どれが傷ですか。

嘘を吐くのが苦手です。
口からでまかせを言うのは得意なのに、それを嘘を認識するとてんでだめになってしまう。それ以外の動きを忘れたみたいに。出来ることを出来ないと言うことが出来ません。出来るけれども能力以上のことを、断ることが出来ません。出来ることを褒められても困ります。出来ないことを責められても困ります。あなたは言う、どうして、と。わたしが聞きたい、どうして、と。あなたの世界では何が普通ですか。何をもってして普通と言うのですかどうしてわたしを普通ではないと断じるのですかわたしの何処を可笑しいと思っているのですか。
ひといき。
この爪はきれいにならない。消してしまうから、ぶつかるのが嫌だから。なんだって言えたけれど、嘘だけは言えなかった。わたしがスカートを嫌がるとあなたは悲しんだ、わたしが髪を切ってしまってもあなたは悲しんだ。何が求められていましたか? 分かりません、きっと、あなたも分かっていなかった。枠が何処にあるのか分からないわたしに、せめてものロールプレイをさせようと、それはあなたの慈悲だったのでしょう。いらないけどな。
駅を歩くと、あなたがぶつかってきます。可愛い顔をして、わたしを責めます。どうして守ってくれないの。どうして、のその先がつくようになったね。あなたのそれは暴力だった、認めてくれなくてもいいよ。わたしは真実しか言えない。わたしの真実しか言えない。あなたが認めてくれなくてもいい、謝ってくれなくてもいい、謝ってなんかほしくない、なんかそういうものなんだ、へえ、で流して欲しい。深刻に受け取らないで欲しい。わたしは何処にでもいるから、そうとりあげて考えないで欲しい。わたしはあなたじゃない、あなたもわたしじゃない。ただ、それだけだよ。
あなたが求めていることが分かってしまう、この脳のはたらきをなんと呼びますか。分かりません。此処だけ夏休みにして欲しい。科学電話相談させて欲しい。こころのはたらき、どうして人間はロボットになれないのですか? どうしてこころをいじると、むごいと感じるのですか?
わたしが二面記事になっても、わたしのことを忘れてね。
約束だよ、要らないよ、約束だよ、捨てちまえ。
あなたの世界を、
わたしは知らない。
わたしの世界に、
あなたは入れない。
そういうふうに出来ているから、もう、いいんだよ。夜眠れないのも、朝起きられないのも、すべてのニュースが悲しいのも、たくさんのみかんが生えてきてしまうのも、コミュニケーションが取れすぎてしまうのも、それをすべて捨てたくなるのも、あなたへの甘え方が分からないのも、ただのガチャの結果だから。あなたは神様がわたしをあなたにくだすったと言った。ならばこれはきっと神様の所為にしていいんだ。
出来るけれどもしたくないことを、したくないと言うにはどうすれば良いんだろう。花になりたいとは言えなかった、わたしはよく、それらを踏み躙るから。生命になりたくなかった、星でも嫌だった。わたしはもう、この世界に二度と出てきたくはない。だめかな?
ほら、あの角は素敵だね。きっと飛び降りたらきれいな放物線が描けるよ、そんなことばかり考えているわたしを、あなたは可笑しいと言った。そうかな、分からないな、別に明日海に行ったって、本当に死ぬとは限らないのに。その選択肢がいつだって胸にあるだけ、それを塗りつぶせと言われてもしたくはないよ、出来るけど。でもあなたに言えたことはないから、結局ずっと、なあなあになっている。
猫が鳴いた。
湿気が窓から入ってくる。
嘘を吐くのが苦手です。
だから、嘘を吐く練習をしている。これはその一貫だったけれど、ちゃんと出来ていたかな。嘘と真実の境界を曖昧にして、無難に笑っていた方が傷付かないって、そんな馬鹿なこと誰が言ったの。

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