とあるライターがインタビューに慣れるまで十年ぐらいかかったよという話

涼しい~~!
一年中、こんな気候ならいいのに~~~と思う今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
というわけで、こんにちは。にんべんふたつと申します。
紙媒体中心に、18年ほどライターをしております者です(フリーになって16年)。

今日は、ライター仕事のひとつ、インタビューについて。
慣れるまでけっこう時間かかったよ~というお話をできればと思います。

最初に、この記事でいうインタビューとはなんぞやという定義づけをしておきます。

ここでは、実際に現場を見ながら話を聞くことを取材。
対面で向き合い、話を聞くことを主体とするものをインタビューとします。世間でもだいたいこんな使い分けがなされているように思います。

たとえばバリスタAさんのお店を訪れ、ラテアートを見せてもらいつつ、お店のコンセプトやその技術について話を聞くのは取材。

バリスタAさんの生い立ちから、なぜコーヒーに興味を持ったのか、修行時代は……などじっくりと聞いていくならインタビュー、といったところでしょうか。

そして、今回取り上げるのは、とくに著名人のインタビューを前提とした話です。

インタビュー、緊張するんですよ。

たいてい、個人的にはつながりのない相手に、何もない会議室なんかで向き合って話を聞いていく。
インタビュー相手の関係者が、ズラーッと後ろにいることもあります。

そこで相手の方の反応を見つつ、必要なことを臨機応変に聞いていくわけです。
何かのプロモーションの場合は、時間がとても短いことも多いです。

駆け出しのころは、もう、対面するだけで目がぐるぐるしていて、記憶がほとんどありませんでした。

いまももちろん緊張するし、毎回毎回が真剣勝負で「慣れた」とはとても言えないのですが、以前とはだいぶ状態が違っています。

振り返れば、そうなるまではちいさな歩みの積み重ねでした。

今日は備忘録も兼ねて、その変化を書いてみます。

駆け出し


とにかく緊張しました。

インタビュー前には、たいてい質問をまとめた「質問案」を作っていきます。
上から下まで聞いていくと、だいたい記事がまとまるようになっています。
その質問を、上から順に聞いていくのがやっと。
時間内に、原稿にできることを聞き出さねば、聞き出さねばと、そのことだけに必死でした。

自分が質問しているときも、相手が答えているときも、頭はぐるぐる、破裂しそう!

何より、インタビュー直後、何を聞いたか、内容をまったく思い出せませんでした。

記憶がないわけではなく、編集さんに「あの話、おもしろかったですよね! 絶対に入れましょう」と具体的に言われると、「あ、そうだ、あの話をしていた」と思い出せるのですが、自力では無理。

音声起こしをして、やっと落ち着いて振り返ることができる、といった状態でした。

2〜3年目


駆け出し時代とあまり変わりません。

が、このころから、質問1の答えに質問2の答えが含まれているから聞き方を変えよう、ぐらいは留意できるようになったような。

たとえば質問1は「役柄の説明」、質問2は「作品の特徴」だったとして。

「役柄」について聞いたとき、「この作品の根っこは、世界への反抗。主人公はそれを象徴しているので〜」みたいな回答があったとします。

そうすると、次の質問では、「先ほどは作品について、世界への反抗とおっしゃっていましたが……」と、聞いたことを前提に深堀りしていく。

「当たり前の聞き方を、当たり前にできる」ことにはすこし近づきました。

もうひとつ、「緊張していることを、相手に知られてもよい」と思えるようになりました。
緊張は苦痛ですし、たしかに業務の邪魔にはなります。
ただ、緊張が生じるのは、相手をリスペクトしているからこそ。
「緊張してる、緊張してる、恥ずかしい、失礼なのでは、どうしよう」と、「緊張していることに緊張している」状態から脱しました。

4〜5年目


相手の答えを聞きながら、「ここをつっこんで聞かないと、原稿書くときにふんわりした感じになるな」というポイントがわかるようになりました。

たとえば「かわいらしくてポップな作品」と言われたとき、どんなディティールに対してそう思ったか聞かないと、宣伝文句と同じになってしまうし、この人らしさも伝わらないな、とか。

また、「なるべく具体的に聞く」を意識するようになりました。
わたしがやっているのはたいてい読者はその物事を知らないことが前提の、入り口的なインタビュー。
紋切り型の質問も入れる必要があります。

たとえば「作品の魅力を教えてください」といった定番の質問があります。
駆け出しのころはそのまま投げていたのですが、このころから「今までこうこう答えてくださった。では、そんな〇〇さんが魅力を感じるのはどんなところでしょう」とか、「はじめて作品に触れる読者におすすめするとしたらどんなところ」とか、質問の前提や意図を説明するようになりました。

これは、編集さんが「にんべんさん、もうすこし具体的に質問を投げてみましょうよ」とアドバイスしてくれたおかげなのです。

6〜7年目


冒頭で、そもそもインタビューそのものの意図を説明するようになりました。

たとえば、「小誌の読者は10~20代の若い女性が多いので、そういう人たちにもこの作品を広めていきたいんです」とか。
余裕があれば、「なので、ほかのインタビューで語っていらっしゃる内容も多いとは思いますが……」と釈明します。

インタビュー中、「ここまで聞けたら、一通り原稿が書ける」ラインがわかるようになりました。
それまでは、「足りないのではないか」という不安が大きく、それも緊張に拍車をかけていました。

相手をしっかりと見つつ、質問案を見るタイミングを見計らえるようになったのも、このころかもしれません。
それまでは、「聞き逃しがあってはいけない」と、質問案に目を落としている時間が長かったのです。

8〜9年目


インタビュー終了直後、聞いた内容をはっきりと思い出せるようになりました。

編集さんとの会話で、「あのお話とあのお話はおもしろかったので~」と自ら話していることに気づいたときは感動しました!

また、話に詰まってしまったインタビューでも、心臓バクバクしながらも意外に冷静に対処できている自分に気づきました。

10年目〜


下調べをどう生かすかなど、インタビュー中に考える幅が広がりました。

「ここは具体的に聞かねば」のほか、「ここを詳しく聞いたほうが、この人の魅力が伝わるかも」と、余裕ができてきました。

相変わらず緊張はしますが、パニックになることは(めったに)ありません。

わたしは冒頭の質問で話を聞きすぎて時間がショートしがちなので、そのへんは気をつけてコントロールしています。

ざっくり振り返っているので、実際の年数や順番は違っているかもしれません。が、こんな段階があったのはたしかでした。

インタビュー仕事での緊張が、わたし自身が想定する「業務内の常識的な緊張」に収まるまでは、6~8年はかかったように思います。

同業者の中には、雑談のように自然な相槌を打てたり、会話のようにサラッと質問をできる人もいます。
昔は憧れましたが、わたしは残念ながらそのタイプではないですし、別の道を目指さないといけないんだろうなと、最近は思っています。

きっと他の方には、他の方の歩みがあるはず。
今日は一サンプルとして、わたしのケースを書きました。

同業者の方には「こんな緊張するヤツいんのかー」、ほかの職業の方には「こんな亀の歩みがあるのか……」とご笑覧いただければ。

そして、職業を問わず、いま「嫌いではないけれど、どうしても緊張してしまう」業務を抱えている方に向けて、「ゆっくりであっても、進んでいくことはできる」「緊張したままでも変わっていける」とメッセージが伝えられたらいいなと思っています。

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