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【ショートショート】スキマからのシアワセ

恋は猫でシアワセになったんだよ。

わたしには、あこがれの先輩がいるの。
でも、先輩はいつも佐藤先輩とつるんでる。

男同士の親友、ってやつ?
仲がいいのはいいことなんだけど、いつもふたりでいられたら、先輩に話しかけられないよ。

いまだって、学校にある池のまえに立ち、ふたりで楽しそうに話してる。
池の中の鯉でも見てるのかな。

ズボンのポケットに、両手を入れてる先輩の後ろ姿。
佐藤先輩に話しかけるときに見える横顔が好き。

あ、笑顔だ。

キラキラしてる。
キレイすぎ。
爽やか感がエグすぎる。

あの笑顔、真っ直ぐに受け止めたい。
あの間に入りたい。
あのスキマ。

ふたりの間にびみょうに空いている、あのスキマ。
飛び込みたい。
こう、手と手を合わせて、水泳のスタートで飛び込み台からプールへ飛び込むときのように、あのふたりの間にできてる、あのスキマ。

あの、ふたりの肘と肘との間にある、あのびみょうな距離にできた、
あの、あの、あのスキマに、飛び込みたい。

プールへ飛び込むときのように、

とーっ、て、

こう、

「とーーーーーーーーーっ」

って、

……………………

ん?

ハテ?

「み……みゆう、か?」

えっ? わたしの名前を呼ぶこの声は、先輩の声だ。
でもなんで、後ろから聞こえるの?

えっ、えっ、
わたし、両手を合わせて前に思いっ切り突き出して、なにこのポーズ。

「あ、やっぱり、みゆうだ。びっくりした」

という先輩の声に、振り返ると、目を丸くしてる先輩の顔が見えた。
なんてキレイな顔なの、と、言ってる場合ではないのかもしれません。

わたし、本当に、先輩ふたりのスキマに飛び込んじゃったみたい。

「いや、あの、えーと」

慌てて手を下ろして、頭も下げるわたし。
顔を見られるのも恥ずかしい。

わたしの後頭部あたりから、先輩の笑い声が聞こえてきた。
すぐに顔を向けると、あのエグい爽やか笑顔。

うわぁ、正面から見れた………表現するのに適してる言葉を見つけられません。

とりあえず、

頭をかきながら愛想笑いを浮かべてみる。

「みゆう、おまえは名前もそうだけど、行動も猫みたいだな」

笑顔のままの先輩、今なんて?
猫、わたしが猫?

わたしを見つめる先輩の目はキラキラしています。
もーう、その目に吸い込まれそう。
いいえもう、いっそ、吸い込まれてしまいたい。

「先輩は、………猫はキライですか?」

………

えっ、

わたし、何言っているの? 
キラキラした目に吸い込まれて、今、無意識に変なこと言ったよね、言ったよね、言ってない? いや、言ったでしょ、わたし。

え、なに、え、ど、どどど、どー

「好きだよ、オレ、猫、飼ってるし」

「ほへ」

ほへ?
いま、先輩、なんて?
猫が好きって、言ったよね、言ったよね、言ってな、いや言ったよ。

えー、なに、わたしは猫みたいで、先輩は猫が好きって、えっ、えっ

好きだよ、オレ、猫、
好きだよ、オレ、猫、
「オレは、犬が好きかな〜」
好きだよ、オレ、猫、
「もう〜、佐藤先輩の好みは聞いてませんよ〜」
好きだよ、オレ、猫、
好きだよ、オレ、ね…
……ん、今、なんか取り返しのつかないような人の心を踏み躙る暴言を吐いたような気がするけど、まぁいいわ。

好きだよ、オレ、猫

うわーっ、なんてステキな響きだろー
夢心地すぎて、クラクラしそうー
あー、シアワセ
わたしの恋は猫、

「みゆう、危ない!」

えっ、な〜んですかーせんぱ〜ぁい

”バシャーン!!!!!”

ひゃっ、冷たい!
水、なに?

あ、わたし池に落ちたんだ。ポーっとしててバランス崩して。
そういえばそうだよね、先輩たち、池の前にいたんだもんね。

この池は浅いから、座っていられるけど、鯉がいるんだよなぁー
うぇぇぇぇぇーーー

「大丈夫か」
という声と共に、先輩の右手が目の前に。

え、なにこれ、この差し出された先輩の右手。
わたしのこのなんの取り柄もないどこにでもあるような右手で握ってもいいの?
いいよね、いいよ、きっといいのよ、わたしは左利きだけど、大丈夫、そんなことはぜんぜん気にしていませんよ先輩。

こんなチャンスは、ないよ、ないわよ、積極的に握り返しましょう。

あ、あれ、佐藤先輩?  その手はなに?
なぜ、先輩の背中を押そうとしているの?
わたしに手を差し伸べて、前屈みになってる先輩の背中を押したら、先輩は………

「あーっ」

”バシャーン!!!!!”

大量の水飛沫。

横にはずぶ濡れになって、頭を激しく振る先輩。
あー、髪の濡れた先輩、太陽の光でキラキラしてるー。
ついでに先輩の髪の毛から飛び散る水のシャワー。

「佐藤、おまえなー!」
「ははは、お似合いじゃないか」

お似合い?

「鯉がいる池に、猫と猫好きが飛び込んだんだから」

と、笑う佐藤先輩に、先輩は立ち上がって池の水をかける。
じゃぁ、わたしも、どさくさ紛れに、一緒に水をかけてみる。

池の水が無くなるくらいかけ続けよう。
だって、とってもシアワセだから。


この物語をもとに、福島太郎@文学フリマ岩手8 ウー11さんがお話を書いてくれました〜
ありがとうございます😊♪


#シロクマ文芸部

【6月26日追記】
今回の登場人物が再び現れる物語を書きました。
↓↓よろしかったらどうぞ↓↓


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