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定義さん信仰は安徳くんと三角お揚げ

西方寺に行くことになった。
どこだ、そこ?と思ったら馴染みのある寺の定義さんだった。
「定義(じょうぎ)さん」となんの違和感もなく呼んでいたので、正式名称が西方寺だと知り、そちらの方に違和感を感じてしまった。

宮城県民は西方寺を定義さんと呼ぶ。
宮城県仙台市青葉区大倉にあるこの寺は平家ゆかりの平貞能が800年前に開いた。彼は後に定義(さだよし)と改名し、それを音読したことから定義さんと呼ばれるようになった。

初めて祖父母に連れられて定義さんを訪れたのは遥か昔、高校受験の願掛け詣が目的だった。
山奥にあると言う薄い印象が思春期のアンニュイさを物語る。
父曰く、わが家の定義さんに対する信仰は根強いと言う。父方の祖父母も母方の祖父母もここぞと言う時の神頼みは定義さんであり、年に一度の参拝は欠かさなかったという。
知らなかった。


ちょうど大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の劇中の壇之浦の戦いにおいてコテンパンに平家がやられて、幼い安徳天皇が壇之浦の海にプワーと幻想的に沈み、短い生涯に幕を閉じるシーンをやっていた。
その放送回の印象は強く、平家の無念さはリアルな出来事と勘違いしそうなくらいであった。平家側の必死さが伝わる山奥の奥の奥、平家からしてみれば、「もっと遠くに、もっと人里離れて隠れたい。」という生きる執念が伝わる山中に開いたような場所に思えた。
現代は道路が整備され、大雪でも積もらなければストレスフリーの一本道である。しかし、源平合戦時代の森林をよく掻き分けて生き延びたと感心してしまう。

近年、定義さんと言えば、サンドイッチマンが四方八方で絶賛している三角お揚げが一人歩きしているが、ぜひ三角お揚げを2枚、いや3枚ほど腹に納めつつも、平家の執念、安徳天皇の悲劇を肌で感じて欲しい。

3枚食べるを推奨

定義さんには、安徳天皇のために作られた天皇塚がある。8歳でこの世を去った安徳天皇が持っていたという品が巨木と共に祀られているのだが、時代に翻弄された安徳天皇の不運な運命と平家の思いが巨木の幹を複雑に波立たせているようだった。

「鎌倉殿の13人」に夢中になっていた私は、人目も気にせず「安徳くーん。」と叫ばずにはいられなかった。
理由はともかく、なんとなく祖父母の信仰心はこうして孫に受け継がれる。

安徳天皇の天皇塚

以前、高校受験合格のお礼参りに行きたいと何度も父にリクエストしたが、仕事場に近い定義山にわざわざ休みの日に行きたくないという父の、祖父母がそんな事を聞いたらキレてしまいそうな非信仰心のせいで、良い歳になるまでお礼参りが遅れてしまった。
今、思えばこのタイミングがベストだ。なぜなら少し前の私であれば、三角お揚げを食べに行くだけの目的で簡潔し、安徳天皇や平家の生き残りの事などを考える頭はなかったからでたる。

定義さん信仰にさほどない父親と安徳君などと軽々しく天皇を呼んでしまう娘を持つ我が一族である。
それでも定義さんへの憧れや崇め奉る風土を誇りに思い、定義さんの三角お揚げを他県の人々に自慢して歩いている。


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