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アルバイトとボランティアのあいだの働き方をつくった。

大阪の山阪神社そばにあるカレー屋、ニモアルカモ。
9月のある日、夕方。目の前には、ハタチの若者がいる。僕はその20年間と、ここにたどり着くまでの生い立ちに耳を傾けていた。この店のnote求人を見て、Instagramから問い合わせをくれた。自身の過去から、将来やりたいことがあるらしい。ここで働けたらそこに近づけるのではと思ってくれたようだった。

その想いに応えたい気持ちと、自分の小さな店で出来ることの限界を感じながら、最終的には、経験値が足りずスタッフとしての採用をお断りする旨を伝えた。

「仕方ないよな…。」と僕は自分に言い聞かせた。

別のある日。同じく20代前半の若者と店で話していた。その子が学生だったころに出会ったが、今はもう社会人になったという。「社会と出会い直す場」としてこの店があるとnoteで読んで久しぶりにFacebookを通してメッセージをくれた。

いろいろ、あったみたいだ。決意して進んだ道を諦めて、次の進む道を探しているところだった。自分を信じられなくなる時間を過ごす苦痛は、想像することしかできない。

昔の繋がりを辿って来てくれたことに応えたい気持ちもあるけど、いまは飲食経験のあるスタッフしか、採用するのは厳しかった。

また、採用はできないことを伝えた。


仕事は、未経験者に厳しい。

自分で事業をしてみて感じる。事業規模が小さいほど、未経験者を採用する余裕はない。うちで働くことで人生を好転させるきっかけにしてほしいけど、断ることも多い。

本当は、キャリアを見直したいと思っている人や、キャリアが無い所から一歩踏み出す決断をしようとしている人にとって、必要なのは「やってみる経験」だ。やってみて自分がどう感じるのか、自分という「個性」と「働き方」の相性がどうか、それを確かめる時間をとることが、不幸な転職・就職を避けることにつながる。

ところが、仕事の経験を必要としている人に対して未経験者のハードルは高い。例えば最低賃金があるため、時給1000円の経験者の半分しか仕事ができない人を時給500円で採用することはできない。だから、世の多くの仕事は一定のハードルを超える人しか採用されなくなっている。

もっと「雇用される」という働き方のほかに、社会との接点を持て、自分の個性に合った働き方を見つけていく選択肢が世の中にあるべきだ…。

そんなことを考えていると、「経験値がないから」と採用を断ってしまった若者の顔が浮かび、何かが僕に「このまま断っちゃだめだ」と言った。



時給制ではなく、利益分配制という働き方

未経験でも、仕事の経験を積める機会はどうすれば作れるか。それも、ボランティアではなくちゃんと仕事として。考えた末に、時給制ではなく、利益分配制という働き方を用意してみることにした。

1人に求められる量を、2人でやればハードルは下がる。一般的な職場では非常識な選択肢だけど、とてもシンプル。未経験でも分担して仕事をすることで、低いハードルで経験を積むことができる。例えばワンオペが求められるようなシーンは、1人でやるのと2人でやるのとでは精神的な負担が大きく変わる。

自由な報酬を設定するために、業務委託という方法をとった。店舗運営業務を委託し、それを複数人で運営しても良い。何人かでやればもらえる報酬も減るけど、仕事のプレッシャーも減る。そんな働き方だ。

この形で実験的に働く提案を冒頭の2人にしたところ、2人ともやってみたいと言ってくれた。その後もうひとり参加を希望してくれる子がいたので、最終的に、3人でこの働き方を始めてもらうことにした。

男子1人、女子2人、20代の3人が働きはじめた。


つくるのは、芋煮にした。

アドバイスはするけど、僕は営業には入らない。だからカレー屋の営業とは切り離して、「セルフ間借り」のような形で曜日を決めて営業することにした。

やるのは冬季限定の、一人鍋芋煮の専門店。芋煮は東北の郷土料理のそれ。芋煮にした理由はいくつかある。

一、専門店にすることで覚えるオペレーションを減らすこと。
一、調理がシンプルだからこそ、丁寧に時間をかけて作ることが美味しさをつくること。
一、東北では芋煮の〆にカレーうどんを食べる文化があり、昼間出しているスパイスカレーを使えば個性的なカレーうどんが出来上がること

など。芋煮も地域差はあるけど、醤油味の山形の芋煮にした。そして、里芋が冬を通して出回る品種が変わることから、里芋を主役にし、メニューは同じでも品種の味の違いを楽しんでもらうコンセプトにした。

メニューを開発するにあたって、醤油だけでも各地から取り寄せた醤油を比べたり、調味料の配合、里芋が一番美味しくなる下処理、絶妙なバランスの具材の選定など、何度も何度も試作を繰り返した。

東北では大鍋でつくるが、時勢もあり一人鍋にした。


店をつくっていくプロセスで、自分や相手の個性に気づいていく。

3人には、レシピも何もない状態で、芋煮の文化や里芋を知ることから始めてもらった。すでに用意されたものから始めるのではなく、自分達で飲食店を開業するぐらいのプロセスを踏んでもらっている。ボランティアやアルバイトでは経験できない時間を過ごせているはずだ。

キックオフではお互いを理解し対話していく研修を行い、その後も定期的に対話の時間をとっている。見ず知らずの3人が、お互いの個性を活かしながら役割分担のできるチームが出来上がった。

なにしろ、僕も初めての試み。みんなにどんな負担がかかっているかわからない。不満や不安も言えるような場をつくり、プロジェクトを軌道修正していくことにした。このプロセスもすごく意義があった。またいつか別の記事で残せたらと思う。

場作りの専門家にも入ってもらい、安心して対話できる場にしていった。


一人鍋芋煮の専門店「芋煮モアルカモ」

ニモアルカモが始める一人鍋芋煮の専門店、名前はダジャレで「芋煮モアルカモ」へ。毎週土曜日の夜にオープンすることにした。記念すべき初回オープン日は12月11日。

反響は予想以上で、今のところ、毎回満員御礼いただいている…!

何度も何度も試作を繰り返した芋煮。手がかかっているので、本当に美味しい。お酒も用意しているので、ぜひ一杯やりながら、冷える夜に身体を温めに来てください。

そしてこの記事を読んでいただいたなら、どうぞ彼らに会いにきてやってください。3人とも、自分の人生と向き合いながら、一生懸命最高の芋煮をつくっています。人生の先輩として、よき隣人として、他愛のない話をしに来ていただきたいなと思います。ニモアルカモは、世の中や人との「良い出会い」が起こる場所ですから。

この働き方を通して、彼らに人生を左右する出会いが起こりますように。

9席しかないので、遠方からの場合は電話で空き状況をご確認ください。

一人鍋芋煮の専門店 芋煮モアルカモ
住所:大阪市東住吉区南田辺1丁目1-10
(南田辺駅徒歩6分、西田辺駅徒歩10分、田辺駅徒歩10分)
営業期間:2021年12月〜2022年3月(予定)
営業日時:毎週土曜日18:00〜21:30(21:00L.O.)
電話番号:050-5373-9397
営業日情報はこちらから。


この働き方の実験は、3月末までを第一期として、以後も募集していく想定をしています。メニューのレシピ開発から店舗営業まで半年間程度行う働き方。関心のある方はSNS等からお問い合わせください。



2022.6追記

「アルバイトとボランティアのあいだ」の働き方、2022年度も受け入れ出来ることになりました。興味のある方はこちらからどうぞ。


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