旅行をしたくないから旅行回数が減るのか「トラベル・ディバイド」の考察④
引き続き、「トラベル・ディバイド」について、考察します。「トラベル・ディバイド」の理由はお金や時間が足りないためではなく、「重い荷物」である可能性が極めて高い、と第2回、第3回で検証しました。今回は「トラベル・ディバイド」を解消すべき理由を探ります。そもそも、「トラベル・ディバイド」が発生していても、困っている人がいないのであれば、何も問題がないためです。
今回もシニア(高齢者)層の旅行回数減少について考えてみます。内閣府によると「在宅身体障害者の年齢階層別の内訳は65歳以上が72.6%」とあり、シニア(高齢者)層と障がい者は密接に関係するためです。また、世界的な高齢化の流れの中で、シニア(高齢者)層の旅行回数の考察が重要であると考えるためです。
ソニー生命の「シニアの生活意識調査2023」の調査で「現在の楽しみ」というアンケート調査があります。この調査は日本の50歳~79歳の男女1,000名に対する調査です。「現在の楽しみ」の1位は「旅行(39.9%)」でした。以下、2位が「テレビ/ドラマ(38.4%)」、3位が「グルメ(27.1%)」でした。2017年から「現在の楽しみ」という調査項目がありますが、旅行は7年全てで1位でした。従って、シニア(高齢者)は「旅行」に強く行きたいと思っていると言っていいでしょう。「旅行に行きたい」のに、「旅行に行けない(旅行回数が減少する)」ということは「トラベル・ディバイド」を解消すべき理由の一つです。
別の視点から、シニア(高齢者)層の旅行スタイルを考えてみましょう。ここでは「クルーズ船の旅行」に注目してみました。「クルーズ船の旅行」はお金も時間もあるシニア層に最適の旅行スタイルと言えるからです。荷物は船室に置き続けることができるため、「重い荷物」を持ち運ぶ必要はありません。
CLIA (Cruise Lines International Association)の「2019 Asia Market Report」によると日本人のクルーズ船客の世代別構成比は50歳代が12%、60歳代が28%、70歳以上が31%と50歳以上で全体の71%を占めました。特に、旅行回数が大きく落ち込む70歳以上がクルーズ船客の最大の構成比であることは驚きです。クルーズ船客全体に占める50歳以上の構成比は日本同様に高齢化が進む韓国では70%、香港で61%、シンガポールで57%などと多くの国でシニア層が過半となっています。やはり、お金も時間もあるが、「重い荷物」を持ち運びたくないシニア層に最適な旅行スタイルと言えそうです。
では、世界的にクルーズ人口はどの程度なのでしょうか。CLIAによると2019年の世界のクルーズ人口は2,970万人でした。このクルーズ人口は2027年に約1,000万人増の3,950万人に達するとCLIAは予測しています。一方世界の国際観光客数は2019年にの14億6,100万人(出所:国土交通省「観光の動向」)でした。2019年時点において、クルーズ人口は世界の国際観光客数の2.0%に過ぎません。従って、「クルーズ船の旅行」はシニア層に最適な旅行スタイルと言えますが、世界全体から見ればシニア層全体を受け入れるわけにはいかないと言えそうです。
ここまでの分析によるとシニア層はお金も時間もあり「旅行に行きたい」が、「重い荷物」を持ち運ぶ体力がないから旅行を諦めている。それでも旅行に行きたい人は「クルーズ船の旅行」を選択しているが、「クルーズ船の旅行」には十分な供給能力がない、と言えそうです。そのため、国際観光客の主要な交通手段である飛行機(空路)での旅行においても、「重い荷物」を持ち運ぶ必要がない旅行が求められています。
また、シニア(高齢者)層が旅行回数を増やせば、社会的コストを大きく下げ、経済効果を生む効果も期待できます。この点については次回以降に分析します。
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