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那覇、やちむん通りの三線

国際通りから程近い、やちむん通りの坂を上りきる直前に「壺屋民藝」はある。
沖縄の焼き物である「やちむん」の店だ。
我が家にある急須はここで買い求めたもので、おばぁちゃんが店番をしている。
やちむん通りには今どきのおしゃれな店も多いが、私は「壺屋民藝」の店構えが好きである。
店内が見渡せるガラス張りの店構えは、かつて実家の近くにあった瀬戸物を扱っていた「しなのや」に雰囲気が似ていてる。心象風景とでも言うのか、ガラス張りの向こう側にズラリと並べられている食器は私を引き寄せる。

10年ほど前の師走、黒地に緑色のドット柄の急須を買った。まるで暗闇に無数のホタルが飛んでいるような柄で、短足の三つ足は愛嬌があった。
「この急須を作った人はきっとこんな景色を見たんだろうね」
おばぁちゃんの一言が急須を買う決め手となった。
会計を済ませると、「これはクリスマスプレゼントね」と小さな楊枝壺をプレゼントしてくれた。

その次に訪れた際は完熟のシークヮーサーがあるから食べていってとお茶まで出してもらい、やちむん通りを行き交う観光客を見ながら2人で食べた。
こうして那覇を訪れる度に「壺屋民藝」に顔を出し、おばぁちゃんとの交流をひそかに楽しみ、楽しむ度に我が家には一つ、また一つとやちむんの器が増えていくのである。

今年の夏も琉球古典芸能コンクールの前日に時間を作って訪れた。
おばぁちゃんに何度か来店していることを伝え、今回はコンクールのために那覇に来たのだと伝えると、ちょっと待っててと店の奥に消えたおばぁちゃんは一丁の三線を出してきた。
昔、やちむん通りで買った三線だという。
「買った時には安里屋(あさとや)ユンタくらいは弾けたのよ」と三線に付いたホコリを払いながら見せてくれた。
せっかくなので「安里屋ユンタ」と「鳩間節」を披露する。長年弾いていないという割にはちんだみ(調弦)は素直に言うことを聞いてくれて、やちむん通りの石畳にピッタリな澄んだ音色だった。
おばぁちゃんは久しぶりに対面した三線をマジマジと眺め「孫に見せたら弾くって言うかな、久しぶりに聴いたけど、良い音するわね」と嬉しそうに呟いた。

翌日、無事にコンクールが終わった事を伝えたくて、「壺屋民藝」を訪れたが、残念ながら店は定休日だった。もう一度、おばぁちゃんの三線に触りたかったが、また次に沖縄に来る時に訪れれば良いだけのことだ。

やちむん通りの坂の上の三線は素直で穏やかな気持ちにさせてくれる三線だった。