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忍辱 第六場

■第六場
 愛実が刺された日から6日後の日曜日。夕方。基本セット。倫幸、大杉、鈴木、唐玄、絹代、哲修が井上家の玄関前にいる。少し離れたところに彩未と静香。富田家の二人は興味本位で自宅の窓越しに彼らをのぞいている。その周りには警官が一人。新聞記者とカメラマンが2名。カメラマンはしきりに井上家の外観を撮っている。絶え間なく続くシャッター音が、倫幸の神経をとがらせる。
倫幸 「異常者だ! これは精神を病んだやつの仕業に違いない! 」
大杉 「そうに違いありませんな。‥愛実ちゃん、可哀想に。 」
鈴木 「会長さん、落ち着いて。あまり興奮すると心臓に障りますよ。」
倫幸 「もうこうなったら、警察の指示など待ってられん! 町内での防犯活動を始めよう。臨時町内会を開かないとな。」
 そこに、タクシーが接近して停まる。井上家の家族が車から出てくる。時太郎を先頭に、愛実は信世に抱えられながら、ゆっくり歩く。カメラマンが写真を撮る。哲修・彩未・静香が愛実に駆け寄ろうとするが、新聞記者とカメラマンが邪魔で近づけない。
※彩未・静香 「愛実! 大丈夫? 」
※哲修 「愛実さん! 」
※新聞記者「愛実さん!! ご無事で何よりです。‥井上さん! 事件について何か一言、お願いします! 」
 新聞記者は、小型ボイスレコーダーを井上時太郎の口元に。
時太郎 「みなさんお騒がせしてすみません。娘の愛実ですが、無事退院できました。ただかなりショックを受けております。どうかそっとしておいてやってください。」
 愛実は、哲修の姿を見て、弱弱しく微笑むが、すぐ顔を伏せる。
省吾 「すっげーな。テレビでよく見るやつ、リアルでは初めてだわ。」
 そういいながら、スマホで何枚か撮る省吾。
未来 「写真はやめときなよ。」
省吾 「あとでTwitterにあげるんだ。写真いるだろよ? 」
未来 「やめなさいって。相手の身になってみなさいよ。」
省吾 「けっ。俺は刺されるなんて、ヘマなことしねえよ。」
 省吾は聞く耳を持たず、写真をもう何枚かとり、屋内に引っ込む。
 時太郎と信世は、倫幸達の姿を見て、出迎えたことの謝意をお辞儀で伝える。お辞儀で返す彼ら。
 愛実は、信世に促されて、顔をあげ、小さくお辞儀する。と、唐玄の姿を見て固まる。少しの間を置いて母親の腕に抱き着く。少し震えている。
信世 「どうしたの? 愛実? 」
 愛実は、小声で、しかしはっきりと言う。
愛実 「あの人。わたし刺したの、あの人。」
 愛実は、震える手で唐玄を指さす。小声を聞き取れたのは時太郎と信世のみ。時太郎と信世は愕然とした表情で唐玄を見る。
 何故指さされているかわからない唐玄は、怪訝な顔をして、それからとりますように微笑む。愛実は顔をそむける。

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