花は遠し

 馬鹿馬鹿しいよな、と君が言うのばかりを聞いていた。そんなことを言う君の方こそ馬鹿馬鹿しいのだと思っていたけれど、どうにも君にはそういう感性はないらしい。別に、良いけれど。だって君の感性は君だけのものだし、勝手に他人が弄くり回して良いものではない。
「いじめ、じゃないんだって」
君の声がいつだって後悔を伴っているのは、何も出来なかったと思っているからだ。前提が違うのだと、言ってしまえたら良かったのか。君のセンスが、特に花を選ぶセンスがないことを、言ってやるべきだったのか。これこそ後悔かもしれないな、と思う。君のそれよりずっと後悔らしい色をしているような気がした。
―――キャンバスも、パレットも、
持っているものが一人ひとり違う。そんなことはヒットチャートに乗るまでもなく分かりきっていることだった。それを今更掘り返すのは無駄な行為だと、そんなふうに思うのは冷たいだろうか。誰かの言葉を借りなければ何一つ喋れなくなってしまった君を見ていると、そうやって思う。…やっぱり、冷たいだろうか。こんなのを聞いたら、君は怒って、そしてすべて、忘れてくれるのだろうか。
 そっちの方が、よっぽど、良い気がするのに。
「宝井たちはただ、遊んでたつもりで、だからお前のことだって事故で、お前らは仲の良い友達だったから、宝井たちも落ち込んでるって」
伝聞なのはどうしてだろう。君が何も見ていないからなのだろうか。
 馬鹿馬鹿しいよな、と君はもう一度言った。多分、宝井たちを恨むことだって上手く出来ないんだと、それくらいは分かった。友達、と君は言ったけれど、やっぱりそれは宝井たちに使われる言葉ではなく、君に使われるべき言葉だと思った。
―――ごめんな、
君は言わない。そうやって言う資格がないと思っているから。
 花が。
 揺れていた。
 君が選んだ、センスのないやけにけばけばしい花が、うっかり首を吊らされてしまった僕のように揺れていた。



▼詩集
 きみの花
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