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林真理子「最終便に間に合えば」

 先日「下流の宴」を読んで、あまりいい印象ではなかったが、林真理子さんは天下の直木賞作家、一冊だけ読んで決めつけるのは失礼かと思い、直木賞作品の「最終便に間に合えば」を読んだ。全て若い女性が主人公、色々な立場、局面での心理描写が面白い。
 
 最初が「最終便に間に合えば」、最終便で千歳に向かう予定の美登里が昔の彼、長原を誘って都心の高級レストランで食事をする。体の欲望が赤裸々に語られている。
 
 次が「エンジェルのペン」、浩子は処女作がある程度認められ、一人前の作家を目指すが、書く内容は自分の体験の範疇にとどまり、それ以上を書けない。出版社の編集者から小説を求められるが、自分の体験を越えて創造することが出来ずに悩む。では、実際に体験しようと、恋をしたことにして体を重ねるが・・・。若き林真理子さんの心情を物語にしているのではないか。
 
 3作目は「てるてる坊主」、礼子の夫は若はげに悩んでいる。幼い娘が学校でてるてる坊主を作成して家に持ち帰る。礼子が髪を一筆書きで書き込んだものを夫が見つけて激怒する。礼子が学校出たころ、増毛のアルバイトをしていたなど、皮肉としか思えない話しも加わり、それなりに面白い。
 
 4作目は「ワイン」、私、洋子はカナダで見栄(意地?)を張って3万円のワインを買って日本に持ち帰る。誰に贈るか迷うのだが、いずれもうまくいかない。主役はワイン、滑稽ではあるが、女性の本質をえぐっているような気もする。
 
 最後が「京都まで」、東京に住む久仁子は31歳、個人のルポライター。京都の29歳の男性に夢中になり、土日毎に新幹線で京都に向かう。昼間は散策し、夜は激しく体を重ねる。最後は男性が久仁子ほどには熱中していないことが分かって破局する。
 
 5作とも若き女性の様々な心情が語られ、とても参考(?)になる。筋もテーマも多彩で飽きずに読める。林さんを見直して直木賞にも納得した。
 
 些か意外だったのは、女性が男性に体を求めることをタブー視せず、いとも簡単に体を重ねる。私が若いころ、体を重ねるということは相手に一生を捧げるつもりなのだと思っていたが、林さんの世界は違うらしい。

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