兵役義務(徴兵制)は国家による男性に対する人権蹂躙である

兵役義務(徴兵制)は国家権力による男性のみを対象とした人権蹂躙であり苦役の強要である。最大にして最悪の "男性差別" である。残念ながら、たいていの軍隊組織は極めて不健全であり、理不尽ないじめ・シゴキや暴力が当たり前のように蔓延っているものである。国家権力が、ただ「男性に生まれた」という理由だけで、全ての男性を強制的にそのような組織へぶち込むのが兵役義務(徴兵制)である。これは極めて重大な人権蹂躙であり性差別であるが、そのことをまともに問題として議論されることすら無い。 
折しも、ロシアによる軍事侵攻を受けるウクライナにおいて、「18~60歳の全男性の出国禁止」という措置が当たり前のように取られている。もちろん、武器を持って国のために闘えというそういう意図であることは明白であろう。また、ロシアは徴兵制が健在の国であり、ウクライナへ出撃したロシア兵の中には、徴兵によって意に反して軍隊へ入隊させられたうえで、戦地へ連れてこられて破壊と殺戮に従事させられている者も少なからず居るのではないだろうか。考えるだけでおぞましいことだ。 

日本の隣国である大韓民国にも兵役義務(徴兵制)がある。2022年6月に、朝鮮日報が大韓民国の兵役義務(徴兵制)によって人権を蹂躙されている若年男性の悲惨な状況について、最新の状況を報じた。ここではその内容を紹介してみたい。

24歳大学生の話 
〇「軍隊は思い出したくない記憶」 
〇 「3日に1回は徹夜しながら任務に就いたため、服務期間中は常に熟睡できなかった」
〇 同じ大学の女性の同期たちが海外に語学研修に向かう中、休暇1日取るのに躍起になっている自分自身を見ては「一体何をやっているのか」と恥ずかしささえ覚えた。
〇 復学後の専攻授業では、簡単なプログラミング関数さえも覚えることができず、しばらく戸惑った。
〇 「他人は『最近軍隊が楽になった』と言うが、私の立場からすると青春の一部を犠牲にしたも同然」 

朝鮮日報が陸海空軍、および海兵隊現役将兵と兵役終了者、将兵の家族など2224人を対象に実施したアンケート 
(回答者の73.8%(1642人)は現役将兵で、兵役終了者は23.6%) 
〇 兵役経験者のうち89.4%は、兵役経験のない人々に対して 剥奪感(世の中の不公平のために自分が損をしているという感覚)を感じたことがあると回答。 
〇 回答者の 72.8% は「徴兵制は男性に対する差別」と回答。 
〇 将兵の 87.9% が「兵役が就職や学業などの社会復帰に障害となる」と回答。

22歳 陸軍1等兵の話 
〇 「家庭と学校では男女間に差別なく育ってきたが、とりわけ軍隊だけが何の補償もなく『男は行って当然』と言われるのは受け入れがたい」  
〇 「進明女子高校の生徒たちが書いた慰問の手紙のように、軍人を『軍カンス』(軍とバカンスを合わせた造語)、『軍バリ』(軍人を見下す俗語)と ばかにする女性たち を見ると腹が立つ」

23歳 昨年陸軍兵長として兵役を終えた男性の話 
〇 「軍隊は以前よりも居心地が良くなったのは事実だが、高齢者たちはその補償で軍加算点のような社会的恩恵を享受した」 
〇 「1980年代半ばまで現役判定率(徴兵検査で合格とされる率)は60%にも満たなかったが、われわれの世代は社会服務要員まで合わせると90%台の現役判定率で服務している」

24歳 昨年入隊した男性(公認労務士を目指している) 
「軍ではいくら努力したところで勉強時間の確保は難しい。私にとって入隊とは経歴の断絶を意味する」

24歳 大学生男性 
〇 「復学した学期にグループ別課題の班長を引き受けたが、ズーム(Zoom)で画像会議を開く方法も知らなかった」 
〇 「コロナ禍で企業の採用まで急減したが、単位(学業成績)のインフレを享受した後輩たちと競争できるか心配」

24歳大学生 
「卒業した同級生女子たちは、すでに就職戦線に乗り出しているが、私は大学の授業にも付いていけず、もどかしかった」

韓国国防研究院の責任研究委員 
〇 「20代の若さで1年6カ月を失うということは、人生のキャリアを揺るがすほどの大問題」 
〇 「人口減少により現役判定率が80%を上回る状況で、兵役による剥奪感をどのように解消していくか、社会全体が共に考えていかなければならない」

記事をもう一つ。

韓国健康保険審査評価院から入手した資料 
〇 2021年にうつ病と診断された20代男性は5万8649人(5年前の2016年(2万7891人)に比べて約2倍以上) 
〇 2016年には男性の全年齢層のうち、うつ病を患う20代が、10代、80代以上、30代に次いで4番目に少なかった。
〇 2021年は20代の患者が男性の全年齢層のうち最多。

専門家らの指摘 
〇 兵役に対するプレッシャーが20代の男性たちをうつ病へと追い込む最大の原因。

建国大学精神健康医学科 教授の話 
〇 「過去に比べて男性の感受性がはるかに敏感になった」 
〇 「高齢層の男性はうつ病を患っても隠していたが、20代の男性は『大変なことは大変なこと』と捉え、積極的に精神科を訪れる」 

精神健康医学科の専門医の話
〇 「精神科を訪れる20代男性の半数以上は軍隊での問題を打ち明ける」 
〇 「『ヘリコプター・ママ』という言葉のように、親の過保護・過干渉の下で育った若い世代は、家庭と学校で統制された経験が少ないため、軍で初めて経験する社会との断絶に対する不安と恐怖が大きい」

翰林大学聖心病院精神健康医学科 教授の話 
〇 「就職競争が激しくなり、若い世代が兵役を控えて感じるプレッシャーも共に増えた」 
〇 「20代初めから20代半ばの男性は学業断絶から来るストレスに苦痛を感じている」

26歳男性(2019年に陸軍除隊)の話 
〇 「分隊長時代、自殺すると言った後任を2人見た。1人は実際に手首を切った」 
〇 「2人とも普段から『なぜ私がここにいなければならないのか』『除隊後、社会に再び適応できるだろうか』という不安を口にしていた」

精神科疾患で現役入隊対象から除外される人は、年々急増している。兵務庁によると、
〇 神経精神科疾患により現役判定で不合格(5-7級)となった人数は10年間で2倍になった。(2010年の3401人から20年の6870人へ) 
〇 現役入隊したものの、精神疾患の問題で帰宅措置となった人数も10年間で3倍以上になった。(訓練所への入所後に精神科疾患で帰宅した入隊兵は、2010年は1468人だったが、2020年は4481人)

個人的には、このような記事がきちんと出されるようになったということがまず喜ばしい。兵役義務(徴兵制)では明らかに男性のみが著しい不利益を受けている。心身の健康を害している。この重大な問題をきちんと認識しようとする動きが出てきていることは、(ようやくかという呆れもあるが)素直に嬉しい。
また、若年男性がきちんと弱音を吐けるようになってきている印象を受けて、これも大切なことだと思う。男性差別や男性の被害者性に目が向きにくいのは、そもそも男性が弱音を吐いたり被害を訴えたりしづらいということが大きな要因であろう。(そのような行為を「男らしくない」として禁じられるのが、男性に対するジェンダー抑圧なのである。なお、その抑圧には 女性も加担している。これは社会全体の問題である) 
男性が弱音を吐いて何が悪いか。苦しい時に苦しいと言って何が悪いか。女性と同じ程度にそのようなことが許容されるべきだろう。法の下の平等が保障されているというのならば、当然のことだ。 
この問題は根深くて、まだまだ是正には程遠いだろうと思う。いばらの道であることは間違いないだろう。そもそも女性にとっては "他人事" であり、徴兵対象から外れた中高年以上の男性にとってもまた "他人事" である。そのこともまた障壁を高くしていると感じる。 

男性の中には暴力的で好戦的な人も確かに多くいるが、当然ながらそれが全てでは無い。体格が華奢で体力が乏しい虚弱な男性もいるし、乱暴なことが苦手で繊細な男性もいる。僕もまたその一人だ。徴兵制は、そのような男性たちにとって耐えられないような苦役を強要している、非人道的な営みだ。
僕は、「男性として生まれたから」というだけの理由で暴力と理不尽が蔓延る組織へぶちこまれて苦しい思いをする男性が、もうこれ以上出てこないようになることを心の底から願う。「男性だから」という理由だけで、意に反して武器を持って敵を殺すように国家権力に命じられ、心身を病んだり最悪の場合には生命を落としたりする男性がもうこれ以上増えないことを心の底から願う。
今も世界のあちらこちらで、乱暴なことが苦手な繊細な男性たちが、苦しんでいるだろう。それがただただ悲しいし、胸が痛むばかりだ。

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