02.アロマテラピーと認知症ケアの事例
1.アロマテラピーを導入したきっかけ
1)ライフケアの5CARE
私たちは、ライフケアでの介護を「5CARE」(ファイブ・ケア)と名付けています。
2)鳥取大学の研究成果に基づき、入居者様で再現を試みた
より良い介護方法はないものかと情報収集をしているさなか、鳥取大学の研究で、アルツハイマー型認知症の方にアロマテラピーを実施したところ、認知機能テストが改善したという結果があることを知りました。
▼論文はコチラ
「はっぴーらいふ」の入居者様は入居年数が長引けば加齢に伴って介護度が高くなってしまったり、また入居時には認知症のなかった方も認知症が進行してしまう傾向があります。また不足する介護人材では、見守りが行き届かないおそれもあります。
少しでも入居者様のQOLを向上し、職員の負担を軽減できないだろうか。
そこで当社でもアロマテラピーを実施してみることになりました。
2.アロマテラピーの実施方法
鳥取大学の研究に基づき、以下の方法で実施しました。
①昼用・夜用/2種類の精油を使用
・ローズマリーカンファ―とレモンをベースにし、すっきりした香りが気分をリフレッシュしてくれる【昼用】と、真正ラベンダーとスイートオレンジをベースにし、やさしく甘い香りが気分を落ち着かせてくれる【夜用】を用いました。
人によっては、昼用のみ、または夜用のみと、一種類だけ使用する場合もありました。どちらを使用するかは、入居者様の匂いの好みなど、施設現場の判断で行いました。
②香りを嗅ぐ2種類の方法/パッチとボトル
「はっぴーらいふ」の場合、入居者様のアロマテラピーは、誤飲防止のため、あらかじめ精油がしみ込んだパッチタイプを活用していました。1日、昼用と夜用を1回ずつ、人によっては1~2枚を張り替えます。
襟の裏側や寝具(枕の下)に張り付けるだけで手軽で簡単に芳香浴ができます。日付を書くことで張り替え忘れを防止しています。
入居者様が剥がしてしまう場合は、誤飲防止のため手の届かない場所にデュフューザーを置いて、芳香浴ができるようにしていました。
3.評価基準
2023年2月から8月にかけてのべ32名に実施し、その結果を二つの基準で評価しました。
1)評価基準
①BPSD(=認知症の周辺症状。主に不穏、徘徊など)について
それまで険しかった表情が穏やかになった、徘徊が減少した、など
施設での様子観察をベースにしています。
②睡眠データについて
一部の施設を除き、睡眠センサー「眠りスキャン」を導入しています。
ベッド上で睡眠しているか、覚醒しているかどうか。離床しているか。心拍や体動などのデータが取得できます。
「睡眠時間」、「睡眠効率」の2つをメインに、「睡眠潜時(寝付くまでの時間)」、「中途覚醒」、「離床回数」を参考指標として評価しました。
これにより、原則としてアロマテラピー開始前後の3か月を比較しました。
(一部、データがうまくとれず、使用前2か月からの比較になった場合もあります)
4.アロマテラピーの結果
①のBPSD(不穏症状)について
不穏や徘徊などの減少が見られた方が11名(母数32名、34%)
②の睡眠について
睡眠時間または睡眠効率(就寝中に睡眠している時間の割合)に上昇または上昇傾向が見られた方が、14名(同、43%)
①または②のいずれかにおいてプラスの結果が出た方が19名(同、59%)
という結果になりました。
5.具体的な事例
4)施設からの報告
〇徘徊や他の方の居室訪問が減少した事例
〇介助負担が減少した事例
〇11月現在になってから新たな報告も
〇 入居者様の表情にも変化が
5)変化がなかった例も
「特に変化がない」という声や、「かえって興奮されるようになった」という声もわずかにみられ、そのような場合にはすぐに使用を中止しました。また、ご本人や周りの方で匂いを嫌がれる場合にも使用はしていません。
「開始直後は穏やかになられたが最近はそんなこともなく、以前(物盗られ妄想など)のように戻ってしまった」という事例もありました。
100人中100人に効果があると保証されるものではありません。
なお、要介護度や年齢による差異は見られませんでした。
4.まとめ
夏は熱帯夜のせいか全体的に睡眠の質が下がるような傾向も見てとれたり、その他の要因も完全に排除できないため、単純にアロマテラピーによる効果とは言い切れない部分もあります。しかし、約6割の方にBPSDの軽減または睡眠の質の向上がみられました。
職員からは「ポータブルトイレの中身を洗面台にひっくり返される方がいて、掃除などに手がとられることがあったけど、だんだんと落ち着かれてきたので仕事が楽になった」という声もみられました。
次回から、導入事例のモデルや、なぜアロマテラピーが認知症の症状に効果があるかなどをまとめていきたいと思います。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?