【妄想脚本】古畑任三郎 vs UMA研究家(3/4)
ホテル・平澤の部屋(夜)
古畑と平澤だけが残っている。
古畑「ぶっちゃけた話、よろしいですか」
平澤「何でしょう」
古畑「本当にいるんですか、チュパカブラってやつは」
平澤「……」
古畑「お気に障ったら申し訳ございません。実は私元々、霊能力とか超常現象とか、あまり信じてないものですから」
平澤、にっこり笑って、
平澤「そんな印象は受けていましたよ」
古畑、照れ臭そうに笑う。
平澤「確かに、UMAの目撃情報や痕跡には、怪しい点が多いのは事実です。実際、実は目撃者の見間違えだったとか、中には捏造だったとか、時が経つに連れ、真相が明らかになってきているものが多いです。かなり残念な真相がね。そうあなたの部下が見たというネッシーだってそうです。撮影した人が実は捏造だったと暴露したり、科学的に写真を分析したら、どう考えても不自然だと判明したり」
古畑「そうなんですか」
平澤「でもね、古畑さん。僕にとっては、そんなことはどうだっていい。大事なのは、どうして人々がUMAという存在を思い付いたか、そしてなぜそれに心奪われるのか、そういった点だと思うんです」
古畑「……」
平澤「歴史を振り返っても、みんなめいっぱいの想像を膨らませて、いろんな怪物や、妖怪や、怪獣を創り出して、楽しんできたんです。きっと、こんな姿をしてるとか、こんな物を食べてるとか、こんな不思議な力を持ってるとか。実に豊かなことだと思いませんか」
古畑「(深く頷いて)はい」
平澤「ま、だからといって、捏造騒ぎを起こしたり、家畜を勝手に殺したりっていうのはもちろん感心はしませんがね」
古畑、再び頷く。
平澤「それにね、古畑さん。地球って広いんですよ。僕らが思うよりずっと。この仕事をするようになって、実感しています。この地球上のどこかに、まだ我々の知らない生き物なんていくらでもいる。そうそう、あのパンダだって、ついこないだまで想像上の生き物だと思われてたくらいですから」
古畑「そうなんですか」
平澤「それが今では動物園で気軽に見ることができるまでになった。だからね、大半が見間違えや捏造だったからって、それが何なんですか。だからってUMA研究自体が疎んじられるというのは違う。僕は1パーセントでも可能性があるなら、人生を懸けて探してみたい。幸い、長いんですから、人生ってやつは」
古畑、優しく微笑み、頷く。
古畑「チュパカブラ、見つかるといいですね」
平澤「(笑って)ひょっとすると、あなたの部下の方が先に見つけてしまうかもしれませんね、しかも今夜中に」
古畑、ふふふと笑う。
古畑「そうそう先生、チュパカブラなんですけども、今夜現れた……正確にいえば現れたとみられるやつについてなんですけども」
平澤「何か」
古畑「先ほど先生からチュパカブラのお話を伺った際、先生いくつか写真を見せてくださいました。チュパカブラに襲われたとみられる家畜の写真をいくつか」
平澤「それが何か」
古畑「どれも牧場の中の写真でした。どの事例でも、家畜は牧場の中で襲われて、牧場の中で血を吸われ、牧場の中で死んでいるのが発見されています。ところが今回は、ヤギは牧場から離れた場所で発見されました。それがどうも引っかかりまして」
平澤「……」
古畑「チュパカブラがわざわざ牧場からヤギを連れ出して、別の場所で血を吸うなんてことがあるんでしょうか」
平澤「たしかに、私もそんな事例は聞いたことがありませんね。古畑さん、これはひょっとすると大発見かもしれませんよ」
古畑「あるいは別の可能性も考えられます。あのヤギ、チュパカブラが連れ出したものではないんじゃないかと」
平澤「どういうことですか」
古畑「チュパカブラではない、何者かが連れ出した」
平澤「……」
古畑「ここからはひとつの仮説です。お気を悪くされたら申し訳ございません。ひょっとするとあのヤギ、磯田さんが連れ出したものなんじゃないかと」
平澤「まさか」
平澤、しばし絶句した後、切り出す。
平澤「しかし何のために。……まさか」
古畑、頷く。
平澤「磯田がチュパカブラの仕業のように偽装したと?」
古畑「はい」
平澤「いやさすがにそれは」
古畑「磯田さんがご自身でヤギを殺して、チュパカブラがやったかのように血を抜いた。UMA研究家である磯田さんであれば、忠実に再現できるでしょう」
平澤「……」
古畑「ただその場合でも、説明がつかないことが一つございまして」
平澤「……」
古畑「磯田さん、どうやってヤギの血を抜いたんでしょうか。まあこれは私もはっきりと見たわけではないんですが、磯田さん、目立つ道具を何も持っていなかったようなんです。もし何かしらそれらしい道具を持っていたとしたら、さすがに警察も気が付くはずです。警察もその線に気づかなかったということはつまり、磯田さんは目立つ道具を何も持っていなかったということではないかと」
平澤「たしかに警察からはそんな話は聞かなかった」
古畑「その辺がどうもひっかかりまして」
平澤「さすがに素手で血を抜くのは難しいでしょうからね」
古畑、額に手を当てて考えている。
平澤「やっぱり磯田の偽装っていうのは考えられないんじゃないですかね」
古畑「ただこうも考えられます、すなわち」
平澤「……」
古畑「誰かが道具を持ち去った」
平澤「……」
古畑「つまりですね、あのヤギは磯田さんがチュパカブラが襲ったもののように偽装したものだった。そしてそこに居合わせた人物が、磯田さんが使用した道具を持ち去った」
平澤「何のために」
古畑「そこなんです。わざわざそんなことをする理由。それは一つしか考えられません。その人物は、磯田さんの死に関して、何か事情を知っていて、何かを隠そうとしている」
平澤「考えたくないですね」
古畑「ご気分を悪くされたら申し訳ございません」
平澤「古畑さん、こういうことも考えられませんか」
古畑「伺いましょう」
平澤「磯田は別の場所で偽装工作をして、ヤギの死体だけをあそこに運んできた。それなら、道具はあそこになくても不思議ではない」
古畑、額に手を当てて考え込んでいる。
古畑「そうなると、また別の疑問が」
平澤「……」
古畑「磯田さん、どうしてわざわざ別の場所で工作をして、ヤギだけあそこに運んだんでしょうか。一つの場所でやってしまえば工作道具だけを持ち去ればいいところ、どうしてわざわざ重いヤギの死体を運ぶ手間がかかる方法を選んだんでしょうか」
平澤「……確かに」
古畑「この辺がどうも分からないんですね」
と、古畑の携帯電話が鳴る。画面には「向島」の文字。
古畑「ちょっと失礼します」
古畑、電話に出る。
古畑「はい。……あ、そう。わかった。今どこにいるの?……あ、そう。じゃあ今行くからじっとして待ってなさい」
平澤「どうされました」
古畑「今泉からです。「道に迷った」って。本当にしょうがない奴です。ちょっと迎えに行ってきます」
平澤「そうですか、ではお気をつけて」
古畑「先生もどうかお気を落とされませんよう。明日からまた警察への協力が始まるでしょうし、今夜はゆっくりお休みください」
平澤「ありがとうございます」
古畑「お会いできて光栄でした」
古畑、握手を求め、平澤もそれに応じる。
平澤「パスポート見つかること、祈ってます」
古畑「(照れ臭そうに笑って)おやすみなさい」
平澤「おやすみなさい」
平澤、古畑が去るのを不安な表情で見送る。
牧場の前(夜)
古畑がやって来る。
向島「古畑さん」
古畑「どう、何か分かった?」
向島「大変なことが」
古畑「?」
向島「実は今夜もう一件、チュパカブラ騒ぎがあったそうなんです」
古畑「本当?」
向島「すぐそこの農道で、血を抜かれたヤギが1匹発見されたそうで」
と、古畑にポラロイド写真数枚を渡す。確かに、ヤギの死体が写っている。
向島「しかも悪いことに、やっぱりこの牧場のヤギだったらしくて。一晩で2匹のヤギを殺されて、牧場の人たちはショックを受けています」
古畑「かわいそうにねぇ」
写真を見ながら古畑、
古畑「牧場からはいつ連れ出されたんだろうね」
向島「早くとも夕方の4時以降だそうです」
古畑「どうして分かるの」
向島「その時間に、ヤギを畜舎に入れるらしいんです。その時に牧場の人が数も数えるらしいんですが、確かにその時は2匹ともいたと」
古畑「あ、そう……」
と、傍の茂みがから物音がする。
警戒する古畑と向島。
向島「…古畑さん…」
と、茂みから現れたのは現地の少年。平澤の財布を盗もうとした少年である。
少年「(スペイン語で)あのヤギどうなるの」
向島「(スペイン語で)チュパカブラに襲われたようだから、お巡りさんたちが連れていっっちゃたよ」
少年、何か言いたそう。
向島「(スペイン語で)もう遅いから、子供は早く家に帰りなさい」
少年「(スペイン語で)あのヤギは僕が拾ったんだ」
向島「……」
向島の表情が変わるのを見逃さない古畑。
少年「(スペイン語で)あれは僕のヤギだよ!」
向島「古畑さん……!」
向島と少年、スペイン語で何かを話す。
向島、古畑に少年の言い分を伝える。
古畑、深く頷く。そして額に手を当てて何やら考え込む。
向島、少年に向かって話しかける。
向島「(スペイン語)ありがとう。君の言っていることは、おじさんがお巡りさんたちに伝えておくから安心しなさい。今日はもう帰りなさい」
少年、黙って頷いて引き返す。
向島「(スペイン語で)気をつけて帰るんだぞ」
そこに入れ替わるように偶然、今泉と西園寺がやって来る。
今泉「あ!古畑さん。向島も。こんなところで何やってんですか。怪しいなぁ」
古畑「なんで君たちがここにいるんだよ」
今泉「だからチュパカブラ探してたんですよ」
古畑「で、見つけたの」
西園寺「いえ」
古畑「(呆れて)もういいから先戻ってなさい」
今泉「おい向島、なんかこの旅行中古畑さんと怪しいじゃないか。お前、誰が連れてきてやったと思ってんだよ」
西園寺「そういうこと言わない」
今泉「なーんかさっきからケツが痒いなぁ。……ああ!ケツが蚊に刺されてる」
西園寺「あ、今泉さん、ズボンが破けてるからですよ、ほら」
今泉「くっそ、南米に来てまでなんで蚊に刺されなきゃならないんだよ」
古畑「汚いなぁもう。もういいから君らは帰りなさい。西園寺君」
西園寺「今泉さん、行きましょう」
西園寺と今泉、去っていく。今泉、破れたズボンから覗く尻を掻きながら歩いている。かなり間抜けな姿。
古畑、それを見て何かに気づく。
古畑、向島から手渡されたヤギの写真を再び見返す。そのうちの一枚で、古畑の目が止まる。
向島「古畑さん」
古畑、ヤギの写真を見て何かに気づき、ニヤリと笑みを浮かべる。
古畑「向島君、お手柄だよ」
(暗転)
古畑、カメラの方を向いて
古畑「チュパカブラが実在するかどうか、それは私にはわかりません。しかしひとつだけ言えるのは、今夜起こった家畜襲撃事件、そして磯田さんが亡くなったのは、チュパカブラの仕業なんかではないということです。平澤先生と磯田さんの間に何があったかは分かりません。しかし平澤先生は、磯田さんが亡くなったその時、少なくとも現場に一緒にいたはずです。そして実は彼、そのことを知らず知らずのうちに告白していたのです。お分かりですか。ヒントはこれです(と、ヤギの写真を見せる)」
と、そこに向島がカットインしてくる。
向島「あの……どなたと話されてるんですか……?」
古畑「ん?こちらと」
向島「(不思議そうに)……はぁ……」
古畑「古畑任三郎でした」
(4/4へつづく)
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