真夏日の昼下がり

■キャスト

道淵壮志郎(26)由梨の恋人

町田由梨(26)小説家志望

■第一場

 真夏日の昼下がり

 町田由梨(26)居住のマンション。和室。エアコンはなく、扇風機が回っている。由梨は汗だく。小さな机にノートPCを置き、座布団の上に座って画面を睨んでいる。時折キーボードを強く速く叩くが、長くは続かない。溜息。

 来客を告げるインターホン。由梨は無視する。玄関の鍵を開けるガチャガチャした音。うまく開錠できないようで、この音が長く続く。

 その音にいらいらした由梨は、座布団を外して玄関の方向に投げつける。

由梨 「もう! うるさい! 」

 ようやく玄関ドアの開く音。道淵壮志郎(26)がのっそりと現れる。手ぶら。

道淵 「いるじゃん。」

由梨 「がちゃがちゃうるさい! 玄関開けるだけで、どうしてそんな毎回苦労するわけ? 」

道淵 「連載のやつ? それとも頼まれてたエッセイ? 」

由梨 「エッセイ。締め切り明日だって、急に。‥‥だから、今日は無理。帰ってくれる? 」

道淵 「大変だなあ。熱いコーヒーでも淹れてきてあげようか? 」

由梨 「この暑いのに、大した気遣いね。どうぞ淹れてきて。あんたの顔に投げつけてやるから。やけど薬も一緒に持ってきた方がいいよ! 」

 道淵は苦笑。放り投げられた座布団を拾い、由梨のもとに。由梨はひったくるようにして、座布団を尻の下に置く。道淵の両手が由梨の肩に伸びる

由梨 「触らないで! 今そういう気分じゃないの。 」

 また道淵は苦笑して、由梨から少し離れ、畳の上で足を投げ出して座る。靴下を脱ぎ、足元に置く。じっと由梨の背中を見る。由梨はPC画面を睨むばかりで、キーボードは全く動かない。長いためいき。

由梨 「悪いけど、ほんと帰って。ギリギリなの。あたっちゃいそう。」

 由梨は頭を抱える。

 道淵は自分の顔を撫でながら、考えている。剃り残しの髭が顎に手にあたる。そこをポリポリと掻く。それから背中を伸ばし、ゆっくり立って、玄関へ歩く。閉める時も難渋したらしく、ガチャガチャした音。

 由梨は、道淵のいた場所を見る。沈んだ表情。

由梨 「帰っちゃった。 ‥‥靴下? 置き忘れる普通? 」

 由梨は靴下を拾って思案顔。少し臭いを嗅ぐ。顔を大きくしかめる。靴下を放り投げ、再びPCに向うが、だらしない姿勢。右手の指でキーボードをいい加減に打つ。

由梨 「あーあ。駄目よねえ、わたし。」

 再び玄関扉がガチャガチャ音を立てる。びっくりした由梨は、姿勢を正し、両腕をしっかりキーボードに乗せて、指を動かす。

 汗まみれの道淵が入ってくる。手にはビニール袋、やや息が荒い。大股で由梨のもとに歩み、爽アイスのバニラ味を机に置く。

 由梨はアイスを手に取る。

由梨 「ありがとう。」

 道淵は頷く

由梨 「だいぶ溶けちゃってるみたいだけどさ。」

 道淵は畳にあぐらをかくと、自分の分のアイスを取り出して蓋を開け始める。爽の抹茶味。

由梨 「えー、わたしもそっちの方がよかったなあ。」

 由梨は道淵の傍に寄り、自分のアイスを差し出す。

由梨 「はい、交換。」

 渋い表情の道淵

由梨 「だって、わたしのために、買ってきてくれたんだよね? 」

 道淵は渋い顔のまま、抹茶味を差し出す。満足げな表情でそれを受け取る由梨。二人目が合う。お互いに吹き出す。

 

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