これは日常の謎ではなかろうか、え?違う?

この話を思い出した時に一緒にフラッシュバックされた光景は、朝早い電車の中に、自分一人きりで、約束していた友人もなくポツンと座っている、というものだ。

東京に暮らし始めてもう17年程になったが、元々の生まれと育ちは、今でこそ雪不足と言われているが1年の4分の1は雪に埋もれているようなところで、電車だって1時間に1本、多くて2本の田舎だ。

自慢なんか、家の屋根から飛び降りても平気なほど積もる雪や、4年に1度の冬のスポーツの祭典がきたことくらいしかないような村だ。市でも町でもなく村だ、治めているのは『村長』だ。今どき村長なんてRPGくらいでしか聞かないだろう。偏見です。

東京みたいに電車が分刻みでくる環境に馴染んでしまった今から思うと、高校時代の友人達と毎日『明日、何時電で行く?』という会話が成立し電車で待ち合わせるということが出来てしまう(車両も2両しかない)というのは結構驚きだ。

あれはもう20年前の、高校3年の1月だったと思う。まだスマホなんてものはなく、ガラケーの液晶もようやくカラーになり始めたころだ。着メロってなんですかって感じだ。

部活が終わって帰りの電車の中、いつも一緒にいた友人たちと『明日は何時の電車で行く?』という『明日の天気は?』というのと同じくらいお決まりの会話を交わしていた。

結局『じゃあ明日は7時頭の電車で』という約束を交わし僕は最寄り駅で他の皆より先に電車を降りた。深々となんて幻想的なものではなく、ドカドカという印象で雪が降り、駅には学校帰りの子供たちを迎えにきた車が数台止まっている。

翌朝、起き抜けの回らない頭を冷水での洗顔で無理やり回転させ、準備をして家を出る。家を出る直前の『駅まで送ろうか?』という親の申し出を断り駅までダラダラと歩く。ちなみにどれほど田舎か追記すると、未だに最寄り駅は無人駅だし、僕は駅まで歩く中で過去、猿と狸と狐と栗鼠と鹿を見たことがあるし、熊の目撃情報だってある。

駅の待合室で電車を待ち、数分待ってホームについた電車に乗り込む。乗り込んだ瞬間に僕は異変に気付く。僕の背後で電車のドアが閉まり、ゆっくりと電車が動き出す中で僕は隣の車両含め周囲を見渡す。

誰もいない。運転士と僕以外にその電車には誰も乗っていないのだ。電車の揺れにバランスを崩しかけ、近くの席に腰を下ろす。あらためて見まわしていても誰もいない。隠れる場所もない。何よりも約束していた友人たちがいないのはおかしい。異空間にでも迷い込んだような風景に、電車の動く音だけが耳に残る。

僕はすぐさま携帯電話を取り出し時間を確認する。7時も過ぎ、時間通りに電車に乗っている。時間を確認し友人に『電車乗ってるけど、いる?』とメールを送った。

まあ子供ではないし、もうこのまま学校に行こうと思いイヤホンを付け音楽を聴く。当時で言うとCDプレーヤーだ。知ってます?

しばらく眠りにつき、携帯電話の振動に目を開ける。友人からの『今乗ってるけど、電車』というメールに混乱する。慌てて今一度周囲を見渡しても誰もいないのだ。『7時の電車?』と返信をするとすぐさま『そうだけど、そっちこそどこにいるの?』という返信が届き、いよいよ異空間にでも迷い込んでしまったのではないかと思った。間違いなく僕は友人たちと約束した時間の電車に乗ったのだ。


そのあとすぐに謎は解けて僕は『フフッ』と小さい笑いを漏らした。異空間でも異世界でもなかったし、まあそういうこともあるかと思った。これでその日の昼食の会話にいいネタができたとも思ったものだ。

とても簡単なことだった。まあ何が起きたのかは次回にでも書こうかなと思う。これを見た人は考えてみるのも面白いかもしれない。ちなみにみんなで僕を騙していた、とかではない。

では。



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