【2年前の日記やさん】11月6日

2022年1月に頒布した『東京には大阪より16分はやく夜が来る日記』から、2年前の今日の日記を掲載します。


2021年11月6日(土)晴れ  大阪・笹

 朝起きて、母に「お誕生日おめでとう」と言祝がれる。前々からリクエストしていた単行本とともに「サプライズがあります」と袋を渡された。「ざらざらってして(袋をひっくり返して)」とのこと。言うとおりにすると、大量のドキンちゃん(アンパンマンチョコ)が! 二〇個あった。日々少しずつ、いろんな場所で恥をかきながら集めてくれたらしい。私が何に愛情を感じるのか、熟知している……。素直に、感動。

 その後、京都に進出。一ヶ月ほど読書日記を交わしていた(一週間に一度、日記を見せ合っている)音さんと、初対面。私の母校の書籍部をうろちょろしたり、オムライスを食べたり、ジェラートを食べたり、タリーズでコーヒーを飲んだりする。なぜか、ハロウィンメイク済の顔写真を(お互い)所持してはいたのだが、マスクがあるとかなり印象が変わる。コロナ期に出会った人すべてに思う。
 音さんは、大きく、揺るがず、一定のリズムを刻んでいて(四字熟語でいくと、泰然自若)ワンダーなものに憧れがあるそう。具体的イメージは、大きな犬、海、山、大空。雄大なる大自然、手に負えない生き物、もしくは、それらを魂にもつ人。優しく機嫌のよい獣。宇宙。ワンダーなるもの、たしかに、異様なまでにアトラクティブ。やっぱり、伊吹藍とかケンジとか、すげえいいじゃん? いいよなあ。健全な肉体に健全な精神が宿っている人。なんなら、宿らせたいもの。自分が。無理そうだけど。
「笹さんは、人畜無害であること、誰からも嫌われないことに、私より価値を置いていますよね」と言われて、「そうだなあ」と思う。非常に、その通り。私はよく知りも知らない人から嫌われたり、悪感情を持たれることをコスト(もっと言うと、リスク)と考えていて、多少体力を奪われてでも、愛想良く振る舞いたい、振る舞わなければならない、と思っている。そしてそれは、私の家族内でのポジションとか、家族それぞれの来歴とか、それを私がどう見てきたかとか、そういったものと無関係ではない。そしてもちろん、それだけがすべて、というわけではない。私にとって家族コミュニティが、折衝を伴うものだったというだけの話。関係の良さと日々の折衝は同居する。むしろ、関係が良く、コミュニケーションがあれば、当然折衝が伴う。結局、他人同士が寄せ集まっているわけだから。
 たくさんの話をした。たぶん、何度も繰り返したことも、これまで話したことと重複した部分もあったが、時と場所と文脈を変えて語り直すことって、そう悪いことでもない。京都は思ったより寒くなかったし、天気も良かったし、オムライスもジェラートもおいしかった。良い誕生日。
 
帰宅すると、アンパンマンチョコが追加配給された。弟が買ってくれたみたい。計二十四個、歳の数と同じになった。父から「明日ピザを頼むけど、飲み物はジンジャーエールでいいか」と言われる。「ほろよいのサングリアに興味がある」と告げたところ、それはすでに買ってくれていたようだ。母になんか聞いたんだな。

 グランプリファイナルのチケット、当選。同期から「あなたが同期でよかった」というメッセージとともにスタバ券が届く。祖母から電話が来ていたので、折り返す。二一時前に電話をかけ、最後に「早くお風呂に入って、寝なさい」と言われる。祖母の中にいる私には、まだ、いっしょに暮らしていたころの名残がある。もう二十年も前のことなのに。
 今日は良い日だった。こういう日もある。二十四歳の誕生日。

2021年11月6日(土)晴れ  東京・音

 ものすごくいい天気。笹氏との待ち合わせ場所に向かうタクシーで、運ちゃんが放つ「おおきに!」の洗礼に遭う。旅情。
 現れたバースデーガール(笹氏)(初対面)は、想定をはるかに凌駕してカラフルないでたちだった。あまり装いに興味がないと聞いていたので、勝手に、シンプルで落ち着いた色味の服を着ているのかと思っていた。違った。パーカーはピンクだしスカートはグレンチェックだしスヌードはノルディック柄だしトートバッグは赤毛のアン(?)柄だった。要素が多い。思ってたんと違う。思わず、「要素が多い!」と叫んだ。バースデーガールは「え~? ウフフ」とどこ吹く風。笑顔がまぶしく、目の光が強い。匂い立つ生命力を隣に感じながら、快晴の京都を歩いた。
 
 案内してもらった笹氏の出身大学は、とにかく広かった。比例して、生協の書店も広かった。広かった以外の感想が出てこないのは、私の通っていた大学があまりに狭かったからだ。(ほぼ)単科大学だった私の母校に比べたら、理系の実験施設や、病院まで擁する総合大学がめちゃくちゃ広いのは当たり前である。
生協の書店で、並んでダ・ヴィンチの星野源の連載を立ち読みしているいい大人二名(私たちだ)(買え)の横で、近隣住民と思しき老翁が、店員さんによくわからない繰り言を大声で展開。それ以外にほとんど客は居なかった。店員さんも大変だな。
 町を散策したあと、最終的に雑居ビルの地下にある、白色灯で照らされたタリーズコーヒーにたどり着く。
 お互いの推しの話や、家族の話、理想のパートナーシップの話などを双方勢いよくまくしたてる。ふたりとも、何度となく、「さっきの話につながるんだけど」「最初の話に戻るんだけど」と言ったと思う。なんかずっと、同じ話ばかりしていたのかもしれない……。サマリもしくはハイライトは、笹氏の日記に任せよう。
 
 笹氏と別れ、臨床心理士を目指して学生をやっているのだが最近はフランス哲学を専攻したくなってきたという友人(大学時代の同期)と会う。
私が最近昇進した、という話から、「いわゆるヒモと住むのもよさそうである。大人しくて精神的に安定した人がいい」と話したら、「大学院で俺みたいな人見つけたら紹介するわ!」と言われる。私の知る限り、あなたは大人しくも精神的に安定してもいないが……。なぜこんなに自己肯定感が高いんだ、とおののきつつ、「あなたみたいな人はそういない」と伝える。こういう(私から見ると)無根拠に堂々としているところが、彼の美点である。
広東料理屋で酢豚など食べたあと、大学生でごったがえしている河原町のコメダ珈琲でねばる。
ここ数年ずっと熱心に求愛しつづけていた彼氏持ちの女性がついに振り向いてくれそう、という華やかな話に続き、大学で勉強を続けるべきか否か、本当はもっと懸命に勉強すべきであることは分かっているがつい億劫でそれができない自分およびその結果としての人生をどう肯定すべきか、というハードな話が展開される。先週、医師の友人に言われた「別によくない? みんな頑張ってるんだから」の話をして、「人生をあまり俯瞰でとらえすぎず、その時々できるかぎりの頑張りを続けている自分を肯定することも必要なのかも?」と返答を絞り出す。臨床心理士になろうという人に私は何をさせられたんだ……。
 
昼も夜もとにかく一生懸命喋った。小腹がすいたのでコンビニでおにぎりを一つ買って食べ、お風呂に入って寝た。

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