稀なケースの勉強が生かされる時

心臓に腫瘍ができるケースがあります。
3万件ほどの患者の検査を見てきましたが、心臓の腫瘍はほとんどありません。

でもそんな稀なケースも勉強して知っておかねばなりません。

なぜ稀なケースが大事であるのか、世間一般の常識とはちょっと違いますが、説明します。

僕の仕事は、典型的なものを取り扱うのが大体8割くらい、非典型的なのが大体2割くらい、の感覚です。

それでも、経験の中に大体収まります。

これは全くわからんぞ、というのは年間数例くらいです。

典型的なもの、経験の内に収まるものは、仕事としては簡単な方です。
例えば、肺癌は見た目は派手ですが、これは肺癌と判定するのは難しくありません。

舐めているわけではありませんが、数が多くて形の決まっているものは、誰がやってもそれと判定できます。

ただ、心臓の腫瘍みたいに誰も見たことないといったものこそ、真価が問われると思っています。

心臓腫瘍学という本があり、22000円もした挙句に、絶版になっていたので、師匠に連絡したところ、わざわざ送っていただきました。

https://www.nanzando.com/products/detail/24361

大体眺めていて、いつこんなのにお目にかかるのだろうと思っていたら、
偶然心臓の影をぼんやり見ていたら、発見しました。

専門的な話ですが、石灰化の強い腫瘍が、心臓の左心房に充満していたので、
心臓粘液腫または心臓線維腫かなと判定しています。

こういう誰も立ち向かえなくてフリーズしている時に、普段から稀な病気について粛々と準備しているかで、反応できるかが決まります。(反応できないことも多かったです。)

反応できれば、運が良いと患者さんの役に立てることもあります。

普段からレパートリーを広げておいて、あえて見せたりはしないという生活を送っています。

あと、稀なケースを分析すると、
そのケースから意味のある教訓を引き出せることがあります。

先日経験したのは、肝臓が小さくなったように見える現象が立て続けにあったことでした。

速さとしては1週間単位で、教科書などには載っていない現象でしたが、

経験した数例はいずれもその後患者さんが亡くなっていました。

無くなる直前には、大量出血が起きたり、極度の脱水が起きたりしていて、血液の量が減っていました。

つまり、肝臓が縮んでいるように見えたのは、体内の血液の量が極端に減って、臓器の中の血流が落ちたからであるシナリオが浮かび上がってきました。

このように、稀なケースによって、新しい事実と出会うことができる場合があります。

物理学の研究ではアノマリーと呼ばれるそうですが、このように自然が織りなすレアなケースは、試練でもあり、学習の場でもあるのです。