ひまわりたち(四阿シキ)

加奈子は圭に告白した。
幼馴染みとして15年そばにいた。そのうち片思い3年。一世一代の大告白だ。と、思っていた。

「あの、俺、そう言う風にお前のこと見たことなくて……」
「え、あ、そう……。あ、でもさ、今好きな人とかいないなら、とりあえずお試しとかでも……」
少女漫画でよくある展開だ。実際、加奈子もその少女漫画的展開を希望していた。今自分のことが好きではなくても、もしかしたら、と。
「は? お前なに言ってんの。もっと自分を大事にした方がいいんじゃないの」
ずっと一緒にいた、だから彼の物言いはわかっている。これはわたしのことを思っての言葉だと言うのは。そう納得させようと加奈子は必死に考えていたのに。
「お前がそんな奴だと思わなかった。まだ相手が俺だったからよかったけど、他のやつにそんなこと言ったらヤリ捨てされるかもしれないんだぞ」
そんなやつ好きにならない。あんただから好きになったし、あんただからこんなこと言うのに。
加奈子は泣きたくなった。
「……うん。どうせもう中学卒業だし、春休みに心の整理するから」
「……ああ。そういえばお前高校どこなの」
「聞いてどうするの? わたしも知らないけど。バイバイ」
これで彼らの色恋沙汰は終わりのはずだった。

高校の入学式で、二人はこの世の終わりのような顔をすることになる。
入学式はもちろん全員同じ時間に終わり、同じ時間に帰る。その帰りの電車がかぶるのはどうしようもないことだった。そして最寄りも同じである。電車から降りた時、圭は加奈子に声を掛けた。
「なあ、あの」
「大丈夫、同じクラスになっちゃったし、どうせ中学一緒ってこともバレるだろうし、幼なじみってこともバレるかもしれないけど、隠してる方がおかしいし、大丈夫だから。あの、本当、気にしないで。ちゃんと幼馴染み兼友達として接するから、大丈夫だから」
「じゃあ、これからも、今まで通りに接していいってこと?」
圭が加奈子にとっては無神経なことを言ってくる。
「うん」
加奈子は笑顔で頷いた。

しばらくして、圭には初めて好きな人ができた。もともと女子とたくさん喋るタイプではないので、加奈子に相談しようと思って、やめた。加奈子に告白されたことが、もう遠い昔のように感じられた。だが部活終わりに教室においた荷物を取りにきた加奈子は偶然聞いてしまう。
「なあ、俺、好きな人できた」
「え、うっそ、誰々。あんなに女子に興味ありませんって顔してたのに。あれか、飯浜か」
「いや、あいつは違うよ」
圭の友人の大谷理玖は不思議そうな顔をした。いつも一緒にいるのに? その顔に答えるように圭は言う。
「ただの幼馴染みだよ」
「俺はそんなアホなセリフを間に受けなきゃいけないのか?」
「どう言う意味だよ」
「まあいいや。あれだろ、夏目さんだろ。あれは憧れるよな」
そう言う大谷に圭はわかりやすい顔をしていたのだろう。
「俺は違うよ」
と大谷は笑った。
入るタイミングを逃した加奈子は、聞き耳を立てたのを悪いと思いつつ、一旦着替えてから教室に戻ろうと考えていた。その時加奈子は気がついた。
ああ、わたし、ちゃんと圭のこと吹っ切れてたんだ。

加奈子が荷物を取りに戻ってきた時、もう圭はいなかった。
「あれ、大谷」
「飯浜、お前、聞いてたろ」
「うえ、気がついてたの? 安心してよ、言いふらしたりしないから」
そうじゃなくて、と、大谷は続ける
「大丈夫?」
大谷は加奈子が圭のことを好きだと思っているようだった。
「圭も言ってたでしょ、ただの幼馴染みって。それにわたし、中学の卒業式で振られてるんだよ」
少し自嘲気味に笑った加奈子に、大谷は意外そうな顔を向けた。
「吹っ切れてるから大丈夫。そっちこそ言いふらさないでね。わたしも言いふらさないからさ」
そこは心配してないよ、と大谷は笑った。

翌日、噂になっていたのは大谷と加奈子だった。
「一緒に帰ったんでしょ」
「仲よかったっけ?」
「隠してたの?」
「実際のところどうなの」
大谷と加奈子は今まであまり話していなかった上に、加奈子は圭とセットのイメージだったことが、噂を大きくしたのだろう。
二人は示し合わせたわけではなかったが、ただタイミングが合い一緒に帰っただけだと説明した。
圭はと言うと、ちょうど自分が放課後に大谷と話した後だったので、タイミングが合っただけだろうと納得していた。加奈子が自分以外の男子と仲良くしているのは新鮮だ、とも思っていた。

「優希ちゃん、好きな子、いる?」
人肌脱いでやろうと加奈子は「夏目さん」に話しかけた。校外学習が同じ班だったこともあり、仲が良い方だった。
「んーまだそう言うのはわからないかな。加奈子ちゃんは好きだよ〜」
「ええ〜優希ちゃん可愛すぎか!」
圭のためにしたことは、加奈子と優希の友情を深める結果となった。

放課後。偶然帰る時間が重なった加奈子と圭は一緒に帰った。
「なんか久しぶりだね」
「おー」
あのさ、言いにくそうに加奈子が切り出す。
「黙っててごめんなんだけど、圭が優希の事好きって大谷に言ってたの、前に偶然聞いちゃって……」
圭はよくわからない表情をしていた。大谷が加奈子にちくったようなことになってしまいかねないと、加奈子は焦った。
「あの、違くて。偶然、廊下で聞いちゃって。あの、傷ついてもいないし、今は圭のこと、大切だけどなんとも思ってないから! 安心して、言いふらしたりしないから。大谷も、わたしが振られてること知ってるから!」
傷ついてもいない。なんとも思っていない。
圭はその言葉に自分がショックを受けていることに気がついた。自分は夏目さんが好きなはずだ。なのになぜ。幼馴染みをただ、独り占めしたい独占欲でもあるのだろうか。

秋の文化祭で、圭は優希に告白する。
優希の返事は、好きな人がいるから、だった。
だが落ち込んだところでシフトは回ってくるのだ。
「圭ー、シフト、交代だよー」
加奈子が圭を呼びに来た。
「なんだ、落ち込んでんな」
大谷も一緒だった。
「慰めてやりたいとこだけどわたしも仕事あるんだよね」
「え、シフト終わりって言ってなかった?」
なぜ大谷が加奈子のシフトを把握しているんだ? と、圭は疑問に感じた。
「ああうん、そうなんだけど。部活の方で、シフトは入ってないんだけど、ものの移動頼まれちゃって。大谷、圭を慰めといてよ」
「りょーかい。ほらいくぞーまずは仕事だー」
圭は嫌々ながら立ち上がった。
移動しながら大谷に問いかける。
「お前、なんで加奈子のシフト知ってんの?」
「え? あー、俺、シフト係だから」
「全員分覚えてんの?」
「お前に夏目さんのシフト教えたの誰だと思ってんだ」
「……」
大谷は自分が墓穴を掘ったことに気がついた。シフトを教えた、つまり、大谷は圭が告白したことを知っていて、この落ち込み様から、ふられたのだとわかっているにもかかわらず、言及してしまった。
「ごめん」
「いや……。加奈子にも言わなきゃな」
「おま、振った子に恋愛相談なんかしてたわけ?」
自分の名誉のために、圭は経緯を説明した。
「あ、飯浜、あの時のこと言ったんだ」
圭は先ほどから、加奈子と大谷の仲の良さを見せつけられているような気がしていた。自分が一番仲が良かったのに。その黒い感情は、優希に振られた落ち込みを飲み込んでいった。

文化祭最終日、加奈子と圭は同じシフトだった。
「このシフトが終わったら最後の自由時間だねー! どこまわろっかな」
と、圭はいきなり話題を変えた。
「俺フラれたよ」
「……おお。えっと、つ、次があるさ……。ほ、ほら、シフトあと10分だしさ、自由時間謳歌して、てのもおかしいか、いやでも、えーと、、、」
「一緒にまわんねえ?」
「ごめ、あの、こう言うのもなんだけど、優希ちゃんと約束してて……」
「あ。そう……」
地獄のように気まずい10分を終えた時、加奈子のスマホに2通のメッセージが届いた。
夏目優希:ごめん、10分くらい遅れます
大谷理玖:夏目さんに時間もらったので、屋上下の階段に来てくれない?
出しっぱなしのスマホのメッセージは圭の目にも映った。
とっさに出た言葉、それを聞いた加奈子は不思議そうに笑った。
「なんで?」
少女漫画のヒロインのように、ときめくわけじゃないんだな、と加奈子は冷静な頭の中で考えていた。
「じゃ、行ってくるね」

彼は気付くのが遅すぎた。

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少女漫画の一途なヒロイン、好きなんですけど、それを蔑ろにしたり、気がつくのが遅いヒーローがあまり好きではなく、反対にそばで支えてくれたりする当て馬ポジが好きだったので、こんなことになってしまいました。
四阿シキ

20211113改稿

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