「アイムクレイジー」は何を選んだのか?
人生には選ばなければいけない瞬間がある。自分の人生を完全に徹底的に生きるか、堕落した人生をダラダラと続けるかのどちらかを。
(劇中より)
カメラのレンズくらいちゃんと拭けばいいのに。「アイムクレイジー」の最初のシーンに抱いた感想だ。そして、ビビットすぎてかなり白飛びした絵づくり。なんだかいろんな部分がちぐはぐでホームビデオをみているみたいだった。
そんな映画を観た帰り道、初めてThe SALOVERSに出会った曲「china」を久々に聴いた。
ドレスデン 僕らは何かと差をつけたい。彼らも昔はそうだっただろう。
この曲を知ったのは、当時よく聞いていたラジオだった。その頃の僕はと言えば、高校でも家でも大して居場所はなく、というか居場所とかなんだよ、ふざけんなよ、みたいな気持ちで日々を過ごしていた。
ただ、そんな自暴自棄気味だった僕が唯一夢中だったのはラジオ「SCHOOL OF LOCK」だった。そこで行われていた10代限定の夏フェス「閃光ライオット」。高校生バンドがいくつ応募したデモ曲が並ぶホームページの中で僕が見つけたのが「china」だった。
そして、気がつくと彼らは最終ステージまで残り、審査員特別賞を受賞していた。その後、最終ステージに残ったバンド達の曲を集めたコンピレーションアルバムが発売された。
そのアルバムに収録されたサラバーズの曲は、僕が好きな「china」ではなく、「夏の夜」という楽曲だった。
幽霊たちは今夜も酒盛りをして
後悔 思い出話 歌にしよう
あいつら人間には内緒だぜ
「china」とは違い、ミドルテンポでどちらかといえば落ち着いた印象の曲だった。初期衝動っぽい「china」が好きだった僕からすると少し不満だった。
こんなことを思い出していると、イヤホンから次の曲が流れ始めた。
ねぇ、サリンジャー 今でも憶えてるかい?
「サリンジャー」の歌詞は、映画の冒頭、壁に殴り書きされた文字が映し出されるっけ。
突然、全てが、ちぐはぐでホームビデオみたいだった映画の全てが繋がって腑に落ちた。そして、泣きそうになってしまった。
そうか、これは古館くんの物語なのか。"サラバーズ"から"2"へ、彼が選択した現実。そして、映画の重要なシーンで、2の「LONELINESS BOY」が演奏し、主人公のユキは音楽を辞めると言う。
この映画は、現実とフィクションがかなり入り混じっている。古館くんの選択してきた結果こそが、俳優古舘佑太郎にこの映画の完成をもたらした。ただ、映画自体は、バンドマン古舘佑太郎のありえたかもしれない「選ばなかった」物語。
こんなに身近でありえたかもしれない現実を「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」のような台湾映画的な手法で描くことで、わざと現実っぽくなく見せている。言葉で説明してもなんだか分からないくらいぐちゃぐちゃだ。
もし、あの頃、あのコンピレーションアルバムに「china」が入っていたら、サラバーズはどうなっていただろうか。僕はどんな気持ちでサラバーズを聴いてきただろうか。
僕は、どこにも居場所がなかったあの頃を後悔なんてしてない。ただ、忘れないでおこうと思った。たとえ、サッドガールが忘れてしまったとしても。
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