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観光客誘致策の提案②:地方でバリアフリー化が進まない理由は多くある。しかし、その解決策もある

「地方の小さな駅で大きな荷物と旅行者が階段を前に途方に暮れている」 - このような光景は、日本の多くの地方の駅で珍しくありません。前回、鉄道旅行の重要性と駅のバリアフリー化の必要性を明らかにしましたが、その実現には多くの障害が立ちはだかっています。

今回の記事では、なぜ駅のバリアフリー化が進まないのか、そして地方自治体や鉄道会社が直面するこれらの課題をどのように乗り越えることができるのかを探求します。今回も前回使用した相関係数の概念を踏まえて、具体的な相関係数をデータ分析に使用します。

都道府県別の「駅のバリアフリー化率」と人口密度、人口増減率、財政力指数は密接な関係があります。それぞれ相関係数は0.86、0.85、0.84と極めて高い相関性となっています。これらのデータは、駅のバリアフリー化と地域の人口動態、財政状況が密接に関連していることを示しています。人口密度が低い地域ということは人が少ないということですから、鉄道の乗客も少ない地域と言えます。人口減少によってさらに乗客が減少し、地方自治体や鉄道会社の財政力が悪化することにより、駅のバリアフリー化が進まないという悪循環ではないでしょうか。

出所:総務省統計局「国勢調査」国土交通省「令和3年度末 都道府県別の段差解消への対応状況について」
出所:総務省統計局「人口推計」国土交通省「令和3年度末 都道府県別の段差解消への対応状況について」
注:財政力指数とは、地方自治体の経済的な能力を示す指標で、これが低いことは自治体の収入が限られており、公共投資の能力に制約があることを意味します。
出所:RESAS「自治体財政状況の比較の財政力指数2020年」国土交通省「令和3年度末 都道府県別の段差解消への対応状況について」

このように、人口動態と財政状況が駅のバリアフリー化率に深く関わっていますが、地元住民の視点ではどうでしょうか?彼らの日常生活が、バリアフリー化への認識にどのように影響しているのでしょうか。

人口密度が低い地方の地元住民は「駅のバリアフリー化率」の低さをそれほど認識していない可能性があります。「駅のバリアフリー化率」と自動車保有台数の間には相関係数がマイナス0.83と強い負の相関性があるためです。鉄道運行本数の少なさなどにより鉄道利用が不便なため、多くの人々は自家用車を利用し、鉄道をあまり利用していません。鉄道を利用しなければ、バリアフリー化率の低さを実感できません。

出所:一般財団法人 自動車検査登録情報協会国土交通省「令和3年度末 都道府県別の段差解消への対応状況について」

また、「駅のバリアフリー化率」とパスポート保有率の相関係数は0.86という強い正の相関性があります。パスポート保有率が低いということは海外旅行の際に持ち運ぶ大きな荷物を鉄道や自動車で運ぶ機会が少なく、駅がバリアフリーでないことによる不便さを実感できていない可能性があります。不便さを実感するためには、定期的に海外旅行用の大きな荷物を駅や車両に持ち込んで、旅行者目線になることなどが必要ではないでしょうか。

出所:外務省「旅券統計」国土交通省「令和3年度末 都道府県別の段差解消への対応状況について」

駅のバリアフリー化率が低いと鉄道旅行が減り、旅行者減少に繋がっていることから、旅行者増加のためには駅のバリアフリー化率を向上させる必要があります。しかし、自家用車の利用増加や海外旅行にあまり行かないことから、地元の人々がその必要性を感じていません。また、厳しい財政事情から地方自治体や鉄道会社はバリアフリー投資に踏み切らないのではないでしょうか。

そのため、お金をかけずに駅のバリアフリー化、若しくは実質的にバリアフリーに近い状況にして、旅行客誘致に取り組む必要があります。「根本的な駅のバリアフリー化」のためにはエレベーターやエスカレーターの設置コストが高額となります。ボランティアが駅の階段で旅行者の荷物を運んであげるという動きもありますが、ボランティアに依存し続けることは持続性に問題があります。

一方、旅行者が持ち運ぶ荷物を減らし身軽になることにより、階段があっても負担を感じにくい状況を作ることは現実解と言えるのではないでしょうか。日本人であれば、自宅から宿泊施設まで自分の荷物を配送できますし、外国人でも宿泊所間の配送サービスがあります。また、当社のようなレンタルサービスの利用で荷物を減らすこともできます。このように、荷物が負担でバリアフリーな場所でないと行けなかった旅行者をいかに「引き算」の発想で身軽に移動してもらうかということが今後の旅行業発展のカギになると思います。

なお、高齢者や障害者、ベビーカーを利用する乳幼児連れの家族の旅行などに対しては「根本的な駅のバリアフリー化」が待たれますが、まずは旅行者を増加させ、投資余力を地方財政や鉄道会社につけてからという順序が必要でしょう。この順序であれば、旅行者増とバリアフリー化がスムーズに実現可能と思います。

荷物を減らし、「手ぶら旅行」を皆さんも始めてみませんか。


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