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西表島の朝、サガリバナの花火・その④おにぎりの朝

後良(しいら)川での静かなサガリバナのお花見。お花見に付き物のと言えば美味しいご飯やスイーツだ。カヌーツーリングあたらすのツアーガイドYさんが、「朝ごはんにしましょうか」と小さなビニール袋を2つ手渡してくれた。そこにはラップにくるまれている、まん丸の小ぶりのおにぎりが2つ。1つには、卵ふりかけがまぶしてあって、もう1つは塩おにぎりだろうか。ツアーガイドYさんによると西表島の新米だそうだ。品種はひとめぼれ。
私の出身地である宮城県で生まれたお米が遥か南の島、西表島で育てられ幸せなおにぎりになっていた。

西表島は二期作が可能で、1月から2月に田植えをして、6月から7月に稲刈りを迎える。そしてまた8月に田植えをして、10月から11月には再び稲刈りをする。
私の住んでいる千葉では早い所で8月下旬に稲刈りをするところがあるが、7月に新米をいただくのは初めてだ。旦那さんと一緒に食べようと思い、我慢していたが、私はおにぎり大好きだ。3時半起きの胃袋が早くよこせと急かしだす。
こうなったら、カヌー操作は放棄。私は片手に少し余るくらいの可愛らしいまん丸に、おちょぼ口でかぶりつく。可愛らしさとは似つかない、ちょっと硬めに炊いてあるところが、空っぽの胃袋を刺激する。見た目以上の新鮮さが伝わってくる。私のほっぺは、すでに溶け、ポチャンと後良川落ちた。新米をしっかり噛んで味わいながらも、口元は緩みっぱなし。「フフフっ」と笑顔が止まらない。立て続けに2つ目のおにぎりにかぶりつく。カヌーに揺られながら新米に舌鼓を打つなど、非日常にも程があるわと、私は私に問いかける。
塩おにぎりだと思っていたおにぎりは梅干しおにぎりで、ちょっと甘めの梅干しが体に染みて、完全に西表島に朝が来たんだと感じさせてくれた。
おにぎりを食べ終わる頃にはリュウキウコノハズクの声もアカショウビンの声もどこかに隠れた。

パサッ…。

ほっぺたが落ちる音よりもささやかな気配。静かな世界に音を立てる。今日の太陽が現れて、サガリバナがタイミングを読んだかのように後良川の上に落ちた。
落ちたサガリバナに気を取られていると、視界に入る至るところでホロっと、サガリバナがこぼれる。葉っぱを触りながらこぼれる花もあれば、こぼれた勢いに影響されて、思わぬタイミングでもこぼれた花も見た。開花してから1日もこの世界を味わうことなく、ただただ咲いて虫たち蜜と花粉を分けて、こぼれる。
つづく。