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大径管工場の建設 7.設計打ち合わせ、その2

 設計段階ではプラグミルのプラグ自動交換装置が重要なポイントの一つだった。現有設備でのプラグ交換は人が機側に張り付いて人力で頑張っている。直ぐ脇を1200度の真っ赤に加熱されたパイプが通過し、潤滑剤の黒煙が舞うなか、重さ10キロ程度のプラグを圧延一本(10数秒)毎に引っ張り上げて所定の位置にセットする。これぞまさに、高熱重筋労働の極致、世界中のプラグミル共通の課題だが、新設備ではなんとしても自動化せねばならない。
 
 全体の基本構想を作成するアメリカのE社の案をもとに、Ⅰ社設計陣と議論を重ねたが、私がプラグの動きに確信が持てず納得できなかったので、Ⅰ社はE社に私の疑問をそのままぶつけた。数日後にE社のポスゲイ氏が、プラグの挙動を詳細に解析した手書きの計算式をⅠ社に送ってきて、秋山(私)にこれを提示してくれとのこと。微分方程式を駆使した解析は難解だったが、なんとか理解し、E社の構想に納得した。ポスゲイ氏は私よりずっと年配だが、E社の頭脳であり、なんとなく分かりあえる同士のような気がした。
 
 Ⅰ社との設計打ち合わせに、私一人では時間が限られるので、全体の油圧装置を、当チームの西山氏が担当し、私と並行してⅠ社の設計と打ち合わせを進めた。圧延設備を動かす動力は電動機と油圧シリンダーだから、油圧装置は縁の下の力持なのだ。
 
 圧延設備の一部をⅠ社広島の呉工場が設計、製作を担当するとのことで、呉にも出張した。往復の時間は勿体ないが、ほぼ定時間で打ち合わせを終え、先方の設計責任者(かなり年配)とともに、食事をして、色々な経験談を拝聴したのは面白かった。戦艦大和の砲身を設計、製作した経緯、苦労など違う世界を垣間見た。
 
新設備の建設用地では、最初に土木工事が始まる。Ⅰ社が設備の基礎資料を作成して、土木工事担当のB社に提示する。それを元に基礎の骨格を決めて現場の掘削が始まる。Ⅰ社の資料は何度か提示され、徐々に完成度が上がる。全体の基礎構造は複雑怪奇、主圧延機の下は大きな基礎だが、その部分以外は巨大な地下室となり、主として油圧の発生装置、バルブスタンドが設置される。そこからそれこそ無数の油圧配管がトンネルを通って地上に伸びて、各設備のシリンダーに接続される。
 
 そうするうちにⅠ社で圧延設備の製作が進み、横浜工場で仮組が始まった。その都度立ち合いをして動きや仕上がりを確認した。自分の考えで設計された設備が、頭に描いていたイメージ通りに巨大な圧延機として出来上がっていくのは、改めて胸に去来するものがあったが、そんな素振りは見せずに仕上がりを確認し、気になることを、なんだかんだと口にした。

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