アメリカ先住民のインディアンたちと火を囲んでフルートの音色を聴いた架空の記憶が蘇ってきた

 私は森の中でインディアンたちと過ごした日のことを思い出していた。森の中の大きく開けた空間に、彼らが音楽を奏でるための場所がある。私は昼過ぎごろから(正確な時間は分からないが、多分そのくらい)彼らと共にそこで過ごした。
 私は彼らの言葉が分からなかったけれど、私が自分を指さして「ニイナ」と名乗ると、彼らはそのように呼んでくれた。昼間はインディアンフルートと太鼓の演奏を行ってくれた。木々が揺れる中、お腹の奥底に響くような太鼓の音と、涙が出そうになるほど透き通った笛の音を聞いた。私はその時、なんとなく「ここで死にたいかもしれない」と思った。彼らは精霊を信じている。精霊を信じる彼らが奏でる音はひどく切実だ。その音を聴いていると、まるで私自身が谷間を音と共に駆け巡っているような錯覚を覚える。光り輝く太陽と、青い空、そして広大な大地の中で、私はこれらの一部なのだと感じた。精霊がいるというのも真実であるような気がしてくる。
 そのまま次第に夜が更けてくる。彼らは太鼓を叩くのをやめ、笛だけを吹いた。私はその横で、植物から作られた黒く熱い液体を口にしている。一人の男性が火をおこしてくれた。ゆったりとした笛の音色が夜空いっぱいに響き渡っている。星と、焚火の炎がチラチラと揺らめいている。日本にいたときに辛かったことも、楽しかったことも、全て忘れていた。忘れているのに、なぜか涙が止まらなかった。悲しいことも嬉しいこともない。ただ音に呼応して涙だけが流れていた。やがて笛は止んで、パチパチと燃える炎の音だけが聴こえた。笛の音が聴こえなくなった瞬間、私は一気に現実に引き戻され、汗で蒸れた太ももがやけに気になり始めた。


 民族学博物館の「音楽の祭日」というイベントに参加してインディアンフルートの音を生まれて初めて聴いた。そしたら存在しないはずのインディアンたちとの記憶が蘇ってきてとても苦しくなったんだけど、私の情緒はどうなっているんだろう。

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