旅行中の「ちょうどいい」食事
突然だが、あなたは旅行中に何を考えて食事を選んでいるだろうか。
旅行中であれば、その土地でしか食べられないものや非日常にふさわしいちょっと豪華なものを食べたいという方が大多数だと思う。
一方で、旅行から食事の娯楽を排除してマクドナルドなどのチェーン店やコンビニ弁当で腹を満たすことにより時間や金を節約するストイックな方や、旅行自体は好きだが食にまったく興味がないので食事は適当ですねという、旅行の目的が尖っている方も少なくない。
あるいは、観光客向けの店ではなくて地元の方が普段から利用する店こそが本当に美味いし雰囲気もいいんだよという通な方(あるいは通ぶりたい方)もいる。
旅行中の食事のパターンはざっくりこの3通りだと思うが、それ以外の選択肢として「ちょうどいい店」に入りたいという時もある。
ここでいう「ちょうどいい店」とは、観光客向けではなく、かといって地元の方から特別に人気というわけでもなさそうで、特別に雰囲気がいいというわけでもない店を指している。
稚内のレストランで食べたビーフシチューパスタ。まったく味がついていない多めのパスタと、ひかえめな味つけのビーフシチューから、明らかに観光客をねらっていないことがわかる。
客も私しかいなかったので地元で特別に流行っているというわけでもない。
ただ、会計の時に店をひとりでまわしていたマダムが「よい旅を」といってくれたので、顔や服装からよそ者だとばれてはいる。
鳥取県・三朝温泉で食べたそば。三朝温泉自体は観光地だが、これは人気のない喫茶店で食べたものである。
三角に切られたうすい油あげと、ほどほどの量のなめこと、少なめのねぎから、見るからに観光客をねらっていないことが分かる。不釣り合いな砂丘らっきょうがそえられているところが、かろうじて観光地っぽいかもしれない。
今はなき愛知県・岡崎の岡ビル百貨店にあった食堂。
そこで出てきたたらこパスタ。若い店であれば映えを気にしてたらこをパスタの上に盛りつけるかもしれないが、このパスタは初めから混ぜられており、皿の上で混ぜたのか、皿中に散乱している。しなしなのきざみのりもいい雰囲気をかもし出している。
ここはB級スポット好きや古ビル好きには有名な店なのだが、かといって観光客でごった返しているわけでもないし料理が本当に「ちょうどよかった」のであえて紹介させてもらった。
誤解してほしくないのだが、私はこれらをまったくバカにはしていない。「ちょうどいいなあ」と思っているのだ。
観光客をねらってギラギラにインスタ映えしていたり、素材が新鮮すぎたり濃厚な味つけだったりといったインパクトもないし、地元の方でにぎわっているようなディープな雰囲気もない。全体的に実家のお母さんが作ってくれたような温度感だ。
旅行中は刺激的なものでいっぱいだが、こういった刺激のひかえめな料理を食べると何だか一息ついてリラックスできる。
あとは、知らない土地にある観光客向けでも特別に地元で有名というわけでもない有象無象の食堂で食事をしている時の、自分が知らない何者かになったような感覚と、もう二度とこの店にはこないのだろうなという何だかセンチメンタルな感覚が好きなのかもしれない。
長期間の旅行をする際には、あえて観光客向けでもなければ地元の人気店でもない、有象無象のちょうどいい店を探して入ってみてほしい。
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