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新潟時代9.コーティング事業(2)

 コーティング事業の世界は、処理を請け負う各社が顧客の用途に応じて、チタン系、アルミ・チタン系、クロム系など、定例の膜を選択し、出来る限りの短納期で、いかに均一で緻密な膜をPVDコーティングするかを争っている。ヨーロッパを拠点として世界でPVDコーティング事業を展開しているV社が、日本でも関東から関西にかけて5工場を有して市場をリードしている。顧客は処理価格にはあまり関心がなく、コーティング処理により、工具類の寿命がどの程度伸びるかに関心が強い。顧客は価格より性能を求めているのだ。
 
 当社は規模ではV社にかなわないから、被膜の性能でリードするべく、新しい被膜を開発しようと、携帯電話の振動子を開発したB君に、コーティング膜の開発にも取り組んでもらった。コーティング膜も金属の物理特性の応用だから、彼の得意分野だ。
 
 単純に膜の硬さだけを追いかけて、当社内の加工工場で切削テストをしても寿命は芳しくない。膜の硬さと密着性のバランスが必要なようだ。B君の案で、アルミとチタンにさらに別の金属を添加することにして、添加する金属の割合と処理条件を模索した。最終的に決めた条件でPVD処理を行い、テストしてみると、圧倒的に結果が良い。ざっくり言うと、従来の被膜は工具寿命が2倍になるとすると、この新被膜なら3倍に伸びる。
 
 V社でも開発しているに違いないが、開発はヨーロッパで行うから、日本まで来るのに時間がかかるのか、もしかしたら、寿命を長くするとその分だけコーティング回数が減り、受注量が減少するから好ましくない、と判断しているのかもしれない。(一理ある。)
 
 当社は、開発した新膜を、超硬工具、ハイス工具、金型向けのそれぞれに向けて微調整して、大々的に売り出した。顧客向けの資料を作成し、営業が全国のお客様にPRしてお試しを提案した。結果は大成功、お客様の評価は高く、新膜ばかりでなく、当社の技術レベルを信用して、既存の膜の処理も当社へ変更する会社も多かった。新被膜の価格は高く設定しているが、処理コストは通常被膜とほとんど変わらないから、利益倍増だ。
 
 受注量が増えるに従って、当初3基の処理炉を徐々に11基まで増やした。工場建屋も増設し、パートさんもどんどん増やした。当社のPVD処理を標準にする工具メーカーも増え、安定した処理量の確保に寄与してくれた。
 
 会社全体の業績も急激にアップし、当然社員の処遇もあがり、親会社からの出向組とプロパー社員の確執も(少なくとも私には)目立たなくなった。パートさんの時給も上げたので、喜んでくれた・・・・と思う。

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