2001.9.11 8:14 Tue あの日のわたし。
あの日。あの日の朝。
一週間前なら WTC のオフィスにいたはずの私は、自宅にいた。
ムスコが1月に生まれ、産休のあと職場復帰したものの、週に数日は在宅勤務をしていた。最初は月曜は在宅、火曜は出社していたけれど、どうも週の初めはオフィス勤務のほうがいいと判断し、まさにあの週から月曜は出社に切り替えた、その翌日だった。
赤ん坊のムスコがいては仕事にならないからデイケアに預けていた。駐車場に戻ろうとエレベーターの前で待っていると、数人がわさわさと騒いでいたが、なんのことか分からず気にもとめなかった。
家に戻ると、取材したコンサル会社の社長が「大丈夫ですか?」とメールをしてきて、なんのことだろうと思っていたら、がんがん電話が鳴り出した。
「テレビつけて!!」
それから、だんだん電話がつながらなくなった。夫のオフィスはミッドタウンだったから無事なのはわかっていたので、それほど慌てなかった。
私の無事を確認したい人たちからの電話がなかなかつながらず、私からの電話もつながらず、メールは送信できたのかどうか、覚えていない。
それでも。何度も何度もかけていたらしい弟からの電話がつながった。
某氏から電話が入ったのも、なんとなく覚えている。911を境に日本からの出張はなくなり、私も子持ちになったから東京出張はしなくなった。
オフィスにいた同僚は、階段を駆け下りて避難し、ビルから出る時に、消防士達がその同じ階段を駆け上っていったのをみている。その数分後にビルは倒壊した。オフィスにむかっていた同僚は、目の前で飛行機がビルに突っ込むのを目撃した。
あの時間なら、私は間違いなくオフィスにいた。
階段を駆け下りて、助かっていたはずだけど、外にでた瞬間にビルが倒壊し、瓦礫の中をさまよって避難したに違いない。
親しくしていた大学の先輩が 911 で亡くなった。彼女の行方が確認できないので、ご主人が NY の同窓会を通じて私に連絡をとってきた。妹さんからも連絡があり、以来ずっと年に一度クリスマスカードと年賀状のやりとりを続けている。
遺骨は見つかったのだろうか。のちに、彼女のお墓をどうするかと彼と彼女の家族とがひどく揉めているという話を聞いた。彼は遺骨が見つかるまでは空っぽのお墓なんて建てたくなかったんじゃないだろうか。
あのテロ事件以来、イスラム教というと危険な宗教というイメージがつきまとった。近所の中東系レストランがこぞって星条旗を掲げ始めた。
あれから20年以上がたっても、911 というと私ですら身が固くなるような思いがするし、"Remember Pearl Harbor" とともにアメリカ人の記憶から 911 が消えることはないだろう。
"What happened on September 11, 2001?" は、米国籍取得テストの質問の一つにもなっている。
数年前に、大学生の息子がオーケストラの遠征旅行でインドネシアにいくことになり「あそこは世界でも一番イスラム教徒が多い国だから」と言葉を濁した母親がいて、私はそんなことを考えるのかとびっくりしたことがある。
オンラインの生涯教育プログラムで、私は世界宗教のクラスを受講したことがあるのだが、イスラム教徒が一番増えていると知ってびっくりすると同時に、「女性蔑視の宗教」という見方があるのはわかるけれど、その教えの正しさを知った。
極端な方向に走るセクトがおかしなことをやらかすのは、イスラム教もキリスト教も同じ。イスラエルとパレスチナの争いをみていると、ユダヤ教も同じかと思う。仏教だって、僧兵がいた時代がある。
去年の夏にここに引っ越してきて以来、お隣のパキスタン人家族と仲良くしている。ムスメと二人で荷物を運び込んでいるのを見た Zulfi が、なにか手伝えることがあれば、と声をかけてくれた。「男なんか不必要」をスローガンに母娘でなんでもやりくりしていたけれど、あんまり何度も「しつこい」からムスメが一度でいいから何か頼もうと言い出したのが、付き合いの始まりである。
配達された家具を運び入れるとか組み立てるとか、Zulfi は親切に手伝ってくれて、お互いを紹介し合う会話の中で、自然とイスラム教の話になった。
Zulfi 家族は、ユダヤ教でいう Kosher に似た(なんていうといやーな顔をされるが。笑)Halal を守っている。お酒は一滴も飲まないし、豚肉は食べない。魚介類はよくて、鶏肉と牛肉、羊肉などは Halal 処理したものしか食べない。
イスラム教の一夫多妻制は、男尊女卑の例に必ず挙げられるけれど、多妻をもつ経済的負担は相当なもの。そして Zulfi と Asma はとても仲のいい夫婦だから、そんな彼らが信仰するイスラム教、というイメージが、私の中にうまれた。
私が某氏とごたごたゆらゆらしていた時期に、Diana が読めといって Amazon から直接送ってきた "he's just not that into you" という映画にもなった本がある。
私とムスメの旅行中に配達になり、Asmaに預かっておいてくれと頼んだ。うち宛だと知らなかった Zulfi が開封して、その本のタイトルを見て絶句。
"What am I doing so wrong, Asma?" と混乱しまくった Zulfi 。
Asma が「彼が間違って開封しちゃったのよ」とだけテキストしてきて、「大丈夫、気にしないで。帰宅する前に玄関の前に出しておいて」と頼んだのだが、今度は最初に玄関にたどりついたムスメがその開封されたパッケージの中身を見た。私が後からいくと、ちょうど Zulfi がでてきて
What is that book about?! と私に向かっていうのと同時に、
Mom! What a hell did you order?! とムスメがすごい顔になる。
アマゾンから何が届いたのか確認してなかった私は、その瞬間にようやく Diana が送ってきた一冊が一騒動起こしたことに気づき、大笑い。
I don't even know what this book is about!
笑笑笑。
夏休みで三ヶ月もパキスタンに帰っていた彼らが、数日前に戻ってきた。子供たちの声が聞こえ、窓の外を覗くと家族でどこかに出かけるらしく、駐車場に向かっている。
子供達の声が聞こえると、心があったかくなる。
なんか、いいよなぁと思っている。
ただただ好きで書いています。書いてお金をもらうようになったら、純粋に好きで書くのとは違ってくるのでしょうか。