの中身をすべて洗面所に移してしまうような行動をされる方が、徐々に穏やかになられ、職員も清掃に手がとられることが少なくなりました。お部屋もかなり尿臭がきつかったのですが、アロマの香りが部屋にしみ込んだのか、いい匂いがするようになりました。

〇11月現在になってから新たな報告も

帰宅願望の強い方で、家に電話をかけてほしいと事務所に来られ、つながらないとなると「なんでや!!」激昂されることが頻繁でした。アロマテラピーを開始してからは、「電話つながらなかったわ」とお伝えすると、「そうか……」と受け入れられるようになりました。

〇 入居者様の表情にも変化が

起床時の表情がおだやかになりました。

5)変化がなかった例も
「特に変化がない」という声や、「かえって興奮されるようになった」という声もわずかにみられ、そのような場合にはすぐに使用を中止しました。また、ご本人や周りの方で匂いを嫌がれる場合にも使用はしていません。
「開始直後は穏やかになられたが最近はそんなこともなく、以前(物盗られ妄想など)のように戻ってしまった」という事例もありました。
100人中100人に効果があると保証されるものではありません。
なお、要介護度や年齢による差異は見られませんでした。

4.まとめ

夏は熱帯夜のせいか全体的に睡眠の質が下がるような傾向も見てとれたり、その他の要因も完全に排除できないため、単純にアロマテラピーによる効果とは言い切れない部分もあります。しかし、約6割の方にBPSDの軽減または睡眠の質の向上がみられました。

職員からは「ポータブルトイレの中身を洗面台にひっくり返される方がいて、掃除などに手がとられることがあったけど、だんだんと落ち着かれてきたので仕事が楽になった」という声もみられました。

次回から、導入事例のモデルや、なぜアロマテラピーが認知症の症状に効果があるかなどをまとめていきたいと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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